なにものでもない毛糸のかたまりについて
深夜近くなると、ここのところずいぶん肌寒いので、去年から編み続けている何かしらを、私は押し入れから引っ張り出すことにした。
大きな毛糸のかたまり。
これが何かと訊かれても、私自身答えに困る。
目的もゴールもないままに、延々編み続けた大きな毛糸のかたまり。
春と夏を超えて、今年もフワフワした姿のまま、私の膝の上へと戻ってきた。
編み物をしているんです、と言う。
何を編んでいるの?と訊かれる。
何も、と答える。ただ編んでいるんです。と答える。
訝しそうな顔をされる。もしくは笑われる。
セミダブルのベッドの上一面を占領できてしまいそうな、その毛糸のかたまり。
毎晩私はそのかたまりを大きく大きく育ててゆく。
一目ずつ、丁寧に手早く編み込んでゆく。
ただぼんやりと、単純作業を延々とくりかえしてゆく。
一目一目に、私の怠惰と無感情と無感覚が詰まっていく。
一目一目に、私の無益な時間と無駄な労力が詰まっていく。
その果てに、なにものでもない、大きな毛糸のかたまりが出来上がる。
そしてそれは、なにものでもないが、とりあえず私や猫たちを暖める。
とても素敵なことだと思う。
とても素敵なことだと思う。