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闇の能力者  作者: mimi
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闇の能力者

その日は新月だった。


薄暗い林の中、道々に小動物の死骸が目立つ。

それを一心不乱に貪る化け物がいる。


植物たちがざわめく。

まるで何かに怯えているように、道端の雑草から樹齢数千年以上の大木まで、ザワワ…と落ち着かないのだ。


そこに、若い女が1人いた。

もう1対、女の目の前には醜い化け物が立ちはだかっていた。

女の気配に気づいて、化け物は振り返った。


「高等妖魔の妖狐だぜ…。こんな御馳走、めったにねぇ…」


化け物に、女は応じない。

女はプチッと、雑草を一ふさ切り取った。

雑草は、2本のナイフとなった。


化け物は、ゴオオオオオ!!と咆哮する。

女も瞬時に黄金の瞳・黒髪から銀色に変化していく。


「食らい尽くしてやるぜ!!!うおああ!!」


化け物は女に向かって突進する。

女はナイフを構え、瞬時にその場から姿を消す。


「うおあ!?なに!?」

「遅い」


ナイフが化け物の首を撥ねる。そのまま化け物は、胴体が倒れた。

その後、女の姿も消えた。





――――――…





季節は夏。

大学はちょうど夏季休暇期間に入った。

バイトを考えていた井上大介は、陰陽師の父・井上直幸により、仕事を手伝うよう命じられた。

大介は父のことは好きだが、陰陽師という仕事にあまり快く思っていない。

幼い頃から父の仕事ぶりを近くで見て育った大介からすれば、人々の厄介事を半ば無理矢理押し付ける相手にしか見えなかった。

高校で進路を決めるとき、仏教系列の大学へ進学することを勧められたが、かねてから興味があった医学の道に進みたいと、無理を承知で父に願い出たが、そうか…とあっさりOKしてくれた。そのとき、父は言っていた。


「人々の拠り所は昔は私のように宗教に嘆願してきていたんだ。でも、きっと時代は変わってきているだろうな…。私はお前が医学の道を選んだことには反対をするつもりはないし、大介が選んだ道なのだからそれでいいのだろう。だが、大介、1つ忘れるな。陰陽道だろうと、医学だろうと…その力は誰のために必要か…」



大介は、この言葉から医学部進学を目指した。浪人も経験したが、父と親しくしている近所の人たちから、たくさんサポートしてもらったり、時には相談に乗ったりして、プレッシャーから随分と助けられた気がした。


大学から帰宅した大介は、父がいる本堂へ向かった。


「大介。今日はこれから、客人が来られることになっている」

「お客さん?」

「仕事がな…今回は私よりその方の協力なしには果たせなくてな…。若い女性なのだが、もの境内に来られたらご案内してくれないか?」

「若い女の子?退魔師?」

「いや、そうではない。その方は少し複雑な事情があってな。全国各地を流浪の旅をされているのだ」

「女の子1人で?大丈夫なのか?」

「あ、あぁ…」


妙に今日は父の歯切れが悪い気がした。

若い女の子が1人で全国を旅しているにも何かあるのかと思ったが、父はそれ以上語ってはくれなかった。




――――…





『やはり、奴の力を借りるしかないのか…』


『だが、奴は人間ではない。私たちも、協力した後、どうなるのか皆目見当もつかない…』


『あぁ、もちろんそれは分かっている。私たちが今まで通り霊力を用いて妖魔を滅することができれば、それでよかったのだ。しかし…』


『やはり、老いには勝てない…。後継と考えていた君の息子も、自分の道を歩み始めた…。私たち陰陽師を存続させるには、どうしても大介君が陰陽師になる必要があったというのに…』


『彼には、僕の後継にするつもりはありません。僕も彼も、自分の意志で決めたことです。彼女によってここが潰されるのなら、それが僕たち陰陽一族の運命だったのかもしれません。いずれにしても、今回の妖魔…彼女の力が必要です。半妖魔である、妖狐杏里(ようこあんり)の力が…』





