12 攻守逆転
「要塞のコントロールを奪いました」
「よし」
連合が撤退した後、兵が要塞に乗り込んで占領が完了した。
急な撤退だったはずなので、トラップの類は少ないだろうが、ゼロではなかっただろう。
技術班に、早急な要塞のコントロール奪還を命じたところ、予想よりも早く仕事が終わっていた。
第三皇女様は、本当に優秀な人員をこの艦に配置してくれていたようだ。
「置き土産が相当あったようですが、運用には問題ありません」
「時間ができたら、じっくりと取りかかりたいところだけど……残念なことに、ここはこれから灼熱の戦場になる」
敵の援軍が大勢やってくるだろう。
それを、自分たちでしのがなければいけない。
今度は、こっちが味方の応援を待つための戦いをしなければならなかった。
「わかっています、要塞と四天王艦に人員を割り振っていますのでお待ちください」
ソフィア少尉が、忙しくコンソールを叩きながら応答もしている。
誰がどこの配置なのか、実際に取り仕切っているのはソフィアか。
「砲撃手と指揮系統は問題ないのか?」
「大ありですが、現在の人員で何とかするしかありませんので」
指揮官は、僕とトリシアがやるしかないだろう。
しかし、砲撃手はマルリースしかいない……。
要塞と四天王艦の、どちらに誰を割り振るかは悩ましい問題だ。
「では、トリシア中尉とマルリース少尉は要塞側に移れ、四天王艦は僕が指揮する」
「四天王艦の砲撃手はどうするのですか?」
「指揮と砲手は僕が兼任しよう」
砲手自体はやったことがある。
四天王艦の砲手はやったことがないが、やってやれだ。
「やったぁあーっ! 要塞主砲を撃てる日が来るなんてぇっ!」
「程ほどに頼むよ、少尉……」
要塞主砲なんて撃ったら、一日動けなくなるんじゃないだろうか。
思ってて不安になってくるが、任せるしかない。
トリシア中尉がビンタでもなんでもして、イッてしまったマルリース少尉を目覚めさせるしかない。
「……反対」
「え? ユーナ少尉……?」
珍しく、ユーナ少尉が手を上げて反対だと言ってきた。
いつもは、あまり自己主張しないんだけど……。
「どの点が反対なんだ?」
「要塞の指揮を艦長が、四天王艦の指揮をお姉ちゃんがするべき」
「そ、そうか?」
第三皇女様から預かった四天王艦の指揮を放棄してもいいものだろうか?
要塞から、通信で指揮をするという手もあるけど……。
「ユーナはまたっ! お姉ちゃんって呼ばない!」
「駄目……ここは譲れない」
無口系の不思議っ子が意見を曲げないときは強い。
何とも言えない迫力と説得力がある。
なにか、こちらが間違っているんじゃないかと思わせる迫力と説得力だ。
「要塞との通信は可能なんだな?」
「可能ですが……これでは示しが付きません」
それは、姉としての示しなのか、上官としての示しなのか……。
でも、まぁいい。
「部下の進言を聞き入れるのも、上官の器量だろう?」
「甘やかしてはいけません!」
「僕が要塞の指揮を執る。マルリース少尉は着いてくるように」
「アイアイサー!」
「その間、四天王艦の砲手はトリシアが行え」
「……了解です」
「四天王艦の指揮も僕が執るから、逐一報告してくれ」
ソフィアにそう言うと、敬礼で返してくる。
人員の振り分けで、多忙を極めているようだ。
「では、行動開始」
「味方です! 援軍が来ました!」
要塞から撤退した陸上艦が、味方の陸上艦を探知した。
時間としてはピッタリだったが、少し早めに行動する人だったらと思ってしまう。
「よし、ランデブーポイントを探して後方へ行け」
狭い竜脈だが、二隻がすれ違えるような場所も所々に存在する。
行き来する際や、戦闘などでは重宝するポイントだった。
「いや、援軍が来たんだ! このまま回頭して先陣を切ればいい!」
艦長の命令に逆らうように、要塞副司令がそう主張した。
このまま、撤退するだけというのは格好が付かない。
せめて、艦隊戦の先陣を切ることで役割を全うしたいと考えていた。
「副司令殿、要塞内の人員と一番艦の乗組員をあわせて、この艦は飽和しています、戦える状態ではありません」
「し、しかし、このままでは、我々は敗残兵だぞ!」
「我々は負けましたが、最終的に味方が勝てばいいではありませんか。敵前逃亡したのではなく、撤退したのです」
「き、詭弁だ! 軍法会議にかけられても知らんぞ!」
「ふぅ」
艦長はため息を吐くが、軍人の気質としてはどちらが正しいのか。
死にたがりなところがある副司令の気質も、見方によっては献身的に映る。
「ランデブーポイント確認しました」
「よし、ぶつけるなよ、上手くすれ違え」
予定通り、空母を含めた五隻の陸上艦だ。
ランデブーポイントで訓練通りすれ違う。
「総員、敬礼!」
要塞副司令が、突然大声を上げた。
「は?」
艦長は意味がわからずに、そう聞き返す。
「この艦隊が、これから我らの失態を取り返しに戦ってくれるのだ、敬礼で見送ろう!」
「……敬礼」
この失態は俺たちのせいじゃなく、陸上艦の運用を間違えた司令部のせいだと思いながらも、艦長は面倒を避けるために敬礼をした。
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