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『ツインソウル物語3』“初恋”  作者: 大輝
第14章 Xmasは誰と?
14/24

初恋14

【上町】


今日は、皆んなで芸術鑑賞だ。


この昔の城下町に、芝居小屋が有って、そこで芸者さん達の踊りの会が有るので、生徒達と来ている。


【芝居小屋】


ここだな。


そう言えば、お婆ちゃんの実家の裏には芝居小屋が有って、その横には川が流れていた、って言ってたな。


太鼓の音が、家まで聞こえたそうだ。


序の舞に三番叟を踊る役者さんが、良く家に来た、って言っていた。


縁側に座って、曽祖母が作った料理をつまみにお酒を呑んでいたそうだ。


当時台所は外に有って、日本の昔話に出て来るような風情だったらしい。


役者さんは、一番太鼓が鳴っても二番太鼓が鳴っても帰らなくて「おっつぁん、三番太鼓が鳴っとるじぇ」って言うと「おいおい(ハイハイ)」ってやっと重い腰を上げたそうだ。


そして、ギリギリ間に合って舞台に立ったって言ってたな。


屋敷内には綺麗な小川が流れていて、その川を飛び越えて見に行ったらしい。


芝居の話しは、散々聞かされたよな。


【劇場の中】


芸者さんの踊りが始まった。


お婆ちゃんも良くこういう所で踊ったらしい。


近隣の村が寄って大きな踊りの大会が有って1位になった、ってお袋が言っていた。


振り付けをしたり、教えたりもしていたそうだ。


花柳何とか言うお師匠さんに習ったらしい。


お袋も、古典舞踊の名取なんだけど、お婆ちゃんの踊りは見た事が無いそうだ。


お婆ちゃんは「三郷(お袋)の踊りは下手」だ、と言っている。


お袋のお師匠さんも花柳だった。


今は名前を返して家元になっているけど、花柳時代の名前を言えば知らない人は居ないぐらい有名な人だ。


「芸者さん達の踊り、とっても華やかだったわねー」


璃子も、小さい頃お袋に習ってたんだよな。


お月様いくつ、十三七つ、まだ年しゃ若いな、いつも年を取らないで、三日月になっても、まん丸になっても…


ってやってた。


禿ぐらいまでやって、やめちゃったんだよな。



【諏訪旅館前】


12月になると、雪の日が多くなって来た。


雪化粧した奥山町の景色は、綺麗だな。


諏訪旅館の屋根も、白くなっている。


【露天風呂】


お風呂の中から雪景色が見えるのも良いなあ。


木の葉に雪が乗って、花が咲いてるみたいだ。


「こんばんは」


「あ、一本木先生、こんばんは」


「鐘城先生、正月は東京に帰るんだろ?」


「うん、帰るよ。こっちはホワイトクリスマスなんて当たり前?」


「当たり前だな。東京は雪は降らないのか?」


「あんまり降らないな」


【脱衣所】


温まったなあ。


冷めないうちに帰って、布団に入ろう。


【露天風呂】


〈お風呂の中に入っている一本木竜太〉


正月は、璃子ちゃんと一緒に帰るんだろうな。


鐘城先生は、いつも一緒で良いなあ。


【音楽室】


〈部活の時間〉


「この時期になると、第9ばっかりだよね」


「良い曲だけど、飽きてきた」


「じゃあ、今日は、ベートーヴェンの第9シンフォニーを聞こうか」


「だから、やめてよ」


「もう、響ちゃん、空気読めーっ」


「まあ、この時期どこからでも聞こえて来るから、やめておこう」


「じゃあ、何聞くの?」


「シューマンにしようか」


「うん」


「子供の情景とか入ってるヤツが良いかな?」


「わー、シューマンのCDこんなに有る」


同じ曲でも違う録音とか、ジャケットが変わったりすると、買っちゃうからな。


「同じ人のばっかり」


「シューマンはこの人。僕が母親のお腹の中に居る時から聞いていたピアニストだよ」


「そうなんだあ」


「良し、席に着け」


「はーい」


〈ニコニコの響の顔を見る香〉


今日の響先生、何だかとっても嬉しそう。


そんなにシューマンが好きなの?


好きなのはピアニスト?


「では、今日は、シューマンの子供の情景、幻想曲、森の情景を、伊藤恵さんの演奏で聴きます。良い演奏は何度聴いても飽きる事はないよ」



【中町学園講堂】


「これから餅つき大会を始めますけなぁ」


今日は12月24日。


終業式が終わったら、町の人達が中町学園に集まって餅つき大会だ。


皆んなでお餅をついて、つきたてのお餅を食べて、そしてお正月の分を頂いて帰るんだ。


「わあー、楽しみねー」


生徒のお母さん達は、出来たお餅を料理してくれるみたいだ。


浅田のお婆ちゃんの多喜さんも来てるな。


「なら、鐘城先生と一本木先生は、餅ついてごしないな」


「なら、俺が先にするな」


一本木先生と僕が交代でお餅をついて、璃子が捏ねる。


「良い感じだね」


「一本木先生って、璃子ちゃんの事好きなんだよね」


「わかりやすいよね」


本当わかりやすいよな。


名前の字変えた方が良いんじゃないか?