――――…






その夕方。

神社の境内に1人の女性が現れた。

境内の掃除をしていた大介は、「すいません」という女性の声を聞いた。


「この神社に、井上直幸という方はおられますか?」


大介は、昼間父が言っていた若い女性とは、彼女のことだと直感した。

それにしても、若い。そして、美人だ。

全国を旅していると聞いていたが、肌は雪のように白い。

体も痩せすぎず、太りすぎず…でも、手足がすらっとしている。まるでテレビに出るようなモデルか女優のようだ。

髪だって漆黒で、さらさらとしている。

まるで人形のようだ。


「この神社に、井上直幸という方はおられますか?」


女はもう一度大介に聞いた。

はっとして我に返った大介は、彼女にご案内しますと半ばきょどって彼女を神社の中へ案内した。




―――…




「お初にお目にかかります。私が当代陰陽師・井上直幸でございます。このたび、私どもの依頼を受けていただき、ありがたく存じます」


直幸は彼女に深々と一礼した。

案内した大介は、父から部屋を下がるよう言われ、部屋をいったん離れた。


部屋からいなくなった大介を確認した後、女は口を開いた。


「息子か…」


女からは、高圧的なオーラが出ていた。先ほどの、大介に尋ねた言い方とは、まるで別人のようだ。


「はい。しかし彼は陰陽師ではありません。医学生です」

「ただの人間には興味はない。私は依頼された仕事を遂行するのみ」

「それなら助かる。私たちも、人間だからな。命は惜しい。それで、妖魔の方は?」

「ここへ来るまで、街を見てきた。だいぶ黒い瘴気が充満している。このままでは、人間の中にも病で倒れる者が出てくるだろう」


女の言葉に、直幸はやはり…と項垂れる。

先日より、動物たちの中で変死する事例が立て続けに起こっていた。

直幸たち陰陽師が調査した結果、妖気が強い妖魔の仕業であることが判明した。

妖魔を突き止め、直幸たちは妖魔退治を行ったが、1人妖魔の妖気にやられ、今も眠り続けている。


そのため、半妖魔である女‐杏里に依頼したのだ。


「今のところ、限りなく妖気を抑えている。街の瘴気がどんどん濃くなってくれば、妖魔は人間をいずれ襲ってくるだろう。あのお前の息子も、いずれ妖魔に食い殺されるかもしれん…」


