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使い魔の猫と魔法使いの高校生

作者: 海ノ10

少年、東葉(とうは)(りゅう)は朝起きると、まず腕にしがみついている少女、冬音(ふゆね)を引き剥がして自由を確保する。

その後、なるべく音を立てないようにベットから出ると、カーテンを開けて日光を中に入れ、目を覚ます。


「んん?流?」


そう高めの声が聞こえ、流は振り返る。

そこでは既に冬音が目を開けており、手の甲で目をこすりながら流の方を見ていた。


「おはよう、冬音。」


流はそう言うと、ベットまで歩いて腰掛け、冬音を優しく撫でる。


「おはよう。」


冬音はそう言い、流の腰に抱きつく。


(ああ、やっぱり流はいい匂いがする。)


冬音はそんな幸せな気分のまま、しばらく抱きついていたが、流が撫でるのをやめたので、冬音も離れる。


「そろそろ朝ご飯食べよっか。」


流はそう言うと、冬音の頬にキスをする。

冬音はそれで赤くなってしまい、照れ隠しのためにポンっと音を立てて真っ黒な猫に姿を変える。


実は冬音は流の使い魔の化け猫だ。

まあ、化け猫とは言うものの実際は人の姿と猫の姿、どちらが本当の姿というわけでもなく、どちらも本当の姿である。

そうして、使い魔と契約している流も当然普通の人間ではない。

彼は、魔法使いの母と吸血鬼の父を持つ半吸血鬼(ダンピール)なのである。


流は猫の状態の冬音を抱え、そのままリビングへと歩いて行く。


リビングに着くと、流は指をパチンと鳴らす。

すると、 食器やパン、卵やフライパンなどがひとりでに動き、朝食を作って行く。

今流は軽くやったが、これは浮遊魔法や加熱魔法、自動処理魔法などの重複展開、無詠唱、高速使用という尋常じゃない難易度のものであり、これを片手間どころではないくらい簡単にしてしまう流が異常なのである。

そもそも流は魔法使いの階級のうち、最上位の階級である一等星魔術師、通称『人外の化け物達』に最年少でなった天才であるため、比べるのが間違っているのだ。


「じゃ、できたね。頂きます。」

「頂きます。」


流と人の状態に戻った(変わった?)冬音はそういうと、朝食を食べ始める。


「ねえ、今日も学校に行っちゃうの?」

「いや、行っちゃうも何も、僕普通に高校生だから、行かないと留年しちゃうし、最悪退学になっちゃうから。」


そう流がたしなめるように言うが、冬音は頬を軽く膨らまして、尚も文句を言う。


「だったら、やめればいいじゃない。私、昼間ずっと流といられないのが寂しいのよ。」

「うーん。僕も寂しいよ。けどね、今は妖怪とか怪物を狩ってお金が貰えるからいい。でも、何かが起きて、それでお金が貰えなくなったら僕達はお金が無くなって、生活できなくなるんだよ?だったら今のうちに就職できるくらいの学力は身につけておかないと。将来、一緒に暮らせないかもよ?」


