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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この崩壊した世界で私は旅をする。

作者: 鷹佳

小説の練習に投稿してみました。

 この世界は私が物心がつく前からもずっと平和だった。

 いや、私が知る限りの世界がそうなのだろう。だけど知り過ぎた日常はもう帰ってはこない。

 廃虚を取り巻くツル植物。割れたアスファルトから伸びる力強い雑草。隆起した地面から流れ出る水。

 ロマンチストやファンタジーな世界が好きな人なら美しいと思えるだろう。今ではそれが普通、私の日常だ。


 5年前の地球規模の自然災害。大陸が急速に移動しぶつかり合えば隆起し、大陸が移動すれば地震を起こして地面は割れた。

 地震が起きれば津波が起き、未曽有の大津波が沿岸部を襲う。

 言い出したらキリがない。だが人類はその間にかなり減ったと思う。今では生き物もほとんど見かけない。

 

私は今日もこの世界を旅している。

それが唯一生きていく術だからだ。

何処かに留まろうとはしない。ただゆっくりと崩壊した世界を歩き続けている。



◇ ◇ ◇



今日は山に位置する集落跡に唯一崩れていない民家で休んでいる。

誰も管理しなくなったからか、草木が生い茂って建物自体も朽ち始めている。それでも見てきた中では比較的原型を留めていた。

近くに川もあるし汚れた身体を洗うことも出来そうだ。


「これは中々に良い物件を見つけたんじゃないですか? 定住する気は無いけど。」


とりあえず中を覗いて荷物を置いてしまおう。





台所に色々な缶詰めがあったのは幸運だ。ここの住民は買いだめしていたようだが役に立つことはなかったようだ。消費期限はまだ過ぎてないし、有り難く少しだけ頂いていくことにしよう。

トマトソースの缶詰めの蓋を僅かに開けて網にのせて下からバーナーで炙る。今日の昼食はトマトソースと自家製堅パンだ。


「堅パンをトマトソースに浸して・・・・・・美味しい! 久々に豪華なご飯を食べられて胃も心も満たされるー。」

浸した堅パンがいい感じにトマトソースを染み込ませて柔らかくなり、口の中で絶妙に絡み合う。

普段は何も見つからなくて堅パンと水だけの時が多いから、味がつくだけでもかなり贅沢だ。美味しくて堅パン二個も食べてしまったよ。


昼食を食べた後は銃の清掃整備。撃つ機会はあまりないが絶対に使わないこともないし、日頃から砂っぽい所を歩いたりしているので内部が直ぐに汚れる。

なるべく銃口を布で塞いでダストの侵入を防いでいるがどうしても隙間から入ってくる。

ハーフライフル銃身の予備はあるけど機関部の予備は無くとても貴重。入念に清掃をして油を差す。


整備が終われば次は身体を洗う。

そう言えばこの家、庭に薪が置いてあるし、何かの煙突も見える。

もしかしたら五右衛門風呂があるのでは。

・・・・・・ありました。薪もあるし近くに川もあるし、これはドラム缶風呂以来の風呂になりそう。



◇ ◇ ◇



気持ちいい。お風呂に水を貼るのは大変だったけど苦労した甲斐があったというものだ。

ドラム缶風呂も良かったけどやっぱりちゃんとしたお風呂は最高だ。

偶然見つけた家とはいえ、私はつくづく運が良い。

昔も運が良かったお陰で何度も命拾いをしたな、確かあれは5年前だった――


 災害が起きた時は丁度、高校生最後の修学旅行で飛行機に乗っていた。

 機内に乗っていた私たちには地上の惨劇はすぐには分からなかった。しかし時間と共に機内が騒がしくなって、何が起きたのか分からなかった私は隣に座っていた幼馴染の親友がネットニュースを私に見せてきてようやく全容を知る事になった。

 その直後、飛行機が大きく揺れる。乱気流に入ったのかと思ったら左方向に引き寄せられる感覚がした。

 機体が左方向に傾き始めていたのだ。機内はますますパニックになる。

 次には機内の電気が消えて、急に静かになった。更にパニックになって何も考えられなかった。それに機体の傾きは止まらない。ふっと右を向いた時、大きな何かが落ちてくるのが見え、私の意識はそこで失われた。

