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きゃっほう!Let's看病

作者: 銘奏的子

 僕は男だが、ナース服は着てもらうより自分が着たい。されるよりしたいと思う。

 


 彼女が風邪を引いた。だから今日は大学を休むというメールが来た。心配になった僕は朝から彼女の下宿に行くことにした。


 さっきからドアホンを押しているが反応が無い。玄関まで来れないほどひどいのだろうか。合鍵も持ってないしドアを蹴破ることを考え始めたころ、開いた。

「おはよう。見舞いにきたの?」

 彼女だ。パジャマの上からフリースを着て、毛布をまとってマスクをしている。顔も青くて寒そうだ。声のトーンも低い。熱の出始めで一番つらい時期かな。

「看病に来たぜ。ほら入って入って」


 彼女を押して部屋に侵入した。1DKの部屋からは彼女のにおいがする。整理整頓された落ち着きのある部屋だが僕は落ち着けない。彼女が布団に潜り込む。布団のそばに正座する。

「熱はあるの?」

「体温計無いから計れてない」

「大丈夫、持って来たぜ」

 用意周到とは僕のこと。体温計をバックから出し。布団をめくる。脇はどこだ。

「ちょ、自分で計るから」

 脇に達する前に体温計を奪われた。彼女は自分で脇に体温計を挟む。脇に体温計が。あの体温計は僕のもの。つまり彼女の脇に挟まれたあれが僕の元に。ふふふ楽しみだ。

「後で洗って返すわ」

 期待していたら、勘づかれた。

「38度、2分」

「どうする、病院行く?」

 徒歩圏内に内科があった気がする。

「そんなにひどくないから、いい」

「いや行こうよ。インフルエンザだったら困るし薬だってもらえるよ」

 移動がつらいのは分かるが、もしもっと悪い病気だったらと思うと不安で、りんごも剥けないし添い寝もできないしおでこに手をあてて「まだちょっと熱があるね」(羞恥で彼女の顔が赤く染まる)「もう、誰のせいだと思ってるの」とかもできないじゃないか!何としてでも病院に連れて行く。

「じゃあ行こうか」

「よっしゃあ来い!」

 しゃがんだ姿勢で両手を広げる僕。彼女は意図が分からないのかぽかんとしている。

「だっこしてやるよ。ほらおいで」

「歩いていける」

 そういって布団からでる彼女。着替えるようだ。気恥ずかしいので目を背ける。


 着替え終わった彼女はTシャツのうえにフリース、スウェットパンツという格好になった。いつもは結構おしゃれして外に出るので、ラフな格好で屋外にいるの姿が新鮮だ。そうかこれがギャップ萌えか。萌えだったのか。

「さすが僕の彼女だ。心得てるぜ」

 彼女は盛り上がっている僕を無視して歩いていく。小走りで病人に追いつく。

「やっぱりお姫様だっこしてやるよ」

「いい加減にして、日が高いうちのお姫様だっこは条例違反よ」

「日が沈んでたらだっこしていいのか」

「いいわけないでしょ」


 楽しい会話をしているうちに内科に着いた。空いていたのですぐに診察室に通された。六十代といったところの、おじいちゃん先生だ。

 彼女がもう一度体温測られたり(後でその体温計洗わせろ)、聴診器を服の上から当てられたり(胸以外に計測できる部位は無いのか、まあ他の部位でも許しがたいが)、のどを診られたり(舌を出して口を開けている顔が、なんかいいな)された。

「風邪です。少し熱が高いですが数日で下がるでしょう」

「ありがとうございます」

「薬を出しておきます。一日三回、食後に飲んでください」

 なにか、僕のささやかな望みを粉砕する一言が聞こえた。

「先生、座薬はないんですか」

「おそらく必要ないので、今回は出していませんが」

 ば、馬鹿な。これじゃあ夢の座薬プレイ、じゃなくて医療行為ができないじゃないか。病院に来た意味がない!

「先生、考え直してください。自分で飲める錠剤と、彼氏が入れてあげる必要のある座薬、どちらを真に処方するべきかを」

「恥ずかしいからやめてよ」

 彼女が本気で嫌がっていて、先生もかなり引いている。大人の男性に引かれるのは思ったよりつらかったので諦めよう。

 金を払って内科を出、横の薬局で薬を貰う。彼女は財布を持ってきていなかったので僕が払った。


 歩いてアパートに帰る。彼女はかなり疲れているようだが、だっこしてくれとは言ってこなかった。

 部屋に戻ると、彼女は僕が立て替えた分を出してきた。

 「今日はありがとう。うつると悪いし帰っていいよ」

 無視する。彼女を布団の上に押し倒して、服をやさしく脱がした。彼女は抵抗しないが、少し困ったような顔。

「ちょっと、今日はさすがに無理だから」

「無理って何が」

 さっきのパジャマを持ってきて、着せてあげた。やっと看病らしいことをしてあげれた。

「期待しちゃった?ごめんね」

「し、してないしっ」

 彼女は布団に入って、不機嫌そうに僕を見据える。何か言いたいことがありそうなので、僕が先制攻撃を仕掛ける。

「髪に寝癖ついてるし化粧もしてないし、いつもと違ったかわいさがあるね」

 彼女の顔が今日で一番赤くなった。口が声を伴わず震えている。見たことのない表情が拝めて、来て良かったと思った。

「私で遊んでばっかりじゃない。病人なのよ、労わってよ!」

 声を荒らげた彼女に言う言葉は、あらかじめ決めていた。

「元気になってきたみたいで、よかったよ」

 上目遣いで黙る彼女を見て、改めて風邪が治るまで看病しようと、決意するのだった。



 看病を始めて二晩経った朝、頭痛と吐き気に起こされた。彼女は昨日の夕方にはだいぶ回復していて、僕はその時点で少し頭痛を覚えていた。

「おはよう、なんかしんどそうだけど大丈夫?」

 彼女はしゃきっとしていてる。普段の体調に戻ったようだ。

「風邪ひいたかもしれない」

 彼女の満面の笑みを、僕は一生忘れない。

「私のがうつっちゃったのね。でも安心して、私が看病してあげる」

 楽しみ、とか呟きながら、彼女がネギを持ってきた。


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