ゆきがふる、ゆきがくる
しんしんと、静かに雪の降る日は、彼が来る。
「この部屋寒いねぇ。いっつも言ってるけど、もっとあったかくしたら?」
「君が来ないときはそうしてるよ」
「え、わざとだったの?」
「わざとだったの」
それは知らなかったなぁ、と笑いながら、やってきた彼はいつものとおりに布団の中に潜り込んだ。
私はそれを横目に見ながら、毛布は外しておくべきだったかな、なんて思う。
「寝床は温めておくから安心するといいよ」
「それいっつも言うけど大して温まってないっていうか、むしろ冷たいよ」
「それは申し訳なかった」
「別にいいけど」
「いいんだ」
「仕方ないからね」
優しいなぁ、と言われたけれど、事実を言っているだけだ。
というか本気で布団を温めているつもりだったとも思っていなかった。戯言じゃなかったんだ、というのが正直なところだ。
本人に言うとショックを受けそうなので言わないけれど。
「何か飲む? 冷たいのだと水くらいしか出せないけど」
「それもてなされてるの? 無意味な布団温めチャレンジ続けるから遠慮しておく」
「無意味だと知りながら続けるそのガッツは評価するよ」
「それはありがとう」
そんなどうでもいいやりとりもいつものことだ。
彼の訪問に何の意味があるのかもわからないまま、なんとなくずるずるとよくわからない間柄に落ち着いてしまっている現状を、どうなんだろうと思う気持ちは一応ある。あるけれど、果たしてどこまで踏み込んでよいものかわからない。
正しい付き合い方、というのが体系化されていれば話は簡単だったけれど、事例は知っていても、彼相手にそれが正しいという保証はない。
布団からはみ出ている彼の手が目に留まって、何となく手を伸ばした。
「ん? なに?」
寝たまま首を傾げるなんて器用な動きをした彼に、何でもないと言いながら、触れた手の温度を思い返した。
――人の姿かたちをしているのに、なんで冷たいままなんだろう。本性がどうしても出るのかな。
きっと雪の温度と同じなんだろう、それを体温と呼んでいいのか、埒もない疑問が思考に浮かぶのも初めてではない。
性別的に『雪男』なんだろうけど、見目麗しい人の形をとるからには、『雪女』の男版と言う方が正しいよなぁ、と思うのも、また何度目かのことだった。