私のあかりは。
「それじゃあ、有里紗ちゃんと如月さんも、何か作りたいのってある?」
休み時間は、もう少しだけ続く。私の知ってる世界に、二人が興味を持ってくれるのが嬉しくて、いつもの私が嘘みたいに大胆になる。
「いいよ、由佳里で、……有里紗ちゃんも、べつに固くしなくていいのよ?」
「うん、じゃあ……由佳里ちゃんでいいっすね」
「ええ、いいわ、……ほら、文花ちゃんも」
「う、うん、由佳里ちゃん、……なんか、くすぐったいね」
胸の中がほっこりする。なんだか、あったかいな。淡い甘い時間。……由佳里ちゃんって、けっこう優しい声なんだな。合唱のときは力強いし、背も高いから。それで、ちょっと怖い人なと思ってたんだけど、あんまり、見かけだけでわかることってないんだなって。
くすくすと笑いあって、ほんのりとした時間を味わう。まだ埋まらない心の隙間に、少しだけ何かが張られていくような。
「それで、二人は何作りたいの?有里紗ちゃんも、ちょうど編みぐるみができたとこだったよね?」
「そうっすね……、今度は先輩にお守り渡したいなって、今年こそはインターハイ出て欲しいし」
「ふふ、有里紗ちゃんって一途なのね、知らなかったわ」
「冬場にもマフラー作ってたし、本当に大好きなんだねぇ」
由佳里ちゃんと二人がかりでからかうと、あっという間に有里紗ちゃんの顔が真っ赤に染まる。幸せなんだろうな、そんなに好きでいられて、その気持ちを、受け入れてくれる人がいるって。
「そ、それはいいじゃないっすかっ!」
「ううん、気になるよ、私が教えてるときだって、すっごく真心こめてるって感じするもん」
「愛情たっぷり込めてるのね、私も料理のとき参考にしようかしら」
「ふえっ!?そんなの参考にしなくたっていいって!」
真っ赤な顔も、駄々っ子みたいに腕をばたばたさせるのも、なんか、いつもの有里紗ちゃんっぽくないな。騒がしい休み時間だけれど、ここだけ、目立ってしまいそうなくらいに。
始業を告げるチャイムの音で、そそくさと逃げ帰るように机に戻っていく。「由佳里ちゃんも教えてよ、何作りたいか」なんて言って。負けず嫌いなとこ、こんなとこで出さなくていいのに。そこが、らしいとこではあるけれど。
始業式の日だからクラス替えこそあったけれど、それ以外は大体簡単に過ぎてしまう。通知表を入れてあった封筒を返して、係決めをして、それくらいだ。
「それで、由佳里ちゃんは何か作りたいものあるの?」
「そうね……、シュシュとかってできたりしない?初めてだし、そんなに大きいのって難しいかしら」
「あ、それは作れるよ、指編みなんていうのもあるしそっちのほうが楽かもよ?」
「そうなのね、……仲のいい子に付けてもらおうかなって、あの子、いっつも二つ結びにしてるのよ」
「わかった、今度編み図と指編みのやりから教えるから、どんな色にしたいとか考えておいてね?」
放課後になって、隣同士で話の続きを始める。……なんだか、二人とも、ほほえましいな。それが嬉しいようで、なんだか、一人だけ置いていかれたような。
「へー、由佳里ちゃんもラブラブっすねぇ」
「も、もう、何言ってるの!?」
珍しく顔を赤く染める由佳里ちゃん。背が高いせいで、顔を見上げると逆光気味になってるけれど、それくらいはわかってしまうくらいに。
そんなに、好きになれる人に、気持ちを伝えたいんだ。……私にはそんな勇気もないのに、二人は軽く飛び越えていけるなんて、羨ましいな。
ため息を無理やり抑え込んで、ひとしきり笑顔をつくる。
「私も生徒会あるからあんまりお手伝いできないけど、分からないことがあったら言ってね?」
「うん、いつもありがとね、文花ちゃん」
「あら、それじゃあちょっと頼っちゃうかもね」
二人と分かれた後になって、抑え込んだため息が溢れてしまう。
……私に、もうほんのちょっとでも勇気があったらな。そしたら、こんな風にはなんなかったのに。
何度も何度も重ねる後悔は、今日も止まれそうにない。