15 撤退か否か
「提督、こちらが制陸権を取りました、残りのタグボートを全て出撃させますか?」
「うむ、引き続き四天王艦に攻撃を集中せよ」
「了解しました」
ここまでのところ、互角の戦いがつづいているが、連合軍には数の力があった。
敵は、どういうつもりか一艦しか出て来ていない。
要塞攻略戦に一隻しか出てこないというのは妙だった。
それほどに戦力が不足しているのか?
いや、それならば要塞に攻撃を仕掛けてくるのはおかしい。
理屈で考えると足をすくわれるのかも知れなかった。
「敵は、あの四天王艦が沈めば、撤退も覚束なくなる」
「はい、後ろに待機している陸上艦は、今のところ発見されていません」
哨戒に出している部隊からは、他に待機している艦は見あたらないという報告を受けていた。
竜脈上は陸上艦との戦闘がつづいているが、他の場所は普通に徒歩でもスクーターでも移動することができる。
要塞を迂回して索敵をつづけているが、敵艦は見つけられなかった。
「つまり、要塞を手に入れるには、あの四天王艦を痛めつければ十分だということだ。破壊する必要すらない」
「鹵獲できれば、更に言うことはありませんが」
「そこまで求めてもな、勝手に敵が撤退するだろう」
上手いことに、先頭の戦艦が盾になってくれている。
生きている乗組員には悪いが、一方的な攻撃を加えることが可能だった。
これは勝ったか。
五隻の艦を率いる提督は、そう思う。
現状のまま推移すれば、こちらが勝つのは目に見えていた。
気になる点としては、敵に撤退する様子が全く見えないことだが……。
「無茶な命令を出されたか? 撤退は許さないとでも?」
「帝国軍は理性的な場合が多いです。むしろ、連合の方が無茶な命令が多いですね」
副官が、冗談交じりにそう話す。
基本的に優勢な連合軍は、精神論で戦う風潮が見られることが多い。
一方、劣勢になりやすい帝国軍は、数の不足をカバーするためか、合理的な判断をすることが多かった。
「まぁ、気持ちをゆるめずに、攻撃をつづけろ」
「はっ、失礼致しました」
一時的に要塞を失ったのは汚点だが、すぐに取り返したのであれば、ギリギリで及第点だろう。
もしかしたら、四天王艦を拿捕できるかも知れないチャンスまである。
そうなったら、むしろ良かったと言えるくらいだが……戦艦を二隻破壊されたのは痛手だった。
陸上艦は貴重な戦力で、自分たちでは作ることもできない。
遺跡からの発掘も、無限ではないだろう。
「提督! 当艦の攻撃が命中! 敵、四天王艦の主砲を破壊しました!」
「よし、これで決まったな」
相手は頼みの主砲まで失った。
帝国の陸上艦は、主砲が強いことが多い。
賢人会議中立国との取引が盛んな連合は、最新のタグボートや副装備が充実しており、多様な戦い方ができるのが強みだった。
要塞からの攻撃は厳しいが、四天王艦さえ追い詰めれば勝ちなのだ。
撤退するには陸上艦が必要だ。
だが、その陸上艦は目の前の四天王艦しかない。
ならば、玉砕するつもりでもなければ、四天王艦が動くうちに撤退するのは確実だった。
「そろそろ、相手も撤退を考えている頃か」
「帝国の指揮官が冷静であれば、考えていると思います」
「では、逃げる隙を与えてやらねばならんかな?」
攻撃が苛烈だと、逃げることもできないのかも知れない。
ここで、戦いを長引かせても仕方がなかった。
「先頭艦の救助を急げ、生き残りを一人でも助けるのだ」
「戦闘中に救助を行うのですか?」
「戦いの趨勢は見えた、攻撃はつづけるが、人命優先に切り替える」
「四天王艦の稼働率が50%を切りました。活動限界に達します」
「そうか……」
稼働率が50%を先に切った方が撤退するというのが、おおよその戦いのパターンだった。
50%を切ると、逃げることもできなくなって、拿捕されるからだ。
駆逐艦などの、火力に特化した陸上艦は、戦闘開始と同時に持てる魚雷を撃ち尽くして撤退したりするが、今は戦艦同士だ。
「要塞主砲弾切れです! こんちくしょーめっ!」
「…………」
ここまで持ち堪えられたのは、要塞からの攻撃のおかげだ。
戦艦二隻と空母まで合わせて一対五、しかも、連合は大破した艦を盾にして戦っている。
先頭艦は、まだ動けたはずなのに、盾にされたんだ。
本来なら、一度下がって隊列の順番を入れ替えるものだが、戦艦を一隻犠牲にすることで要塞を奪取するという、トレードを考えているんだろう。
「…………」
四天王艦の主砲が破壊され、要塞主砲も弾切れ。
これでは、勝つ術がないが……僕には見えていた。
この戦いの結末が。
「艦長! 伝達です!」