 

 そして気が付くと私は逆さまになっていた。状況が理解できないがベルトがお腹に食い込んで痛くて、必死にレバーを上げようとした。けど引っ張られてるからなのかびくともしない。

 手の届くところにあった何かの破片を掴み、レバーに差し込む。取れた――と同時に頭から落ちてしまった。

 でも何か柔らかい物にぶつかったそんなに痛くはなかった。何にぶつかったのかと見ればそれは隣に座っていた親友……の死体だった。

 私は叫んだ、恐怖で叫ばざるを得なかった。周りを見ると機体の残骸に混ざるように散らばっていた死体の数々が見えた。

 正直気絶しそうだったが堪えた。今でも思い出せば気分が悪くなる光景だ。

 柄にもなく泣いてしまった。どこを見ても生きている人は見当たらない。私だけが生き延びてしまったと確信した。悲しくて、寂しくて胸が八切れそうだった。

 



 落ち着いた頃、私は見える範囲の死体を一か所に集めた。

 あのニュースを見ては救助が来るとは思えなかったが、なにもしないよりはマシだと考えた。

 力はそんなにないので少しずつ、毎日運んだ。

 同時に周りを探索して使えそうな物資をかき集めた。

 その時になってようやく気付いたが、辺りは森になっていたが津波で流されてきたのだろうか。周りには建物の残骸や標識のようなものまであった。探索してるときは近くに海があるようには見えなかったが。

 気味が悪くなりながらも結構使えそうなものを拾ってこれた。食糧もある程度集まったのでしばらくはなんとかなる。

 

 墜落してから一週間くらい経った頃だろうか、見える範囲の死体を集め終えた。

 一部のクラスメイトが見つからなかったのでこれで全部ではないだろうが私にはこれ以上探し出すことはできない。

 待っても待っても、救助も何も来なかった。見捨てられたかそれどころではないのだろう。

 でも死体をこのままにはしておけなくて、せめてもの供養をしてあげようと集めた死体の上に燃えそうなものを敷き詰め、漏れ出ていた飛行機の燃料を掛けた。

 本当は穴を掘って埋めたかったけど、道具もないのに100人近い人数を埋められる穴はとても掘れなかった。

 

 電池に機体から拝借した電線を括り付けて端子同士を繋いだ。熱が発生する前にそれを燃料の上へと放り投げる。ショートした配線が熱を帯び、熱に当てられた燃料が発火点を超えて燃え出す。学校で学習したことが初めて役に立った。

 

 燃えていく死体をじっと眺めていたらまた涙が流れてきた。 

 これからどうすればいいのか、全く分からない。高校生活が始まったころは一人でも大丈夫だと思ってたのに本当に一人になったら寂しさが溢れてくる。

 それでも、生きることは諦めなかった。生きる為に必死になった。

 生きる為にここを離れ、他の生存者がいないか探すことにした。




 歩き回ってようやく建物…もとい廃虚群を見つけた。

 と同時に所々に死体が見える。異臭が酷い。

 建物はほとんどが崩れているが何かあるかもしれない。そう思って近くの建物を調べていると後ろから何かが聞こえる。恐る恐る振り返るとそこにはボロボロの恰好でやつれた顔をした男性が立っていた。

 この惨事の中で初めて出会う人。嬉しさで感情が高ぶり、声を掛けようとした—―次の瞬間襲われた。

 男性は私の腕を掴み、遂には押し倒してきた。

 この惨事になって初めて会った人が、助け合うどころか襲ってくるなんて思ってもいなかった。

 必死に抵抗して近くに落ちていたであろう鉄パイプを掴み、力任せに殴った。恐怖から何度も殴ってしまった。気づいたら男性は頭から血を流して倒れていた。息をしていない。

 初めて人を殺めてしまった。生きてる人の命を奪ってしまった。手にべっとりと付いた血が生々しい。

 私は急いで逃げた。罪悪感で胸がいっぱいだった。

 追いかけてくる者は何もいない。それでも何かに追われている気がして気が気じゃなかった。

途中で雨が降り始める、私はずぶ濡れになってま構わず走り続けた。


 その日の夜は自問自答の連続だった。廃墟の屋根の下、寝袋に包まり、なんで私がこんな目に合わなくてはいけないのか。平穏な日常を返して。と変えることはできない現実に八つ当たりもした。

