オワリノハジマリ
結局、智也は睡眠薬で自殺する事にした。
硫化水素自殺は事後死体が緑色になるらしいのでパス
練炭自殺も悪くないけど 準備中に家族にバレたら失敗する。
飛び降り自殺などもっての他である。痛いのは嫌だ。
睡眠薬ならば普段より服用しているので手元にある。
大量にアルコールと摂取すれば間違いないだろう。
決行日については既に決定している。
天下布武オンラインサービス最終日に
僕は死ぬのだ。
天下布武オンライン
日本発の和風テイストのMMOとして
一時は人気を博したこのゲームも
発売後20年も経過した現在
プレイヤー人数は減少の一途を辿った。
その兆しは販売後10年目くらいから顕著となり
いつ終了してもおかしくない
いや、もう終わっている
そうゲーム界で揶揄されつつも何とそこから10年も継続した。
創業者の思い入れとアイテム課金
この二つの要素でこのゲームはかろうじて延命していたといっても過言ではない
どうやら収支トントンなら継続みたいな内部事情だったようだ。
上積み式の育成
継ぎはぎだらけのコンテンツ
しかもアイテム課金ありきの運営により
新規参入はほぼ皆無となった。
それでも運営は最後の一矢を放った
十五周年を機に 新たな新拡張パックとして
VR対応のゲームをリリースした。
このVRゲームで少し盛り返したかに見えたが
アイテム課金に頼る癖がついたこの会社を
プレイヤーは徐々に見限り
残ったプレイヤーはいわゆる廃人のみとなった。
智也もその廃人の一人であった。
今更 後には引けない。
ネトゲ廃人の共通項である。
今、自身が依存している世界の余命を薄々感じつつも
その運命に抗うかのように繰り返される課金。
智也はデイトレーダーで悪くない額を毎月稼いでいたが
親が聞いたら嘆くだろう額をこの終末期のゲームに貢いでいた。
それでもどんどん減るプレーヤーの分を賄い切れる筈などなく
ついにサービス終了の正式発表がリリースされてしまった。
昨年、創業者が逝去されたニュースを目にしてから覚悟はしていたが
ついにこの日が来てしまったのである。
サービスが終了するから死ぬなんて頭がおかしいのではないか
そう思う方も多いだろうと思う
勿論、僕が死を選択する理由は他にもあった。
全てが狂ってしまった
今まで冷静に出来ていた株取引も感情の乱れが影響して
利益を計上出来なくなっていた。
5年間ずっと一緒にやってきた相方のメイは
サービス終了を機にネットゲームを完全引退し
実家に帰って見合いでもすると決めてしまった。
智也はその時、メイにプロポーズをして、撃沈している。
メイは言った
『智也は私の声しか知らないじゃないのw。私も智也の声しか知らない。
智也と会って今までの関係が崩れるのは私は絶対に嫌なの。
当たり前かもだけど、リアルの貴方がゲームの貴方以上だとはとても思えない。
私は絶対にリアルの貴方とゲームの貴方を比べてしまう。だからやめよう?ね?』
その場はかろうじて笑ってごまかした智也
だが心中は絶望の極地にあった。
僕はゲームで頑張ったからこんな目に遭うの?
じゃあヘタレプレイヤーだったら良かったの?
でもそれだとゲームでも見向きもされないじゃないか
何だよそれ 訳がわかんないよ
メイとはこの5年間で本当に色々な事を話した
多分、僕はメイの家族の誰よりもメイの事をわかっている
メイの考えている事は言葉にして貰わなくてもわかっているつもりだった。
戦闘中、彼女が次にどんな行動をするのかほぼ100%わかっていたし
彼女も同様だった。
リアルの彼女の事だって僕は理解しているつもりだった。
そう、つもりだっただけなのである。
確かに僕は彼女の声しか聞いていない。
見てもいない
触れてもいない
色んな事がごちゃごちゃに絡まっていた。
いや
絡まってすらいなかったのかもしれない
その糸がどこにも向かわず切れてしまっている事を認めたくなくて
自分でぐちゃぐちゃに丸めただけかもしれない。
何を失う事が僕を死に誘うのか
明確なようで不明瞭
何だか全てが面倒になってしまった。
持病のせいで諦めやすい性格になっているのかもしれない。
もういいかw
うん!死んじゃおう
結構安易に決済は行われたと言える。
僕は安直かつわがままである。
できたら 仲間に囲まれて死にたいなあ
そう漠然と考えるようになった。
勿論自殺であるので看取られて死ぬとかではない
仲間の声に囲まれて静かに終えたい。
そして死ぬ事 メイにだけこっそりと囁いてから逝こうかw
泣いてくれるかな?メイ
それとも怒るのかな?
てか僕、最低だな(笑)
いつも思う事がある。
(笑)って語尾に付ける時
その前の文って全然笑えないよな・・
サービス終了日まで1ヶ月を切った
湿度の不快な深夜の事であった