01 決戦! 勇者艦隊
ゆるめにサクサクでいきます!
「エリオット! お前はクビだっ!」
突然の解雇通達だった。
軍に身を置く者として、それはあまりにもあんまりだ。
「し、しかし、このままでは挟撃されます」
「どういう根拠でそんなことを言ってるんだ? エビデンスを出せ」
「え、エビデンスと言われても……」
エビデンス……根拠を示す具体的な何かだけど……。
今、僕が乗っている勇者艦デインスパークは、真っ白な霧に覆われたダークテリトリーにいた。
他にも六隻の陸上艦が居るけれども、お互いが視認できないくらいの濃霧だ。
レーダーで味方艦は確認できるけど、あまり遠くは識別できない。
「確かに、この魔群山脈は竜脈が入り乱れており、挟撃される可能性のある地域です。しかし、この霧では相手もこちらを視認できないでしょう?」
勇者の参謀、リボルハード。
参謀部に勤める僕の直接の上司だ。
「か、勘としか言えないんですが……」
「勘? 勘だとぉっ!?」
勇者であるリューは、怒り心頭という感じだった。
魔王軍との決戦で、意気揚々と乗り込んできたのに、この霧に邪魔をされてしまった形だ。
そこに、僕が余計なことを言ったから……。
「エリン、斥候の報告はなんだった?」
「斥候からは……一時間前、前方に敵がいたという報告を受けています」
エリンは、僕の幼なじみで士官学校の同期だ。
ちょっとバツの悪い目で僕の方を見ていた。
キリッとしたネクタイで軍服を着こなしているけど、本当はやわらかな笑顔を見せる女の子だ。
前進するべきか、後退するべきか……。
勇者であるリューは、この場に留まるように指示を出していた。
濃霧の中、七隻の陸上艦は竜脈の上にプカプカと浮かんでいる。
参謀のリボルハードも、様子を見るということで何も言わない……。
「前から気に入らなかったんだよ! 勘だけで俺様の参謀になりやがって!」
「確かに理屈が通りません、少しはわかるようにエピデンスを示してください」
馬鹿にしたようなリボルハードの声に、恥ずかしさを覚える。
頭の良さでは、全くかなわないんだけど……。
「し、しかし、前進か後退をするべきです。相手に位置を掴まれていたら、挟撃を受けてもおかしくありません」
「なんだエリン? オレ様の指揮にケチを付ける気か? この視界ゼロの状況で、敵がどうやって動くって言うんだぁぁ!?」
エリンは、僕をかばってくれているんだろう。
ああ、エリンを悪者にはできない。
「わかりませんが、僕の勘がそう言っているんです!」
「もういい、さっさとこのクズを追い出せ、戦死扱いにはしておいてやるよ」
え? クビって……ここに置いていくって事?
このダークテリトリーのド真ん中で!?
僕は、勇者の取り巻き達に連れられて、艦から下ろされた。
「それじゃーなー、せいぜい勘を尽くして頑張れや」
「こんなの軍令違反です!」
意見しているエリンの肩を、勇者が抱くようにして見せつける。
「や、止めて下さい!」
エリンは離れようとしているけれど、勇者の力にはかなわない。
「エリン!」
「エリオット!」
「挟撃されるかどうか、しっかりと見ておけや、あばよー!」
ハッチが閉まる。
最後に見えたのは、エリンを抱き寄せる勇者のいやらしい顔だった。
とにかく、今はここを離れよう。
艦隊の戦いに巻き込まれたら、大変だ。
僕は走って竜脈から離れていく。
陸上艦は竜脈の上しか走れないから、戦闘に巻き込まれないようにするには、竜脈から遠ざかれば良かった。
岩の影に隠れて成り行きを見守る。
どうしよう……近くに村なんてあったか……。
スクーターがあれば手に入れて……いや、今は勇者艦が危ない。
勇者艦が撃破されたら、連合国はどうなってしまうんだろう。
いや、それよりもまずは自分の心配をしないと駄目だ。
他の艦に拾って貰う余裕はあっただろうか。
まだ、戦闘になってないから、あるいは……。
そこに、耳をつんざくような爆音が鳴り響いた。
護衛している戦艦二隻が、衝撃で艦を傾けている。
「挟撃されたんだ!」
煙の噴き上げ方から見て、結構深刻なダメージを受けているんじゃないだろうか。
止まっている陸上艦は狙いやすかっただろう。
すると、輪形陣を敷いている勇者艦隊の左右から敵艦の影が見えた。
大きさからして戦艦クラスだ。
自由連合国も魔族帝国も、戦艦はそんなに保有していない。
相手も、この戦いに本気だということだ。
それからの戦いは、連合国側の防戦一方だった。
後方にいた連合国の二隻が、挟撃してくる相手の背後に回り込もうとした以外は、大きな動きもない。
大破した味方の戦艦を盾にした戦いで、勇者艦の主砲が帝国の戦艦を沈めたけれど、戦果はそれだけだった。
勇者艦は、ジリジリと追い詰められていき、味方が四隻になったところで撤退していった。
稼働率は50%くらいだろうか、勇者艦もかなり酷い損害を出している。
挟撃された時点でとにかく逃げていれば、これほど酷い結果にはならなかったんだろうけど、勇者のリューは簡単には撤退を選ばない。
ズタボロにされてやっと、周りに説得されたんだろう。
霧に隠れていて、帝国がどれくらいの戦力を用意していたのかわからないというのも、原因のひとつだったはずだ。
お互いに戦力を投入しあった戦いだったと思うけど、魔族帝国側の戦力は、全てを見ることができなかった。
見えていたのは最初に挟撃した戦艦二隻と、一隻沈められた後に出てきた重巡が一隻だけだ。
これから、味方の艦の救助を行い、生き残りが捕虜になったり、大破した連合国の艦を回収したりが始まる。
帝国には捕虜の人権なんて無いと噂されていた。
だから、逃げなくちゃいけないと思っていたんだけど……僕は、霧が晴れたその後の光景に目を奪われていた。
連合側は勇者艦を含めて七隻もいたのに、帝国は……たったの四隻。
最初の戦艦二隻と、後から来た重巡、それに……真っ黒で巨大な戦艦が一隻あるだけだった。
お読みいただいて、ありがとうございました!
本日は、二話投稿いたします。
それでは、よろしくお願いいたします!