13 守り抜く戦い
ニュートラルテリトリー側、要塞の真正面に四天王艦がどっしりと居座っていた。
いずれやってくる相手を待つように、今は牙を研ぎ澄ませている。
「要塞主砲の様子はどうだ?」
「ほぼ問題なく使えるけど、拡散弾の弾頭が二発しかないみたい、敵に空母がいると厄介かもねー」
主砲は、場所を移動させて、そのまま使うつもりだったのだろう。
今は、ニュートラルテリトリー側を向いているが、ダークテリトリー側に向ければ連合用として完璧な要塞になる。
「各種副砲塔は異常なし、いつでも行けマース!」
わくわくしているマルリース少尉の声が頼もしい。
ただのイカれポンチではなく、凄腕のトリガーハッピーならば、味方としては十分だった。
「しかしな……」
要塞の守備をたった一艦分の人員で全てこなすのは難しい。
基本的に余剰人員なんていないんだから、どこも人手不足になるのは目に見えていた。
でも……敵の援軍が来るとして、その攻勢を乗り切れれば勝機はある。
最悪は、後ろから連合艦が戻って来ることだけど……把握できない以上、考えても仕方がなかった。
「敵影確認! その数……陸上艦が五隻です!」
五隻か……元々いた二隻と合わせて、七隻で要塞の守備をするつもりだったのならば、適正な戦力だろう。
この五隻をしのげれば、味方の援軍が望める。
これ以上、連合の援軍がこなければだが……。
「構成は?」
「戦艦2、重巡1、軽巡1、空母1です!」
「…………」
空母有りか……タグボートが入り乱れるけど、四天王艦の迎撃力を信じるしかないだろう。
制陸権を取られると非常に厄介だが、対地迎撃能力は四天王艦も要塞も優秀だ。
タグボートの数は圧倒的に不利だけど、援護能力はこちらが上だった。
戦力拮抗できれば御の字ではある。
「敵魚雷接近!」
重巡と軽巡だろう、駆逐艦が居ない編成だから、大した威力ではないはずだ。
「冷静に対処しろ、魚雷は無視していい!」
ずずんと、重く響くような振動が伝わってくる。
スクリーンの四天王艦も、少しダメージを受けているようだった。
「被弾しました! 四天王艦は健在! タグボート来ます!」
将来の通信士候補なんだろう、トリシアが要塞の通信士に選んだ若い子は、必死になって仕事をこなしていた。
キャッチした事実を、ありのまま伝えてくれればそれでいい。
あまり肩に力を入れずにと言ってあるが……この状況で、それはまぁ、無理な話だった。
「タグボートを迎撃しろ! 要塞主砲の拡散弾を打ち切れ!」
空母が主だろうが、他の艦からもタグボートが大量に来るはずだ。
初撃でどれだけ迎撃できるかが勝負だとも言える。
「要塞から支援砲撃行います!!」
マルリースはワクワクを押さえられない感じだ。
子供に玩具を与えたように喜んでいるけど……まぁ、子供か。
「攻撃を密に、タグボートを四天王艦に近づかせるな!」
「主砲いっきまぁぁぁぁす! ファイイヤぁぁぁっ!」
司令室から主砲、副塔、魚雷、迎撃魚雷をコントロールできる。
ニュートラルテリトリー方面への砲塔は、もっとたくさんあったのだが、改造されてしまって、今はあまり多くは残されていなかった。
主砲は使うつもりだったのか、まだ残されていて良かった。
主砲から放たれた拡散弾が、宙から連合のタグボートへ降り注ぐ。
広範囲に降り注ぐ拡散弾は、陸上艦の装甲を抜くことはできないが、タグボートには絶大な効果があった。
多数のタグボートが被弾、炎上して、航行不可能になっている。
主砲に装填できる拡散弾は二発しかないようだが、二発発射したら四天王艦のタグボートを出撃だ。
それまでに、なるべく焼き払って貰おう。
「二発目急げ!」
その間を縫うように、四天王艦から迎撃魚雷が発射されていた。
連合のタグボートをこちらに取り付かせない、見事なタイミングだ。
撃破されたタグボートはロックしないように、要塞からの攻撃を待って発射したんだろう。
マルリースほどではないが、トリシアの砲撃もまぁまぁ上手い。
「二発目装填完了しましたっ!」
「よし、行けぇっ!」
「ファイイイやぁぁぁぁぁッ!」
最後の拡散弾が連合のタグボートに降り注いだ。
後は、こちらのタグボートを出すのみだ。
「四天王艦、タグボートを出撃させろ!」
「了解しました! 四天王艦タグボート出撃!」
四天王艦の側面と後部から、次々とタグボートが出撃していく。
タグボートの誘導で、射撃の正確さが増すのと、タグボート自体が魚雷を持っているので、陸上艦にダメージを与えられるのだ。
「連合の先頭陸上艦に攻撃開始!」
「待って艦長! 主砲の準備がまだだってば!」
「副砲でもなんでもいい、要塞が圧をかけなければ一対五だぞ!」
とは言え、先頭と次の戦艦を二隻倒せれば、連合は撤退するかも知れない。
そのときの、こちらの損害状況次第だろうけど……。
「敵タグボート、第二波が来ます!」
さすがの空母有り編成だ。
だが、要塞のタグボートはない。
あったとしても、乗組員がいなかった。
制陸権は四対六というところか?
十分に拮抗していると言える状態だろう。
みんな頑張ってくれている。
僕は、最後の瞬間に向けて、慎重に駒を進めていった。




