初恋4
【香の部屋】
「え?鐘城先生、平気な顔してたの?」
「うん。何も無かったみたいな顔してた。私は、先生の部活入ってドキドキしてたのに」
「まあね、教師だからね」
「ねえお姉ちゃん。私も誘導瞑想したら、先生と同じの見れるかな?」
「見れると思うけど、ちゃんと見たかったら、退行催眠やってもらうと良いよ」
「え?どこで?」
「どこだろう?都会に行かないと無いんじゃない?」
「えー?無理だよ」
「でも香は、先生と会う前から中間世の夢を見てたんだから、不思議よね」
「本当に中間世なのかな?」
「予知夢じゃない?」
予知夢だとしたら、どんな意味が有るのかしら?
ただ会う事を知らせただけ?
それとも、もっと何か他に有るのかな?
本当にソウルメイトだったりして。
今迄他の人とはこんな事無かったもん。
本当に不思議。
【職員室】
今日も爽やかな朝だね〜
良し、行くか!
【1年の教室】
「今日先生休みだって」
「え?じゃあ、体育の授業無し?」
「つまんないな」
「良ーし、皆んな席に着け」
「あ、響先生」
今日は一本木先生がお休みなので、代わりにホームルームだ。
「出席を取るそ。朝風香」
「はい」
「浅田未来」
「はい」
「雨宮那月」
「はい」
「荻野愛佳」
「はい」
「柿崎麻莉奈」
「はい」
「諏訪眞澄」
「はい」
……
顔と名前は、だいたい覚えたからな。
【体育倉庫】
で、何故か体育の授業も僕がやる事に。
「マット出すぞ」
「はーい」
「そっち引っ張って」
「転がして行け」
【体育館】
「じゃあ、前転、倒立前転、開脚前転の順でやってみろ」
「えー?」
「倒立は、補助してやるから」
「先生見本見せて」
「音楽の先生だもん、出来るの?」
「良し、わかった。やって見せるから、同じようにやれ」
体操は子供の頃やってたからね。
だから、体育科の先生と間違えられるのか?
「わー」
「へー出来るんだ」
「順番にやってみろ」
「はい」
無事に体育の授業終了!
【職員室】
しまった。
お昼ご飯を買いに行くの忘れてた。
まだ有るかな…?
はあ…この時間だと、無い確率の方が高いな。
コンビニ行くか。
【下駄箱】
「あ、ほら香、早く」
「あれ?どうした?」
「ほら」
〈眞澄が香を押す〉
「あの、先生…お弁当は?」
「これから買いに行くところ」
「良かった」
「うん?」
「これ、食べてください」
「おお!香が作ったのか?」
「はい」
「嬉しいなあ」
「ウフフ」
「待て待て、生徒から貰っちゃまずいだろ」
「鐘城先生」
「あ、魚路先生」
「生徒が一生懸命作ったんですよ。食べてやってくださいよ」
「でも、いけないんじゃ?」
「大丈夫ですよ。一本木先生も貰ってますよ」
「そうなんだ。じゃあ、有り難く頂く事にするぞ」
【職員室】
香の手作り弁当か…
「なーに嬉しそうにしてるのよ?あら、生徒の手作り弁当。良く作る気になるわね」
璃子の料理は、まるで理科の実験だもんな。
シャーレにご飯入れて出て来た事が有ったっけ。
怖いぞ、本当に。
〈お弁当箱のフタを開ける〉
「うわ〜美味しそうだな」
一口食べてみた。
何故かドキドキした。
そして、ウルウル。
「笑いながらウルウルしてるし」
「一々ウルサイ奴だな。生徒が早起きして作ってくれたと思うだけで感動だろ」
うーん何だか少し違う感情のような気もするけど…
何だかわからないぞ。
まあ、良いっか。
そんなわけで、香の手作り弁当を美味しく頂きました。
ちゃんと洗って返すからな。
【廊下】
〈職員室を覗く香、眞澄、未来〉
「いつも璃子ちゃんと一緒だよね」
「幼馴染みだって」
「良いなあ、小さい頃からずっと一緒だったんだあ」
「香と玄だって、いつも一緒に遊んでたじゃない」
「玄ちゃんは、お兄ちゃんみたいなもんだもん」
「じゃあ、先生達も同じじゃない?」
「でも、玄ちゃん香の事好きだよ」
