オオカミ狩り
「マズイわね」
思っていたよりも複数の存在がこちらに来るのが早い。走ったとしても、三分ほどで後ろから襲われてしまいそうだ。
「ならば、迎え撃つとしよう」
アレクにありのままを伝えると、少しの考える素ぶりの後、こう告げた。
恐らくは正しい判断だろう。相手がよほどの強敵で無ければ、逃げて不意を突かれるよりは、逃げずに準備をした上で正面から迎え撃つとしようするのは定石といってもいいほどである。
「いいわ。それでいきましょう」
戦略としてはイノシシの時とあまり変わらない。ただ、私は弓の参戦では無く、魔法銃か
短剣を使うことになる。
だが、向かってくる存在に合わせて弓で照準を合わせ、一矢だけは撃つ。
「接触まで数秒。数は七。対象は…オオカミ」
そこまで言うと思い切り引き絞った矢を先頭を走るオオカミへと放つ。
その矢はオオカミの柔らかい目を貫くことで脳を破壊し、絶命へと至らしめる。
それでもオオカミは止まらない。木々を避けながら、私たちとぶつかる。
最初に飛び出したオオカミはアレクの首筋を狙うがこの攻撃は丸盾で弾く。
そうしている間にもアレクだけでは無く、アランにも。そして、一歩引いたところにいる私にも襲いかかってくる。
全員が攻撃を回避すると、オオカミの群れは一旦距離を取り始めた。
私たちも三人がお互いの背中を守るように密集隊形を取る。
しばらくの膠着状態の後に動いたのはオオカミだった。
アランとアレクに一体ずつ、私には四体が飛びかかってくる。
「舐められたものね」
最初の衝突時に誰から狙っていくかの品定めをし、結果が唯一の女で武器も刃物を腰に携帯したままであった私を仕留めることにしたのだろう。
さらに飛びかかる四体も同時に別方向から来ることで対処を出来づらくする。
内二体は正面。一体は地面を駆け抜け、もう一体は横側で空から降ってくるようだった。
既に抜いてある魔法銃を正面へと構え、引き金を引く。
それだけで正面から向かってくる三匹が壁にぶつかったような音とともに体勢を崩す。
「予想通り、上手くいったわね」
その後、腰にある短剣を抜くと、真上から飛びかかってくるオオカミの首を掻き切ってやる。
オオカミも一匹がやられたくらいでは引こうとはしない。壁の効果時間が切れると、再び攻撃を仕掛けてくる。歯をむき出しにし、涎は垂れ流し、その目は憎悪では無く、純粋な
捕食者の目をしていた。
「何か変なのよね。どこが変なのかがよくわからないけど」
そう言いながら、魔法銃の狙いを一匹につけて三発連続で撃つ。
放たれた銃弾が一匹のオオカミを殺すまでの間に、二匹のオオカミは地を蹴っている。
だが、慌てることはない。
落ち着いて、短剣を逆手に持ち替える。
同時に飛んでくる二つの大きく開かれた口に向かって、乱暴に鬱陶しそうに横に薙ぐ。
それだけの間合いも足りない、筋力も足りないはずの一撃において、二匹のオオカミの命を刈り取った。
短剣はあくまでも依り代みたいなものにしている。短剣自体に風の魔法を付与させることで切れ味も間合いも大幅に上げた。
やろうと思えば、剣なんか使わずとも良いのだが、イメージのしやすさなんかから短剣を使うことにしていた。
ちなみに先の魔法銃でこのオオカミの前に壁を出現させたのも弾を壁に見立てていたからだ。
「さて、アランとアレクは?」
一人一体ずつ襲いかかっていたが、今は二対二の構図のようだ。
二人は連携しながら、上手く攻撃を捌いている。
「ははっ!アレク。一体ずつ仕留めて行こうか!まずは奥の一匹をやろう。あいつ、微妙に足を引きずっているからね。もう一匹の方の攻撃だけ防げる?」
「あ、あぁ。一、ニ回くらいならな。てか、お前性格変わってないか?」
「気にすんな。んじゃ、いくぞ」
はぁ、いつものアレだ。戦いになると血が騒ぎ出すのか、性格が大変貌するやつ。
アランは奥の方だけに狙いをつけて、他には目がいってない。
アレクも可哀想に。よく理解しない内に突っ込んでいってるものね。
「んじゃ少しだけ助太刀しましょうか」
魔法銃を構える。
アランが突撃している横からもう一匹がアランへと襲いかかる。アレクはそれを剣で弾き、アランへと向かうのを防ぐ。
が、アレクの剣筋が見切られたのか、オオカミがアレクの剣を避け首へとその牙は迫る。
もちろん、むざむざとやられる所を傍観してる理由はない。既に魔法銃は抜いて、いつでも撃てる状態にしてある。
今度の弾丸は雷の魔法を込めてある。だから、ここまで余裕を持って待つことができていた。
その速さは早々の事では見切れるものではない。引き金を引くと共に発射され、圧倒的と言える程に直ぐオオカミに直撃する。
その勢いのまま吹っ飛び、アレクはと言うと、何が起こったのか分からないようにボケっとしている。
それと丁度、同時にアランの方も決着がついたらしい。
「おい、アナ。助かった。礼を言う」
少しばかり、上から目線なのはムカつく所だがまぁ、許してやろう。
「アラン、良くやった。やはり俺が認めた男だ」
「あ、ありがとう」
既にあの状態からは戻っているようで相変わらず、オドオドしている。
「しかしだな。何かがおかしい。本来ここまではオオカミは来ない生き物だし、何より眼の色が片方違う個体だった」
何かがおかしいと思ったら、眼の色ね。
「それと異常な程の食欲を感じた。流石にこれは報告をせざるを得ないことかも知れないな。まぁ、ここは急いで帰るとしよう」
昼を過ぎた頃くらいから潜っているせいでもう少しで日が暮れてしまいそうな時刻になっていた。