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ふみだせない。

 まだ出席番号順の席順は、確認すると真ん中のほう。遅刻寸前なのもあって、ほとんどの人がもう教室に集まって、咲いた話の花が、どぎつく感じるくらい。有里紗ちゃんと近くの席でよかった、ちょっとは、寂しくならないから。

 それに比べて、私の両隣は静かで、周りよりも、頭一つ分くらい高く飛び出てる。……確か、如月さんと、常世野さんだっけ、……なんか、話しかけづらいや、声を掛けようか掛けないか迷って、そわそわ落ち着かないまま、結局何もしないで席に着く。手持無沙汰に編みかけのコースターを手提げから取り出しす。糸とかぎ針と、編み方の本とにらめっこ。


「沢野さんだっけ?……何、作ってるの?」

「ひゃあっ、な、何ですかっ?」


 不意にかけられた、落ち着いていて優しい声。でも、臆病な私には、それすらも過剰に反応してしまう。思わず取り落とした編みかけのものは、かぎ針もそのままに本の上におっこちる。

 如月由佳里さん、だっけ。隣のクラスにいたのも、合唱部の人なのは知ってるけど、話すのは初めてな気がする。

 とりあえず、コースターは見たところ無事で、ほっと溜息をつく。それから、座ってるはずなのに頭一つ分高い顔と、目を合わせる。


「ごめんなさいね、おどろかすつもりはなかったの」

「いえ、……ちょっと、集中しすぎてたから」

「編み物ってやったことないから、……ちょこっと、興味あって」

「そ、そうなんですか?」


 思わず出てしまった声。どうも、私らしくない。変わりたいけれど、変化してく私が、怖くなっていくような。


「やっぱり、手作りのものって喜んでもらえるのかなって」

「うーん……、好きな人に編んでもらったものは、嬉しいと思います……よ?ね?有里紗ちゃん」


 斜め後ろ、常世野さんの後ろにいた有里紗ちゃんに話を振る。私は、あまりにも臆病で、……その舞台に上がることもできなかった。


「え、あたしが何!?」

「ルームメイトの先輩に手袋編んだんだよね?好きな人に編んでもらったものって、喜んでもらえるのかなって、聞きたいんだけど」

「す、好きな人って……っ」


 一瞬でゆでだこになって、机に突っ伏す有里紗ちゃん。それだけ、その先輩のこと、好きでいるんだろうな。


「それで、どうだったの?」

「うぅ……、今日の文花ちゃん、いじわるっすよぉ……」

「私も気になるな、有里紗さん」

「由佳里さんまで……っ、しょ、しょうがないっすねぇ……」


 観念したように、真っ赤な顔のまま呟く有里紗ちゃん、どんな反応をしてくれたかなんて、それだけで大体分かってしまいそうな。


「それで、どうだったの?」

「志乃先輩、すっごく喜んでくれて、……抱きついてきて……」


 目を輝かせる如月さんも、きっとそれだけ大事にしてる人がいるんだろうな。ちょっと拗ねたように言う有里紗ちゃんも、その人のこと、好きでたまらないことは分かってる。

 

「有里紗ちゃん、らぶらぶなんだねぇ」

「本当に、意外ねぇ」

「ら、らぶらぶって……っ!!」


 気絶したように机に倒れ込む有里紗ちゃんを横目で見て、また如月さんに向き直る。ずっと集中力使うし、それなりに時間もかかるけど、それだけ出来た喜びも大きい。きっと、好きな人に渡せたら、なおさら。


「如月さんも、よかったらどうですか?」

「由佳里でいいわ、……でも私、部活で忙しいからなぁ」

「私も、文花でいいですよ、休み時間使って編んでるから大丈夫ですよ、手袋くらいなら2か月もあればできますよ」

「そうなんだね、文花さん、……私もやってみようかしら」

「それなら、作り方も教えますよ、まずは簡単なのから」

「ふふ、ありがとう」


 由佳里さんも、有里紗ちゃんも、大切にしてくれる、大事にしたい人がいるんだよね、……誰かと愛し合うって、どういう感じなんだろう。

 知りたい、けど、その一歩が、踏み出せない。


今回出させていただいたキャラクター達

長木屋 有里紗(坂津眞矢子様制作 登場作:輝く星に伸ばす手を。)

如月 由佳里(阪淳志様制作 登場作:あなたの光に包まれて。)

常世野 燈(月庭一花様制作 登場作:『死神』)

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