そう言われて、冬音は渋々納得する。それを見て流は身を乗り出して、向かい側の冬音に手を伸ばす。そうして、優しく冬音の頭を撫でる。

冬音は目を細め、気持ちよさそうにそれを受け入れる。


「もう、流ったら私が頭を撫でるだけで満足するとでも思ってるの?」


冬音はそう言うと、席から立ち流の膝の上に座る。

それを流は優しい表情で見ると、ぎゅっと後ろから優しく抱きしめる。


「好きだよ、冬音。」

「どうせ、ペットとかそういう意味ででしょ?」


冬音はそう言う反面、その顔は嬉しそうだ。


二人は暫くそうしていたが、やがて流は冬音から離れると、冬音の食べかけの朝食の皿を自分の手元に浮遊魔法で移動させ、時間魔法で出来立ての時にまで戻す。

それをフォークで少し取り、冬音の口の近くに持って行く。

冬音はフォークの上の朝食をパクリと小さな口で食べる。

そんなことを暫くすると、いつの間にか朝食が無くなっていた。


流は冬音を抱えてベットまで移動させると、魔法を使い一瞬で制服に着替える。

これも相当難易度が高い芸当で、世界に5人しかいない一等星魔術師の化け物達レベルでないと、服を破ったりなどの失敗をするものである。


「じゃあ、もう時間だから行くね。転移魔法も使えないし。」

「なるべく早く帰ってね?」


冬音は流に抱きついてそういう。それに流は頷いて答えると、冬音の額にキスを落とす。


「行ってきます。」


流はそう言うと、自室から鞄を転移させ、手元に出現させる。

冬音は名残惜しそうにしながらも流から離れ、ベットに腰かける。


「行ってらっしゃい。」


その言葉を聞くと流はふわりと笑い、寝室から出る。

少しして玄関の鍵が閉まる音がすると、冬音はゴロンとベットに寝転がり、流の枕を抱きしめる。


「もう、ほんっとに分かってないんだから!」


冬音はそう言うと、枕をさらに強く抱きしめる。


「流はいっつもあんなことばっかり言って!でもどうせ私なんかペットの猫ぐらいの感じなんだよ~だ!大体、流があんなにかっこよすぎるのが悪い!!」


そのままゴロゴロとベットの上を冬音は転がる。

しかし、暫くして冬音はぴたりと止まると、枕を顔に押し当てる。


「むう…流が行っちゃったせいで寂しいのよ。早く帰ってきなさいよ。」









「ん?」


昼休みに流はクラスメイトの亮と昼食をとっていたが、急にいつもは鳴らないケータイが鳴ったので思わず声を上げてしまう。

スマホを開くと、待ち受け画面にしている冬音とのツーショットが出る。

流はそのまま視線を少し下に下げ、通知ありとなっているメールのアプリを開く。

そうして、そのメッセージの送り主を見て流は少し驚く。

その送り主は冬音だったからだ。流は何かあったのかと慌ててそのメッセージを確認する。


『今日、何時くらいに帰って来れるの?』


そのメッセージを見て、流は安堵の息をつく。それと同時に、そう言えば今日は出かける前に何時くらいに帰れるか言ってなかったな…と思い出す。

流は少し考えた後、メッセージを送信する。


『大体四時半には帰れると思う。遅れそうなら連絡するから。』


流はスマホをしまうと、驚いた顔でこちらを見ている亮のほうを見る。


「どうした?そんな顔して。」

「いや、お前が可愛い女の子とのツーショット待ち受けにするのが以外で。あの子誰?彼女?妹?」

「うーん。家族、かな?」


家族、それが流から見た冬音との関係だ。

実は、流は冬音に対して既に家族も同然だと思っている。だからと言って妹と思っているわけではなく、かといって夫婦というのは違う気がする。そんな微妙な関係である。

まあ、流と冬音はお互いに五歳くらいの時からずっと一緒にいたので、そんな感じになってしまうのも無理はない。

まあ、冬音は流に恋愛感情を抱いているのだが。


「ふうん。もしかしてお前の家複雑?」

「まあ、そうかな?」


確かに魔法使いと使い魔の家族など複雑ではあるので間違ってはいない。


(はあ…早く学校終わらないかな。冬音に会いたい。)











学校が終わり、流が校門から出ようとすると、そこに人だかりができていた。

何かと思い透視魔法を使うと、黒いワンピースに身を包んだ美少女、冬音が男子生徒に話しかけられて何故か少し涙目になっていた。


(は?なんでここにいるの?)


流は疑問に思いながらも、とりあえず回収しないとまずいと思い、急いで人混みをかき分けて冬音の元へ向かう。

冬音は筋金入りの人見知りだ。

その為、あのまま放っておいたら何かしらの大惨事になる可能性がある。

そうなると記憶の修正が面倒くさい。

そうならないためにも、早く回収しなければいけないのだ。


「冬音!!」


人混みを抜けた流はそう涙目の冬音に向かって叫ぶ。

流を見つけた冬音はすごい勢いで流の胸に飛び込む。

その様子に、周りのやじ馬が様々な声を上げる。


「もう!遅いじゃないのよ!!」

「あはは、ごめんね、まさか待ってるなんて思わなくて。」


流がそう言うと、冬音はさらに強く流を抱きしめる。


「亮、ありがとね。先に話しかけてくれて。質の悪い人に話しかけられてなくてよかったよ。」


そう、流は冬音に話しかけていた男子生徒である亮に言い、頭を下げた。


「大したことじゃねえよ。怖がらせちまってたしな。それに、まあダチの家族が居たら、話しかけたくなるだろ?」

「でもだよ。ここはお礼を言わせてほしい。ありがとう。」

「じゃ、ありがたく受け取っておくよ。」


そう亮はいい、颯爽と去っていった。


「皆さん。自分の家族がお騒がせしました。」


流はそう社交辞令的に言うと、頭を下げる。


「じゃ、帰ろうか。」

「うん。」


多少落ち着いた冬音はそう言うと流から離れ、流の左手で右手を掴む。

流はそれを見てふっと笑い、その手をしっかりと繋ぎなおす。






「ねえ、そう言えば、流は私のこと家族って言ってくれたよね。」


夕暮れの帰り道、手をつなぎながら冬音はそう言う。


「うん、そうだね。」

「あの家族ってさ、ペットって意味?」


そう冬音は流に訊く。

それは、そうであってほしくないという希望であり、もしそうだったら…という憂いをも含んだ質問である。

それを直感で感じたのか、流は止まって冬音のほうを向く。


「僕は、小さいころから一緒だったよね。僕は、最初のほうは確かに猫とかかなぁって思ってたんだけど、過ごしていくうちに、気付いたんだよ。冬音はほとんど人間と変わらないんだって。だから…」


流はそう言うと、じっと冬音の目を見る。


「僕は冬音をちゃんと女の子として見るし、家族だと思ってるよ。」

「え?」


冬音は思わずそんな言葉を漏らす。

でも、徐々にうれしさと安堵感が込み上げてくる。


「もう!そんなこと言って!」


冬音はそう言うと、ぷいっと顔をそらせてしまう。


その顔が赤かったのは、夕日のせいか、それとも………



「好き。」


あまりにも小さな声で呟かれたそれは、誰の耳にも入ることなく、赤く染まった夕焼けに溶けていった。



お読みいただきありがとうございます!

初めての方も、前に読んでくれていた方もこんにちは。海ノ10です。

今回はジャンルをローファンタジーにするかどうかで悩みましたが、自分的にはこれは魔法はおまけみたいなものだったので恋愛にしました。

誤字、脱字やお気づきのところがありましたら、教えていただければ幸いです。

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