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11 要塞の奪取


「出撃した二番艦が、大破した模様です……」


 一番艦の艦長は、顎に手を当てて考える。


 ここから逆転の目。


 あと三時間粘るための策……。


「……こりゃあ駄目だな、若造に撤退を進言しろ」


「し、しかし……」


「乗せられるだけの人員を乗せて撤退だ」


「か、簡単に言わないでください! 一体どれほどの人の命がかかっていると思っているんですか!?」


 艦長はため息を吐いて、下士官の肩に手を置く。


「ここで玉砕しても意味はあるまい?」


 その落ち着いた低い声に、心が揺さぶられる。


 最善を目指す自分が愚かなのか、夢想家なのか……。


「あ、後三時間で味方が押し寄せます。それだけ……たったそれだけの時間を稼げば良いんですよ?」


「その三時間をどうやって稼ぐつもりなんだ、さっさと進言しろ」


 絶望の表情を浮かべる下士官に、思い付く策はもちろん無かった。






「一番艦の艦長より伝達です、よ、要塞内の人員を全て一番艦に乗せるように進言しています……」


「馬鹿なっ! 撤退するつもりか!? 今、ここが落とされたら攻勢に出ている味方はどうなる!?」


 要塞副司令は焦る。


 撤退を進言してくる部下に、突撃を命じる映画のような無能上官の姿。


 それが正に今、自分に重なろうとしている。


「しかし、妙ではありませんか?」


「なにが妙だ?」


 副官の言葉に、救いを求めるように聞き返す。


 この状況のどこに違和感があるのかと。


「敵は四天王艦とはいえ、一隻しか姿を見せていません、何を狙っているのでしょうか?」


「この要塞を落とすのに、単艦で突撃はあり得ない、後方に様子を見ている待機艦があるはずだ」


 あまり収穫のないやりとりになってしまった。


 希望的観測が見せる幻のような違和感だと、副司令は考えるが、副官の感じる違和感は正しい。


 圧倒的な戦力差を見せて、守備隊を撤退させる方が理にかなっている。


 四天王艦の、単艦突撃には違和感があった。


「では、ここは、あえて要塞を奪取させて、三時間後に取り返すというのはどうでしょうか?」


 泥沼の戦いだが……それが狙いなのか?


 圧倒的戦力差を見せると、連合が要塞を爆破して撤退するなどもあり得る。


 だが、敵が寡兵なら要塞は取り返せるので、無闇に傷つけたくないと思わせることができる……。


 いや、あやふやだ。


 この劣勢で、根拠に乏しい答えを探そうとしているだけだ。


「敵としては、一時的にも要塞に籠もって戦えるのは有効です」


「…………」


 泥沼になってしまえば、勝利の女神がどちらに微笑むのかはわからない。


 要塞奪取には、悪くない手だと考えたか……?


「ここで戦力を浪費して、皆殺しにされるのは非効率か」


「はい……しかし、魔王軍はどうやって、この空白の四時間を知ったのでしょうか?」


「ずっと要塞を監視していたんだろうが……足りない戦力を要塞奪還に集中させてきたのは利口だろう」


 今ならまだ撤退できる。


 三時間後の戦いがどうなるかはわからないが……ここで粘る意味はほとんど無い。


「二番艦は放棄、要塞内の全人員を一番艦に乗せて撤退だ!」






「アルビナフォン要塞内より、陸上艦が現れました。戦艦です」


「なんだって? 撃破した艦がまだ収容されていないぞ?」


 竜脈上には、半壊した陸上艦が残っている。


 これは……。


「スーベニアですね。要塞防衛でこれを見るとは思いませんでした」


 一本しかない狭い竜脈の上で、一艦が破壊されるとどうなるかというと、一時的に通行ができなくなる。


 水ではないので、陸上艦は完全には沈まない。


 損壊した艦の上を砲撃でやりとりはできるが、陸上艦の通行は色々と制限されるのだ。


 細かくバラバラになるまで破壊しても良いし、多少の残骸なら押して前進もできるが、邪魔になる。


 これを、お土産、記念品という意味でスーベニアと呼んでいた。


「て、撤退していきます、敵艦は撤退!」


「追撃です! 撃てば当たります! 撃たなければ絶対に当たりません!」


 宝くじじゃないんだから。


 マルリースのことは、取りあえず片手で制止して、命令を下す。


「タグボートで要塞を奪取しろ。それこそ、置き土産があるだろうから、慎重に占領するんだ」


「その間に、あの戦艦を解体しますか?」


「いや、このまま四天王艦で押し込んで、ドックに入れよう」


「了解しました。四天王艦前進」


「砲撃は! 砲撃はどうするんですかぁっ! もうっ!」


 スーベニアがある以上、追いかけることはできない。


 撃てば嫌がらせにはなるだろうが、それよりも、今は次のことに注力するべきだと考えた。


「しかし、いやにあっさりと撤退しましたね」


 トリシアがいぶかしむ。


 勝てないと踏んだのなら撤退して欲しいというのは、兵士の本音だろう。


 だが、要塞司令官としては思い切ったと思う。


「まぁ、一時退避って事だろう」


「つまり、援軍がもうそこまで迫っていると?」


「そうだ、すぐに要塞を使えるようにしないと、再奪取されるぞ」


 援軍を要請しているのは、こちらも同じだ。


 これから先は、なるようになるとしか言えないが……物理的に、援軍の量は、連合の方が上だろう。


「こちらの援軍は間に合うでしょうか?」


「知りたいか?」


「いえ、遠慮しておきます」


 トリシア中尉は、ゴミ虫を見る目で僕を見る。


 ぱんつを見せろと言っているように聞こえるだろうけど……トリシア中尉は気が付いているんだと思う。


 僕がそう言っているということは、予知しているのだと。


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