100 帝都決戦
馬に乗ったルインが、要塞から遠ざかっていく。
森の中を進んでいけば、陸上艦に見つかることはないはずだった。
「何という無念……」
近くで街か村を探し、車に乗り換える必要があるだろう。
それでも、帝都での決戦に間に合うかわからない。
すると、進行方向に人がたたずんでいるのが見えた。
この辺りの人間だろうか?
車を持っていれば、買い上げたい。
ルインは馬を下りて話しかける。
「そこの男、名は何という? 私は帝国軍のルインという者だ」
「オレの名ねぇ……死んでいくアンタには必要ないモンだよ!」
フードの下から現れたのは、間違いなく勇者のリューだった。
ルインは身構えるが、その瞬間に……胸を刺し貫かれていた。
「カッ……クハッ……ルイー……様……」
その大きな体躯が膝からくずおれ、血を吐いて地面に顔を付けた。
「絶対障壁もこんなもんかよ、一対一なら、オレは誰にも負けねえ!」
不気味な高笑いが、辺りに木霊していた。
「結構逃げられたな」
「大人しく残る者は、危険が少ないのでいいでしょう」
投降せずに、逃げた者が多数いる。
追いかける気はないけれども、いずれ戦うことになるかもしれない。
要塞の接収作業が始まっていた。
兵士が野盗になられると困るので、元中立国にある捕虜収容所に送る手配を取る。
「ここにも戦力を残さないとな」
「そうですね、逃げた兵士が戻ってこないとも限りません」
とはいえ、帝都での決戦のことを考えると、あまり戦力は割けない。
ミリアが昔乗っていた上級艦と巡洋艦を一隻残していくことにした。
人出が必要な作業は、今やってしまおう。
後は、残った者に任せる。
この情勢で、組織的に要塞を攻めてくるところはないはずだ。
体勢を立て直す前に、帝都を叩いた方がいいだろう。
やるべきことをやり終えると、すぐに帝都スレシェントに向かった。
道中、悪さを仕掛けてくる者はいなかった。
魔族の土豪も、意味なく仕掛けては来ない。
足の遅い戦艦に速度を合わせながら、進軍していく。
「帝都の警戒領域に入ります」
「うん、手はず通りに」
「了解しました」
もう、他艦の艦長との打ち合わせは済んでいる。
今更どうすることもない、進むだけだ。
「帝都より、陸上艦が多数出現! 上級艦は見あたりません!」
「いきなり魔王艦は出てこないか……」
様子見ということもないだろうけど、まずはこちらの見極めか。
「さあ、ここが正念場だ。最後の戦場になるかも知れない」
「緊張させないでくださいよー」
マルリースは少し緊張した方がいいだろう。
アッシャーの部下が戦ったのか、帝都の入口は破壊されていた。
帝都から出てくる陸上艦も、傷ついているものばかりだ。
激戦であったのが忍ばれる。
でも、これは戦争だ。
傷ついていようが何だろうが、討ち取るだけだ。
「よし、ここで停止しろ!」
「各艦、ここで停止してください」
通信士のソフィアの仕事だ。
連動はまぁまぁで、きちんと僕の指揮に従うだけの力量は備えていた。
竜脈の狭いところで相手を待つ。
突っ込みすぎると、竜脈の広いところで包囲されてしまうからだ。
「攻撃に来ますか?」
「来ないだろうな、タグボート全機発進!」
「全艦、タグボート全機発進!」
相手は冷静で、こちらを攻撃には来ない。
焦っている様子はないようだ。
でも、時間を稼いでも、援軍は来ないだろう。
むしろ、全世界を相手に戦っているんだから、ジリ貧になるのは相手だ。
こちらから動くことはない。
「こちらは、長期戦になったって構わないんだ」
超長距離からの攻撃が、タグボートの長所だ。
激戦を終えたばかりでは、相手はタグボートの損失が激しいだろう。
迎撃魚雷も補充できているか怪しい。
「相手は疲弊しているようですね……やる気が見えません」
前面にいる勇者艦にも、攻撃は来ていない。
タグボートの攻撃隊が、魚雷を撃って戻って来る。
相手にも、それなりのダメージを与えているようだ。
さあ、どうする? このままジリ貧の戦いをつづけるか?
「敵艦に動き有り、こちらの竜脈に入って来ます」
タグボートの攻撃で、相手は渋々とこちらに打って出てきた。
一方的にやられるだけなら、打って出た方がマシというところか。
「よし、横列陣を敷け!」
「各艦、横列陣に移行!」
戦艦を横展開させる。
旧来型の陸上艦に、この攻撃が耐えられるはずがない。
案の定、入って来たばかりの戦艦が、集中攻撃を浴びて大破していた。
スーベニアになるが、押し出せるだろう。
「二隻目が来ませんね」
「お手並み拝見だな」
戦艦の位置を縦列陣に戻し、再び、タグボートでの攻撃にシフトした。
このまま削っていけば勝ちだけど、そうはならないだろう。
「いけるんじゃないですか、これ!?」
「早い早い、まだ始まったばっかりだ」
マルリースの言葉がフラグになったかのように、帝都から黒く巨大な艦が現れていた。




