第四幕
「……いま、発砲音がしなかった?」
「おおかた、クラッカーでも鳴らしたんだろう。いや、待てよ」
「どうしたの?」
「昨日の夕方、夏休みだから、一週間ほど実家に帰省するって言ってたんだ」
「それ、本当の話? それとも、僕を怖がらせようと思って」
「本当だ。晩に帰ったら、大きなスーツ・ケースを引いて、出掛けるところだったんだ」
「それじゃあ、いまの音は、どう説明するのさ? たしかに聞こえたよね?」
「あぁ。不可解だな」
「……そのスーツ・ケースは、解体した死体が入るくらいの大きさ?」
「よからぬことを考えるな。ただの里帰りに決まってる」
「口実かもよ? ねぇ、どれくらいの大きさなのさ」
「幅が、この手の幅くらいで、高さが、床からここまでくらいだ」
「肥満体だと厳しいけど、中肉中背なら収まるね。実家に帰るのに、そんなに荷物が必要かなぁ?」
「女性は、何かと持ち物が多いものだ」
「はいはい。そういうことにしておくよ。それじゃあ、僕は帰るね」
*
「物を運び出す姿を見られたり、時間内に作業を終わらなかったり。使えない駒ですね」
「ごめんなさい」
「まぁまぁ。疑われないように、僕が話を茶化しておいたから」
「我々が時間稼ぎをしてるあいだに、すべて済ませる約束でしたよね? これでは、何のために隣の住人を連れ出したのやら」
「以後、気を付けますから」
「何とかなったんだから良いじゃん。それで、これ、どうする?」
「ここは一階ですからね。庭で処分するのが一番でしょう。今度、取り返しの付かない失敗したら、こうなりますからね」
「肝に銘じます」
「僕としては、お隣さんには、このマンションの秘密を知らないで欲しいんだ」
「私としても、これ以上、空室を増やしたくありません」
「新しい住人を探すのは、それほど手間じゃないんだけど」
「まさか、まだ十代の若者が、百人以上をあの世に送ってるとは思わないものね」




