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『ツインソウル物語3』“初恋”  作者: 大輝
第19章 シロの赤ちゃん
19/24

初恋19

【中町】


6月、だいぶ蒸し暑くなってきた。


そろそろシロのノミ対策をしないとな。


僕も、ダニに刺されるのも嫌だし、ドラッグストアに行くかな?


【ドラッグストア】


「ねえ、ネズミ」


「ああ、猫のおもちゃか」


「買って帰ろう」


「シロは、紙を丸めたのが一番好きだぞ」


「赤ちゃんによ」


「まだ生まれてないのに」


でも、もうそろそろ産まれそうなお腹になってるよな。


【奥山町駅】


「今日は、どっこも寄らないぞ」


「そうね、しばらくは、早く帰ってあげて」


出来るだけシロのそばに居てやりたいんだ。


【響の宿舎】


「シロ、ご飯買って来たぞ」


「ニャー」


「たくさん食べるのよ」


「ウニャウニャウマ%☆♪ニャ」


赤ちゃん、何匹ぐらい産むんだろう?


貰ってくれるとこを探さないとな。


ドラッグストアから貰って来た箱を置くと、シロが中に入った。


「待て待て、タオルを敷いてからだよ」


押入れの中が良いかな?


狭い場所の方が安心するんだよな。


学校に行ってる間に生まれてたら、どうしよう?


「猫の事は響に聞け」って、昔から言われてたけど、お産なんてどうしたら良いんだ?


そうだ!


お袋が子供の頃、シャム猫が赤ちゃんを産んだ話しを聞いた事が有るぞ。


「モシモシお母さん。シロ、産まれそうなんだ、どうしよう?」


「大丈夫よ。ちゃんと一人で産むから」


「そんな事言ったって、心配で…」


「安心出来る場所で産めるようにしてやりなさい」


「うん」


押入れの中で大丈夫だな。


いつも、僕が居ない間寝ている場所だ。



【中町学園前】


「響先生」


香だ。


「最近、どうしてそんなに急いで帰るんですか?」


「シロが、産まれそうなんだ」


「え?赤ちゃん?」


「うん」


「わ〜、楽しみ」


【響の宿舎】


「初めて来たわ」


シロが赤ちゃんを産むのに、先生だけじゃ心配、とかなんとか言って、家までついて来た。


「受験勉強は、良いのか?」


「たまには息抜きも必要です」


「まあ、良い音楽聴いて、気分転換したりも必要だけどな」


「聴きながら勉強する時も有りますよ」


はあ、女子がここへ来たの初めてか?


浅田が来た事有ったか。


あの時は、多喜さんと一緒だったもんな。


なんか、璃子意外の女性と2人っきりだと、どうして良いかわからないぞ。


女性?


女子だろ?


今女性って思ったか?


3年になって、急に大人っぽくなったよな。


「先生、産まれそう」


「本当か?」


「出て来た」


「シロ、頑張れ」


「先生、タオル有りますか?」


「はいはい」


1匹目が産まれた!


シロが一生懸命舐めてる。


白い子だ。


ぴーぴー鳴き始めたぞ。


香がタオルで拭いて、シロのお腹の所に置くと、お乳を飲んでる。


2匹目は、茶色。


3匹産まれた。


白いのが1匹と、茶色いのが2匹だ。


「はあ、香が居てくれて助かったよ」


「フフフ、この子達のパパは、チャコちゃんかしら?」


「そうみたいだな」


どうもそんな感じだぞ。


もう少し大きくなると、変わってくるからな。


そうすればわかるよな。


「1匹はうちで飼えるけど、後の2匹は貰い手を探さないと」


「うちの子になる〜?」


「ぴーぴー」


「この子、私にください」


「良いのか?」


「大切に育てますから」


「ありがとう」



一月半ぐらいで、親から離して大丈夫じゃないかな?


確かお袋がそんな事言ってたぞ。


「あ、もう暗くなったから、送って行くよ」


【中町】


1年生の時、一度だけ送ってもらった事が有ったな…


あの時は、ドキドキしたわ。


今は、一緒に居ると安心するの。


【上町】


ああ、もうすぐ家に着いちゃう。


もっと一緒に居たいのに…


いつもそう。


先生と居ると、あっと言う間に時間が過ぎて行く気がするわ。


【芝居小屋前】


〈ガサガサと音がして、何か飛び出して来る〉


「キャッ」


〈響の腕の中に飛び込む香〉


え?


先生…


ドキドキしてるの?


どうして?


「何か…向こうの方に…走り去ったぞ」


「怖かった」


「もう、大丈夫だから…その…離れろ」


「あ…」


「…」


「先生も怖かったの?」


「うん?」


違うんだ…


じゃあ、どうしてドキドキしてたの?


