腕ずもう
あー、あー、テステス。テステス。ただいまマイクのテスト中。
いや、ないんだけどね、マイク。ノリと暇つぶしを兼ねて、今から腕相撲の実況中継をしてみたいと思います。
さて、状況説明からいきましょうか。
今日は文化祭の最終日だった。クラス企画も無事に終わり、教室に机と椅子が戻ってきた。適当に並べられたそれらに、まだ興奮冷めない若者(ちなみに高校生)は大まかに男子と女子に別れて喋っていた。
私は性別上は女に属しているため、当然女子のグループにいた。だから、詳しいきっかけは知らない。しかし、私は興奮冷めない(ここ重要)男子たちが何かの拍子に力自慢をし、それを証明するのと悪ノリでおっ始めたのだと思う。まあとにかく、証明方法というのが腕相撲なのである。次々に行われて、ドンドン盛り上がっていく。
更に、その熱が女子にも伝わっていった。グループごとに観戦し始め、とうとう腕相撲を行う人たちが出てきた。私たちのクラス担任は女性なんだけど、その人(以下先生と呼ぶ)と女子生徒のリーダー格である明里が勝負を始めたのだ。
明里は運動部だ。腕力もありそう。これは先生が不利か?
審判役の女子が合図する。
レディー、ゴー!!
え!?これは驚いた。先生の圧勝だ!
小柄な先生にまさかそこまで力があるとは・・・・・・教師の力を舐めない方がいいことを、なんか別の意味で思い知らされましたね。日々、プリントやらノートやらを持ち歩いていて鍛えられたんだろうか。
おっと!今度は男子vs女子の対決だあ!!
男子は普段ちゃらけてばかりの人気者、竹中君(以下竹中と呼ぶ)。女子はリーダー格その2の亜美だ。
さあ、いくよ!
レディー、ゴー!!
腕に一気に力が入る。しかし、均衡は保たれたままだ。動かない、いや、少しずれた。竹中は笑いながら、時々叫びながら耐えている。私の位置からはあいにく亜美の顔が一部しか見えないが、同じく笑っているようだ。両者一歩も引かない。ああ、だけど少しずつ亜美の腕が下がっていく。
勝ったのは竹中だった。接戦のいい試合だった。
「先生、おられます?いたいた、よかった。この後の流れ確認したいんですが・・・・」
うん?隣のクラスの担任だ。どうやら先生に確認したいことがあって来たらしい。そんな!もしかして腕相撲大会が終わってしまうのか?ガーン、ショック!!
「あ、渡井先生だあ。」
「ちょうどよかった。せんせー勝負してください。」
「見たい見たい」
クラスメイトが騒ぎ始める。
渡井先生が勝負台(腕を乗せる机2つ)に案内されていく。
やるんかい!!!
げに恐ろしきは、その場のノリと生徒たち。これ笑っていいよね?
おっとっと、実況から逸れていた。申し訳ない。私は影に徹しよう。
さて、続く3戦目は名もなき野球部男子vs渡井先生!(嘘です、ごめんなさい。ちゃんと彼には野上という名前が・・・)男同士のガチンコバトルでっす!!さあ現役が勝つか大人の知恵が勝つか!「運動不足で自信がないなあ、負けるかも」とかいいつつ勝負台に腕を乗せる渡井先生。笑ってますよ、結構余裕そうですね。
レディー、ゴー!!
流れるように腕が倒される。まさに一瞬のうちに結果が出た。口ではなんと言いつつも圧勝だったよ、渡井先生。すごい、さすが!年取ってるけど、体育の先生は伊達じゃなかったってことですね!?
そして渡井先生が先生と確認を終えて教室から出て行ったころ、腕相撲最後の戦いが始まろうとしていた。
おちゃらけ男子こと竹中vs女子のリーダー明里。2回目の勝負だ。1回目は竹中の勝ちだった。リベンジを周りが騒ぎ立てる中、2人は配置に着く。最後だし、直前の会話をちょっと拾ってみよう。
「んーと俺こっちだから、あ、こう置けばいいか。よし、俺負けんから。」
「あ、ごめん。手、変えてもいい?私、左利きなんだけど。」
「は!?え、左利き?利き手って右じゃないの!?」
竹中は机から手を離して全身で驚きを表現している。これはあれだ。まさにオーマイガー!!!
「え、うん。」
じゃっかん引き気味に答えている明里とは反対に、周りはワッと沸き返って騒ぎが倍になってる。まあ、無理もない。私もめちゃくちゃビックリした。だってこれで勝負がわからなくなった。ってゆうか最後でこんな爆弾発言するか?普通。今盛り上がりの最高潮だぞ、おい。ちょっとドキッとしたよ。
あ、すみません。またやっちゃいました。実況に戻ります。
竹中のオーマイガー!が済んだところで、改めて2人が向かい合う。片方の手で机の端を握り、残った手をお互いに固く握り締める。審判の手が添えられ、異常はないか確認される。審判が手を離した。
レディー、ゴー!!!
最早ただの遊びじゃない。真剣勝負だ。一瞬では決着がつかない。互いに力を込めている様子が伝わってくるが、両者の腕は動かない。
と、その時、竹中の腕が押される。バランスが崩れ、そのまま手が台についてしまう!!いや、持ち堪えた!半分より少し上のあたりで押された腕が食い止められる。そのまま竹中の腕が明里の腕を押し返していく。明里は踏ん張るが、力が足りずに腕が下がっていく。
両者の力は組み合っている腕だけでなく、机にも加えられている。台は2つの机であり、それぞれ明里と竹中が端を握っている。つまり机には明里の左右の腕の力、竹中の左右の腕の力がそれぞれに働いているということだ。だからだろうか?突然机がガクッと揺れた。こっちもバランスが取れなくなったのか?あ、審判がしゃがみこんだ!机の脚を支えてる。ナイス!!これで動かない!!
とうとう女子の手が台についた。クラスメイトは歓声をあげ、勝った竹中は晴れ晴れとドヤ顔を浮かべている。負けた明里は悔しそうに笑っている。
いやあ、いい勝負でした。2人に拍手を!
腕相撲大会は終了となった。
いやあ、お疲れ様でした。
この後、お昼ご飯を食べて解散しました