イノシシ
ちょこちょこキャラがブレてるような気がしてならないですが、寛大な心で許して頂けると
その森はこの都市で保有する森でこの都市に存在する数少ない森だ。
中でも魔物、戦闘能力のある生き物が存在するのはここくらいだ。
そのため冒険者ギルドと連携し、間違っても奥にいる魔物が表に出てこないように調整している。とは言っても、そこそこの冒険者が収入源ともしている訳で、他都市にあるダンジョンと同じようなものだろう。
その大きさはおおよそ都市の三分の一を占めている訳であるが、その危険性から入り口は限られており、大きな壁に覆われている。
その数少ない入り口が学園という訳だ。
とは言っても中央の方まで行かなければ比較的、狩りに適している動物も多い。
無論、私達も奥に行く気などさらさらない。
「よし、じゃあイノシシ狩りでいいな?」
貴族であっても、イノシシの肉は食べるらしい。
森で取った獲物は食堂に持っていくか自分で調理するかの選択肢しかない。
今回は内緒で行っている訳だから、自分たちで調理をせざるを得ないのだがその辺は考えているのだろうか?
「前衛にアランと俺が、後衛はアナでいいな」
もちろん、私も前衛はできるが今回はこの二人もいる事だし、後衛でいいだろう。そもそも、武器には弓を選んできてしまった。
「それとだ。アナにはこれを貸してやろう」
アレクは腰につけた魔法銃を投げてよこしてくる。
「まぁ、イノシシくらいであれば、お前が持っていた方がいいだろう。弓は至近距離だと大変だからな」
毎度のことではあるが、平民にも優しくするという面においては好ましい貴族ではある。
歩きながら短剣で木に痕を付けながら歩くこと十数分、その目標はいた。
そのイノシシは木の根元の果物を美味しそうに食べている。
「まず、アナの弓で胴体に当てることで気をひく。それから、俺とアランでトドメを刺せばいいだろう。注意点としては、イノシシの突進は受け止めるのではなく、剣で受け流すか避けるのが無難だろう」
「わ、分かった」
「じゃあ、殺さないように射るわね」
矢をつがえ、弓を構え、前方の目標に狙いを定め、放つ。
「よし、行くぞ」
放つと同時に飛び出した二人は、石を投げてイノシシを挑発する。
矢を受け、負傷しているとはいえ、挑発されてしまえば、頭に血が上ってもおかしくはない。
興奮したイノシシは近くにいたアレクの方へと突進を仕掛ける。その速さは油断していると速さに驚き、対応できないだろう。
だが、注意点を分かっている事だけはある。突進してくるに対し、体を下げ、重心を低くし丸盾を構える。
そうして、突進が当たると同時に盾をずらしながら受け流す事で威力は大きく分散できる。
そうして回避されたイノシシだが、その速さに反して、止まるのが早く、密かに狙っていた木にぶつける作戦は台無しになっている。
「今だ。アラン」
しかし、スピードが落ちた瞬間を見逃す手もなかった。
アランの剣は横から突きの構えで飛んでくる。その勢いでアランの顔には血が飛び散るが、イノシシはそれでは止まらない。
方向転換をアランにすると、剣が刺さったままの状態で突進を再開する。
アランは剣をとうに放し、咄嗟に真横へと飛び込む事で直撃を回避した。精々、掠る程度の攻撃だった。
だが、手負いの獣になったイノシシは手強い。突進の間隔は狭まり、速さも心なしか上がっている気がする。
「手助けはいるかしら?」
「逆にサボっているんじゃない!」
弓を構える。
狙うはイノシシの細い脚。脚が使えなければ動くこともままならない筈。
「風よ」
ただ狙うだけではあの速さのは正確に当てられない。そう考えた私は風を操作することで確実に当てることにした。
そうして加速した矢はイノシシの右足を貫き、イノシシの動きを一瞬だが止める。
「今だ」
アレクは手持ちの剣でアランは刺さったままの剣でお互いの剣が交差する形でイノシシを絶命させる。
「ふぅー。なかなか固かったな」
剣に付いた血を払い、拭う様子を見ながら、私は提案する。
「それで?このイノシシはどう持ち帰るつもりなの?えっほえっほと原始人みたいに持ち帰るんじゃないんでしょうね?」
「……」
案の定、そこまでは考えていなかったようだ。
「仕方ないか」
私はイノシシに近づくと、大きな空間を想像し、イノシシを放り込んだ。
「ま、マジックボックスの魔法か!」
「黙ってなさいよ?出来るだけ知られないようにしたいんだから」
「さ、流石はアナだね」
アレクもアランくらい、物分かりが良ければいいのに。
「ふん、まぁいいか。魔導具だとしたら買い取ろうとは思うが」
魔導具とは、その魔法を道具に定着させることでいつでもその魔法を使える優れものだが、この魔導具は回数制限があるものとないものがある。
あるものはその魔法を生み出す妖精と魔法を閉じ込める妖精が協力することで可能なものだが、ないものはその魔法を生み出す妖精自体を閉じ込めるのである。
もちろん、そんなことが出来るのは、一部の妖精だけだ。特に生活魔法なんかで括られるものだと協力してくれる場合が多い。
「複数の気配がこっちに来てるわね。おおよそ、イノシシの血に惹かれて来たんでしょう?どうするの、リーダーさん?」
「流石にそれを相手にするのはマズイな。イノシシも回収は出来たことだし、帰るとしよう」
やはり引き際を理解してるぶん、他の貴族に比べると大分マシだと思う。
「アレク、あなたはそのままで貴族になりなさいよ」
しかし、そうは簡単に問屋を卸してはくれないようだ。