【朝風校長宅】


「あら、響君…香?どうしてこんな時間に響君と一緒に居るの?」


「済みません。猫のお産を手伝ってくれて、遅くなったので送って来ました」


「前に言ったわよね、香が卒業するまではいけない、って」


「先生を責めないで。私が無理を言ってお邪魔したの」


「香は、もう家に入って勉強しなさい」


【香の部屋】


「今外で鐘城先生、晶子伯母ちゃんに怒られてたけど…」


「送ってもらったの、見つかっちゃった」


「あれま…」


【響の宿舎】


「ただいま」


〈そっと押し入れを覗く響〉


シロも赤ちゃん達も、無事だぞ。


ホーッ…


参ったな…


生徒相手に何ドキドキしてるんだ?


18才なんて、子供子供、ハハー、ハ…


あー、もう2人っきりになるのはよそう。


気をつけてたんだけどなあ。



シロの赤ちゃんは、目も開いて動き回るようになってきたけど、まだ耳が小さくて可愛い。


少し離れると、シロがすぐに咥えて箱の中に入れる。


そして7月になると、だいぶ猫らしくなってきた。


やっぱりチャコの子だな。


白いのは、諏訪旅館で飼ってくれる事になった。


立派な看板猫になるんだぞ。


最近はヤンチャ盛りで、走り回ったり、カーテンを登ったり大暴れだ。


僕が立ってると登って来たりする。


短パンなんか履いてたら、足に爪をかけてね。


「コラ、痛い痛い」


座れば、ずっと噛んでるし…


「じゃあ、行って来るぞ」


「ミュー、ミュー、ミュー」


はあ、帰って来たら、家の中が大変な事になってたりするんだよな。


でもまあ、今が一番可愛い時だけどね。


【音楽室】


「3年生は、今日が最後の部活だな」


「とうとうこの日が来ちゃった」


「寂しいね」


「今日は、何を聴こうか?」


「先生の一番好きなCDを、聴かせてください」


「良し、じゃあ、ブラームスのピアノコンチェルト第1番を、伊藤恵さんの演奏で聴きます。1990年と2000年の演奏で聴き比べてみようか?」


「わー、楽しみ」


「どちらもライブだよ」


このCDが1番好きなのは、親父の影響だよな。


〈そして、部活が終わると…〉


「じゃあね、香」


「うん」


〈眞澄が香の背中を押す。音楽室には響と香の2人だけ〉


「響先生」


「どうした?」


「部活今日で終わっちゃった」


「そうだな」


「もう、あんまり会えなくなっちゃう」


「えーっと…ああ、そうそう、子猫、諏訪が白いの貰ってくれるんだよな」


「はい、そう言ってました」


「8月になったら、渡せそうだから、今度は諏訪と一緒に来いよ」


「はい」


「じゃ、じゃあな」


〈汗汗で逃げる響〉


また逃げられちゃった。



【響の宿舎】


8月になった。


子猫達のヤンチャぶりも一層激しくなってきたけど、この目の回るような毎日も、今日で終わりだ。


「響ちゃん、子猫頂きに来ました」


おお、来たな。


今のは諏訪の声か?


まあ、僕の事を「ちゃん」て呼ぶのは諏訪ぐらいなもんだ。


【庭】


ちゃんと、2人で一緒に来たか。


やれやれだ。


「早く子猫に合わせてー」


「はいはい、諏訪は白いのだったよな」


「うわー、可愛い。湯之助」


「ミャー」


「ゆのすけ?」


「うん、オスだから湯之助にする、って決めてたんだ」


はあ、温泉旅館の看板猫、湯之助か。


「香のは、こっちの茶色いの」


「私は、家に帰ってゆっくり考えます。お姉ちゃんも楽しみにしてたの」


「ミャー、ミャー」


「ウフフ、可愛いわね〜」


【香の部屋】


「早く見せて」


「可愛いでしょう?」


「あら、タヌキみたい」


「え?」


「オスかな?メスかな?」


「女の子よ」


「ポンちゃん」


「ミャー」


「だから、女の子だってば」


「ポンちゃん、おいで」


「ミャー、ミャー」


「気に入ったみたいよ」


「えー?タヌキじゃないのに」


「ポンちゃん」


「ミャー」


響先生の家に残した茶色の子は、マエストロですって。


先生らしいわね。


「ポンちゃん」


「ミャー%#☆」


「もう、お姉ちゃん…自分の名前だと思っちゃう」


結局うちの子は、ポンちゃんになりました。


意外とカワイイかも?


そう言えば、この子のパパのチャコちゃんも、フサフサの毛で尻尾が膨らんで見えて、タヌキみたいだったわね。



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