一本木じゃなくて、一本気に。


「出来たわよー」


交代だな、僕の番だ。


「わー、息がぴったり合ってる」


「さすが幼馴染みだね」


璃子のヤツ、ニコニコして楽しそうだな。


良し、出来たぞ。


つきたてのお餅。


まだ温かい。


「美味しそう」


「響ちゃん、そのままでも食べそうな勢い?」


「今小さくしますから、待っててくださいね」


生徒達が、小さく分けて丸めていく。


それを伸ばして丸いお餅にするんだ。


「小豆の用意は、もうちゃんと出来とるけぇなぁ、いつでもええじぇ」


浅田のお母さんの由紀さんとお婆ちゃんの多喜さんは小豆を、柿崎のお母さんの唄子さんが、きな粉を用意してくれた。


「やっぱり丸いお餅なのね、響の家と一緒」


「今は、うちのも丸くないけどな」


「子供の頃、良く響の家で頂いたお餅が丸かった」



西の地方は丸餅で東は四角って、随分大きくなるまで知らなかったんだ。


うちのお餅は、いつも、岡山の大叔母が送ってくれていたから丸餅。


丸いのが普通だと思ってたんだけどね。


大叔母が亡くなってから買うようになって、四角くなったんだ。


僕はどうもまだ慣れなくて、お餅はやっぱり丸だと思ってる。


大叔母のお餅、美味しかったなあ。


東京育ちだからうどんより蕎麦が好きなんだけど、お餅の形だけは絶対丸。


ああ、そうそう。


それから、僕の家の変なとこは、トコロテンが黒蜜。


酸っぱいのは、ちょっとびっくりした。


僕は江戸っ子じゃないけど、東京育ち。


なのに、何だか変。


「小豆のも、きな粉のも美味しいね」


「ああん、食べ過ぎて太っちゃう」


【中町学園前】


「ああ、明日から冬休みだな」


「ちょっと、その前に、今日はイブよ」


「あ、そうか」


【校長宅の囲炉裏】


〈夕食を食べる香、涼子、晶子〉


「今日は、クリスマスイブだね」


「響先生どうしてるかな?」


「東京だったら、女の人と夜景の見えるレストランとかでディナー?」


「もう、お姉ちゃん」


「こっちだと、どこ行くのかな?」


「誰かと…一緒かな?」


「香。まだ響君の事が好きなの?やめなさいって言ったでしょう」


「そんな事言ったって、好きなんだもん無理だよ」


【香の部屋】


今日も璃子ちゃんと一緒かな?


ただの幼馴染み?


でも、仲良過ぎるよ。


「響先生、璃子ちゃんの事どう思ってるんだろう?」


「高梨先生って、明るくて可愛い人だよね」


「うん」


「香は嫌い?」


「ううん、好きだよ」


優しいし、嫌なところなんて無いもん。


でも…


だから心配なの。


璃子ちゃんが、素敵な人だから…



【神社の中の部屋】


〈畳の上に座る涼子〉


好きなだけ悩みなさい。


悩んで良いのよ、人間なんだから。


先生に憧れる年頃だしね。


ああ、でも…


先生達、そろそろ結婚を考えないといけない年よねー。


【大山のスキー場】


リフトで登って行く。


「うわー、鳥になった気分だわー」


【ゲレンデ】


ライトアップされて、綺麗だな。


でも、あまり人が居ないぞ。


何だか雲行きが怪しくなって来たか?


吹雪いて来たので、僕達はロッジへ向かう事にした。


【ロッジ】


無事到着。


「うー、寒かった」


デッカいストーブが有って、中は暖かいな。


外は吹雪だ。


しばらく山を下りられそうにないぞ。


幸運にも部屋が空いていたので、泊めてもらう事にした。


【客室】


〈窓の外を見る璃子〉


「雪、止みそうにないわね」


空いてたのは、一部屋だけ。


ツインの部屋だ。


まあ、今更璃子と2人の夜なんて、どうって事ないけどね。


窓の外を見ている璃子の肩に触れると、ピクッとした。


どうしたんだ?


「今日は、クリスマスイブだけど、変な事考えないでよ」


「変な事って何だよ」


「オオカミ男に変身しないで、って言ってるの」


「誰が、お前相手に変身するか」


「失礼ね」


「月…見えないしな」


〈寄り添って窓の外を見る2人。ケーキが運ばれて来た〉


「いつの間に頼んだの?」


〈ニコニコの璃子〉


「今日がイブだ、っていうの忘れてたら、また怒られるからな」


「怒ったりしないわよ」


「お前の不機嫌な顔は、見たくないよ」


璃子はいつもニコニコしているから璃子なんだ。


〈そして…ケーキを食べ終わると…〉


もう、響ったら、サッサと1人で寝ちゃったわ。


全然ロマンチックなXmasじゃないんだから。


せっかく、White Xmasなのにー。



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