私の幸福低すぎ!?
よろしくお願いします
人生なんてクソゲーだ。
ゲーム開始時点で、性能差がランダムで振り分けられている。子は両親を選べることはなく、人種さえ選べない。
登場キャラの考えなんて分かるはずもなく、優しくされたと思ったら、突き放される毎日だ。
もちろん、攻略サイトなんてものはない。
まして、セーブポイントなんてものはなく、苦労してたどり着いた終着点は、死というバッドエンドだ。
しかも神様は強制退出ルートなんてものも、用意していたらしい。
自分の人生さえままならない、この物語のさえない主人公【藤田 真琴】は、いつの日か、飛行機事故で死ぬ確率が、宝くじの1等に当選する確率と同じだと、誰かに教えられたことを思い出した。
落下しつつある飛行機のなかで。
耳障りな警告音が機内に鳴り響く。乗客員はだいたいの人がパニック状態で、泣き喚いている人までもいた。
キャビンアテンダントのお姉さんが、必死に落ち着かせようと、しているが無駄みたいだ。
僕もびっくりして、中腰になったせいで、頭に酸素マスクが直撃し、飲んでいた熱々のコーンスープが、膝にかかった。
冷や水・・・もといコーンスープを、浴びせられた僕は、ほかの皆と比べると、幾分かは冷静だった。
「さんざんな人生だったなあ」
死ぬのは怖いが、これで終われるのだと、どこかで安堵していた。
「そんなことはないですよ、これから幸せになるんですから」
「え?」
警告音が止まると同時に、そんな声が聞こえた。
周囲を見渡すと人も音も、ピッタリと止まっていた。まるでビデオの停止ボタンを押されたかのようだ。
僕は咄嗟に、もう一度コーンスープを浴びようと試みたが、横から手を掴まれて、止められてしまった。
「な、何をしようとしているんですか?」
掴んできたのは、小さい女の子のようだ。西洋風の顔立ちをしていて、めちゃくちゃ可愛い。それになんだか、オーラのようなものが出ている。
「いえ、コーンスープをキメて冷静になろうかと」
「コーンスープにそんな効果ありませんよ?」
少女は困惑気味に微笑んだ。 あぁ、いたいけな少女を困惑させるのは、最高だぜ。
「ところで君は、誰なんだい?自己紹介もなしに、人に気安く触れるのは、可愛くても許されないぞ?」
「あ、あなたが変なことするからですよ!!」
ここ最近で、1番の正論である。あぁ、少女に論破されるのは、最高だぜ。
「もー変な人の担当になっちゃったなぁ、私は天国で、セールス担当をしている、アルンです。あなたの生命保険の勧誘にきました。」
「え、今からでも入れる保険があるんですか!?」
「あ、おどろくポイントはそこなんですね。でも、話の通じそうな人で、安心しました」
ホッと息を吐く天使ちゃん。天国やなんやらの話を、信じるのは当然である。だって、なんかオーラ出てるもん。
「今日、人間界はストレス社会、不満をもってしんでしまう方が多いのです。そんな方は天界では、素行がわるい傾向がおおく、天界の治安は最悪です!」
「そ、そうなんですか?僕は死んだとしても、天界では暴れたりしないと、おもいますよ?」
「そんな人ほど、死んでから、素行が悪くなったりするんですよ。ですが!我が主様は【幸福ポイント】というものを、あみだしました。人が死ぬまでの幸福を、数値化して、ある一定の規準にみたない人は、別の世界でポイントを稼いでもらいます!」
「で、僕はその規準に達してないと?」
「はい、平均の20分の1くらいです!この数値は、21歳という非常に低い年齢で、死んでしまったから、という理由もありますね」
前言撤回。やっぱり僕、天界で大暴れするわ。ちょっと低すぎるわ。
「その、別の世界?でポイントを稼ぎ終わったら、どうなっちゃうんですか?」
「その時は、またこの瞬間に戻ってもらって、死んでいただきます。その時は、きっと幸福だとおもいますよ!」
ニッコリと微笑む天使ちゃん。その微笑みの向こうに影が見えるような気がする。幸せのあとの死、決められた死、それは果たして、幸福なのだろうか。
「その保険、はいりまぁす!」
だが即答である。だってまだ死にたくないもん。
「おぉ、早いですね。もっと悩むものだとおもいました。じゃあ、この契約書にサインしてください」
無駄に高そうな紙を渡される。何となく、ローマ字で名前を書いてみた。フッ、イカすぜ。
「あ、漢字で書いて、上のとこにフリガナでお願いします」
「あ、はーい」
どうやらダメみたいらしい。
「はい、確認しました。では、転移される異世界なんですが、この世界と違っています。科学の代わりに魔法というものが発達しています。向こうの世界で死んでもらっては困るので、能力と魔力をプレゼントさせてもらいます」
「よっしゃああああああああああああああああ」
「よ、喜んでもらえてよかったです。」
過度な喜び方で、また天使ちゃんを困惑させてしまったが、仕方あるまい。神様からのプレゼント、これは勝ち組確定である。僕には、明るい未来がまっている。
「では、こちらの扉におすすみください」
突然、機内の通路に扉が現れる。
「それでは、お幸せに」
可愛い天使ちゃんに見送られながら、僕は扉を開け、新たな世界へ走り出す。