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14 一対五


 一条の煌めく光が迸る。


 四天王艦から放たれた主砲のエネルギー弾は、連合艦のスレスレを上空に逸れていった。


 惜しかったが、外したか。


 これで、あと一時間は四天王砲を使えない。


「艦長、すみません、四天王砲外しました……」


「いや、いい牽制になった! 攻撃をつづけろ!」


「はい」


 トリシアの悔しそうな声が聞こえるが、落ち込んでいる暇はない。


 砲手の役割は、外すことだと揶揄されるくらい当たらないものなんだから、気にせずつづけるべし。


「要塞主砲の装填完了しましたよ!」


「よし! 撃てッ!」


「ファイイイやぁぁぁぁぁぁぁぁッ! あああぁぁぁぁっ!」


 なんか、完全にイッてしまったみたいな声だったけど、手応えみたいなのが伝わってくるんだろうか。


 要塞は分解すると陸上艦の部分があるけれど、主砲部分は固定された砲台だった。


 戦艦から撃つよりも、よほど当てやすい。


「要塞主砲が、敵先頭艦に命中! 命中ですっ!」


 先頭にいる戦艦の横っ腹を抉るように命中していた。


 これは、なかなかいいところに当たったと思う。


 動いている陸上艦に、こうも正確に当てられるのは、さすがのマルリース少尉だった。


「敵先頭艦転覆! 二列目から攻撃来ます!」


「なに!?」


 二列目にいた戦艦の主砲が、四天王艦に命中していた。


 一撃でやられはしないが、結構なダメージだと思う。


「先頭艦を捨てる気か……」


 二列目の戦艦は、傾いている一列目の戦艦を盾にするように動いていた。


 スーベニアと同じだが……ちょっと容赦がない。


 勝つためなら何でもする、思い切りの良い艦長だった。


 こういう情け容赦ない動きをする艦長とは誰だろうか。


 まだ生きている先頭艦の乗組員は、恨めしく思っていることだろう。


 それは、他の艦にも伝染するし、次の戦いで噂になったりもする。


 知っている限りの情報を思い浮かべるけど……思い当たらなかった。


「艦長! 四天王艦の攻撃が、大破した先頭艦に吸われています!」


「…………」


 盾になった先頭艦と水平な位置にいる四天王艦の攻撃は、ほとんど防がれているようだった。


 逆に、相手は砲台の位置を上手く動かして、撃ち放題だ。


「先頭艦に攻撃を集中! 完全に沈めろ!」


 常に一対一になる戦いが、陸上艦の戦いの基本だ。


 だから、一対五でも勝てる可能性は十分にある。


 でも、こういうイレギュラーもあるにはあった。


「よ、要塞砲の攻撃を、せ、先頭艦に集中しますよー!」


 絶頂してヘロヘロだったマルリースが、コンソールにしがみつくようにして射撃している。


 もう、ぐっしょりなんじゃないだろうか……。


 タグボートは一斉に魚雷を放つと、後退して魚雷を再装填して戻って来る。


 その度に、迎撃魚雷で数を減らしているけど、こちらの被害も甚大だった。


 空母と戦艦のどちらが強いかという議論は終わらないが、前衛の戦艦と後衛の空母という組み合わせが強いことは間違いなかった。


「先頭艦沈黙! 完全に大破していますが、沈みません!」


 連合軍は、元味方で、しかも人間だ。


 少し気が咎めるが、こっちは追い出された身なんだから、仕方がない。


「魚雷で船底に穴を開けろっ!」


「ぎょ、魚雷、は、発射しちゃいますよーっ!」


 四天王艦の魚雷よりも、気持ちよさそうな声だ。


 やっぱり手応えなんだろうか?


 要塞から発射された魚雷が、先頭艦の腹に命中する。


 これで、少しは沈むペースも上がってくれるだろう。


「味方のタグボートが撤収していきます! 制陸権は敵に取られました!」


 空母から出てくるタグボートの数に、押し切られた感じだ。


 迎撃もしていたんだけど、人員の少なさも影響しているに違いない。


「タグボートは待機しろ! 機を見て再度出撃させる!」


 着弾観測で敵の精度が上がってしまい、こちらの精度は下がる。


 でも、敵には空母まで居るのだから仕方がないだろう。


 そこで、四天王艦のトリシアから連絡が入った。


「艦長、間違いなく劣勢です、撤退のご判断を」


 要塞を手放すのは惜しいけど、四天王艦を失うわけにはいかない。


 そういう意味では、ここが潮時というトリシア中尉の意見もわからなくはなかった。


「撤退か……」


「はい、ここまで追い詰めましたが……」


 悔しそうな顔で歯ぎしりしている。


 トリシア中尉の、この勝利への執着心はどこからくるものなんだろうか。


「いや、このまま攻撃だ! 勝機はこちらにある!」


「了解しました。死ぬ気で戦います」


 いや、死ななくてもいいんだけど、撤退はしない。


 まだ、こちらの勝機は十分にある。


 刻々と変化する戦場を観察しながら、僕はまだ勝てる見込みがあると考えていた。


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