 日常は、失われた時に大事なものだと気づくとは言うが、まさにその通りだ。

 だが今更気づいても、戻らないものは戻らない。ただ時間が過ぎていく。

 雨は降り続く、それは私の心を表しているかのようだった。

 

 その翌日、雨具に当たる雨にうんざりしながら割れたコンクリートの上を歩いていると。損傷の少ない自転車を見つけた。ハンドルは曲がってるけど走れそうだ。

 道路も割れたり穴が空いていたりしているが自転車くらいなら走れる。私は跨ると颯爽と走り出す。

 雨が顔に当たるが吹き付ける風が気持ちいい。いつもは電車通学だったから自転車は久しぶりだ。

 そういえば昔は買ってもらった自転車でよく近所を探索していた。それで迷子になってたっけ。

 そう思い出に浸っていると急に前輪が外れる。前輪を失った自転車はフレームがコンクリートに引っかかって、自転車と共に私は前方に投げ飛ばされた。

 私は運よくコンクリートが割れて土が見えているところに突っ込んだから怪我はなかった。自転車は勢いそのままに転がって行ったようだ。

ハンドル以外は壊れていなかったように見えたけど、実際は脆くなっていたようだ。

 それよりも私は自転車が転がっていった先を見て鳥肌が立った。

 道路は完全に寸断され、数十メートルもあろう崖になっていた。

 行き止まりでもなく、崖下には元々繋がっていたであろう道路の続きが見える。

 そういえば道路の先が見えなかった。てっきり稜線になっていて、向こうは下り坂になっていると思い込んでいた。

 もし自転車が壊れていなければ私は生きてはいなかったであろう。もしかしたら神様が助けてくれたのかもしれない。この時ばかりは神様に感謝した。

 しかし目の前は崖、ここ後どこを進めばいいのかと難儀した。

結局は元来た道を戻ることになったけど。



 ……本当最初の頃は命懸けだった。気を抜けば死ぬ、そんな日々が毎日続いた。

 今ではもう旅行気分だ。

 それでも気は抜けない、その後も何度か襲われたこともある。

 襲われたと言っても人ではなく、飢えた肉食動物にだ。

 だが私は最初襲われた時をきっかけに自衛する力を付けていた。

 この世界では身を守れなくては生きていけない。そう本能的に理解したから。

 今では命綱となっているこのライフルも、もう5年は使い続けている。自転車の件の後、あの廃墟群を通らざるを得なかった時に銃砲店を見つけた。

 中は荒れていて殆ど何もなかった。だけど店の奥でひっそりと隠れるように強固なロッカーに仕舞われていたこの銃を見つけた。

 私は銃の扱い方は分からなかった。でも一緒にしまわれていた本に色々と銃に関する事が書かれていたのでなんとかなった。今では愛読書だ。


 最初の時以来人には会えていない。

 でも、この世界の何処かにいるはずだ。あの日を生き延びて一生懸命生きようとする人達が必ず何処かに――



「・・・・・・ヘックシュ! うぅ寒い。あれ、いつの間にか寝ちゃってた。ってお湯がぬるい! 温まった意味が無い、もう上がろう・・・・・・。」

 いつの間にか寝てて夢を見てたようだ。何かは起きた瞬間に忘れてしまったけど。とりあえず寒いからさっさと上がって温まらないと。

 流石に押し入れの布団はカビの巣窟になってるか、仕方ない寝袋を敷いて寝よう。

 明日からはまた旅に出なくちゃ。この家はお風呂もあるし食料もあるけど一箇所に長く居ると動きたくなくなるからね。


 次はどこに向かおうかな。

 私の旅は終わらない。

最後までお読みいただきありがとうございます。

最初は連載を考えていましたがいきなりは厳しいと考え、まずは短編で出すことにしました。

続きを書くかは未定です。

感想など頂けたら幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 終末世界のお話が大好きなので、面白かったです。 緊張感、緊迫感が凄く上手く書けていると思いました! [一言] 連載版期待してます! ブックマークと評価させていただきました!
2019/03/26 15:17 退会済み
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