「先生達、噂になって東京の学校辞めさせられたんだよね」
「そうだよー」
「聞いてみよう」
「えーっ?」
【理科室】
〈放課後〉
「璃子ちゃん。ここんとこ言ってかしてーな」
「どれどれ?あーここはねー……こうして、こうするのよ」
「ああ、そがにーかいな」
「ねえ、方言教えてよ。この町の方言可愛くて好きなのよー」
「方言は、年寄りしか使わんけー。俺は訛っとらん」
「確かにお年寄りの言葉は、通訳が必要なぐらいわからない時有るわね。だけどほのぼのして好きだわ」
3年生の柿崎玄君。
訛ってないつもりなのがまた可愛いわよね。
「璃子ちゃん。聞きたい事が有るのよ」
「わっ」
〈眞澄、未来、香が入って来る。玄は慌てて出て行く〉
「本当に聞くの?」
「だって確かめないと」
「なになに?何が聞きたいの?」
【響の宿舎】
「ニャー」
「おお、シロ。来たな」
「ニャー、ニャー」
「待ってろよ、ご飯あげるからな」
「シロ、ご飯貰ったのねー。響。私達も食べに行こう」
「ああ、行くか」
【ラーメン屋】
「ここ美味しいんだって。生徒から聞いたのよ」
〈中に入ると…〉
「一本木先生」
「今日は、迷惑かけました」
「法事で休みだって?」
「うん。さっき帰って来たとこ」
「何食べる?」
「ここはやっぱり蟹入りでしょう」
うわー、蟹が丸ごと入ってる。
美味しい。
そう言えば、お婆ちゃんは良く蟹の味噌汁を作ってくれるよな。
【駅前】
ラーメンにビールでほろ酔い加減の璃子。
何やら嫌ーな予感がするぞ。
一本木先生は、帰っちゃったし。
「さーて、呑むわよー」
来た来た。
【居酒屋】
鳥取県の地酒が並んでる。
「端から全部呑むわよ」
これだよ。
「わー、稲田姫だって。姫よ、姫」
「はいはい。明日休みじゃないんだから、いい加減にしとけよ、姫」
そして、酔っ払った璃子は、今日の学校での事を話し始めた。
女子達に、僕との関係を詳しく聞かれたらしい。
「だからねー、ただの幼馴染みだ、って言っといたわよ」
言っといた、って、その通りだろ。
「だって、言えないじゃない、ウィー」
しゃっくり出てるし。
呑み過ぎだろ。
「好きだったなんて」
そうか、そうか。
って、えっ?!
「小学校の時、バレンタインにチョコあげても全然喜ばないし」
ああ、そんな事有った有った。
そんなに小さい頃の話しか。
幼稚園までは、一緒にお風呂入ったりしてたもんな。
女の子として意識した事なんて、無かったよ。
それは、今でも同じだよな。
「朝風香ちゃん、響の事が好きみたいね。まあ、先生に憧れたりする年頃よね」
「璃子も、高校の時、体育科の先生が好きだったよな」
「響だって、ピアノ科の先生が好きだったじゃない。高校から音楽院の方に行っちゃってさ…それまでスポーツばっかりしてたのに、急に音楽だもん」
「音楽は、小さい頃から聞いてたよ」
親父が好きだからな。
生まれた時から伊藤恵さんのピアノ聴いて育ったんだよな。
璃子とは、大学は別々だったけど、2人とも教師になったんだ。
そして、去年僕が居た学校に璃子が来て…
「あー、次の一本で、ここに有るお酒全部呑んだ事になるんだわー」
「明日二日酔いしても知らないぞ」
「朝から温泉入るもん」
【諏訪旅館】
〈翌朝〉
「うー、頭痛い」
「だから言ったろ」
「でも、地酒、美味しかったなー」
懲りないなあ。
で、昨日の事は覚えて無いみたいだ。
まっ、いつもの事だけどね。
【露天風呂】
「近くに来ないでよ」
「わかってるよ」
ああ、何で璃子の朝風呂付き合ってるんだか…
昨日お風呂に入れなかったから、しょうがないよな。
【中町学園】
〈生徒達が登校して来る〉
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
【下駄箱】
〈香が居る。響と璃子が来る〉
「あ…おはようございます」
先生達一緒に登校して来たんだ…