杏里の半ば脅しと言える言葉に、直幸は怯むことはなかった。

むしろ、杏里に向かって頭を下げた。


「頼む、妖狐杏里。彼はまだ、若い。陰陽師だけに人生の大半を投げ打った私と違い、彼には選ぶ自由がある。どうか、彼や街の人々を守ってくれ…」


直幸の懇願に、杏里は分かったと言った。


「では、私が妖魔を退治したあかつきには、お前の残りの霊力を頂こう。これが、我等への見返りだ」


頭を下げたまま、直幸は答えた。


「わかりました。あなたの望むままに捧げます。妖狐杏里、いや、『闇の能力者』…」


契約は成立した。



―――…



大介は付き合っている彼女にスマートフォンでメールを送ると、部屋に行き、寝る準備を始めた。

電話がかかった。彼女からだ。


「もしもし。明日、海行くの大丈夫?うん?あぁ、俺は大丈夫だよ。…うん。…うん。わかった。お休みー愛している」


電話を切ると、大介は床についた。

その様子を、神社の庭から杏里は様子を窺っていたことも知らず…。




―――…





今日は、大学で知り合った彼女と海に行く約束だった。

可愛い彼女だ。

容姿もそうだが、雰囲気が大人びていて、優しくて…、どうしても居心地の良さを感じてしまう。

勇気をもって告白したら、両思いであることが分かってとてもうれしかった。

いずれ父にも紹介したいと思うが、今はゆっくり一緒にいる時間を大切にしたいと思い、父に紹介するのは先延ばしにしていた。


「大介くーん!」


海ではしゃぐ彼女を見て、とても幸せに感じる。


「大介くーん、気持ちいいよー!ねー、一緒に泳ごうよー」

「おーう。今行くよー」


大介が砂浜で寝そべっていた状態から立ち上がろうとしたとき…


目の前が真っ暗になった。


「お!?」


すぐに意識は戻ったが、妙に気分悪い。

持ってきた水筒のお茶を一口飲むと、大介は彼女のもとへ向かった。


その日は、彼女と思いっきりはしゃぎまくった。

自分の体が、徐々に変わってきていることも知らず…。




―――…




夕方になり、そろそろ帰ることにした。

はしゃぎすぎたと大介は思った。

明日は肌が焼けるかもしれない。彼女に悪いことしたな…。

アロマでも買って帰ろうか話していたとき、彼女がギュッと大介に抱きついた。


「あたし、まだ帰りたくないよ…」


もっと、大介くんと一緒にいたい…。


そんな告白に、俺もだよ…と大介も、彼女を抱きしめた。


「俺も、ずっと一緒にいたいよ…」

「大介くん…好きよ」

「俺もだ…加奈」

「あたしも…」


加奈は、つま先を伸ばし、大介の唇に自分の唇を押し当てる…。


「ん…」


柔らかい。とても柔らかい。そして気持ちいい。

何もかも忘れてしまいそうで、なんだが気持ちいい気分になってしまう。

キスが、こんなに気持ちいいなんて知らなかった…。


「大介くん…好きよ…」

「俺もだ、加奈」

「うん、嬉しい…」


加奈は、大介をギュッと強く抱きしめる。


「好きよ…大介くん…お願い…

――私のご飯になって!」

「えっ!?」


一瞬驚いた大介は加奈の姿を見た。

そして、驚愕した。

加奈は、蛇のような長い舌を伸ばして大介の体を拘束していたのだ。

その姿は、蛇のような体中鱗に覆われていた。


「か、加奈…」


どうして…。


「フフフ…。捕まえた…。お前の霊力、ほしゅうしてほしゅうしてたまらんかったわ…」


大介を拘束したまま、蛇の化け物はそのまま大介を上に引っ張っていく。


「な、なんで…。加奈は、どうしたんだよ…」

「フフフ…。加奈、など最初からいやせぬ」

「え!?」

「霊力の強いお前を食うため、わざと若い女に扮したまでのこと…。われら妖魔にとって、霊力の強い人間はまたとない極上の食事…。これで、わらわも、妖気を強くできる…」


蛇の化け物は口を大きく開いた。


「さぁ、大介よ…。わらわの食事となれ…!」


舌が口の中に引き戻される…!

大介は瞬時に目を閉じたが、すぐに化け物の悲鳴がこだました。

すぐに大介は、砂浜に倒れ、舌を切られて苦しむ蛇の化け物を見てしまう。

切られた舌の隣には、草が一片横に添えてあった。


「おのれ…!」


蛇の化け物は、明後日の方を向いた。


「何者じゃ!」


現れた姿を見て、大介は驚いた。


「君は…」


昨日の、あの若い女だ。

は驚くことなく、微動だにせず真っ直ぐこちらに歩いてくる。

手には、鋭い緑色のナイフを持って。


「彼の体中に、妖魔の瘴気がこびり付いていた。近くにいると睨んでつけていたが、どうやらあたりだったようだな…」


女の様子に、化け物は怒り心頭だ。


「よくもわらわの食事の邪魔を…!貴様から食ろうてやる!」


ザシュ!!


「ひぎゃあああ!!」


女はナイフで、瞬時に化け物の四肢を切断したのだ。


「お、おのれ…!」


女が口を開いた。


「彼の陰陽師として受け継がれた霊力を自分のものとして取り込むつもりだったようだな。だが、相手が悪かったな。お前に私は殺せない。次に私が動けば、お前は死ぬ」

「黙れー!!!まずは貴様から食ろうてやるわ!!」


化け物が女に突進する。

女はまた姿を消し、化け物の背後に廻る。


ザシュ!!


化け物は、胴体を真っ二つにされ、砂浜に叩き付けられた。

化け物は怯えた。今まで人間の中で、こんな恐ろしいやつは知らない。


「人間を食うしか妖気を高められないなら、高等妖魔の私には勝てん…」


女の姿が変わっていた。

銀色の透き通った長い髪に黄金色の瞳、頭の左右に尖った耳が生え、白い尻尾が出ている。


「貴様、妖狐…!」


化け物は彼女の姿を見てすぐ、ナイフで息の根を止められた。




――…





「ありがとう。助かったよ」


大介は女に礼を言った。


「礼は父上に言うことだ。私は依頼があったからそれを遂行したまでのこと」

「あ、あぁ。一体どうして俺に瘴気がついているって分かったんだ?」

「昨日、神社へ向かう時、瘴気が渦巻いているのが見えてな。それで、お前があの妖魔の食事になるのも時間の問題だとも分かった」

「そ、そうか…え?」


突然目の前が暗くなった。瞬時に女に腕を掴まれ、意識を再び取り戻すことができた。


「あの妖魔の妖気を長い間晒されたせいだ。後少し私が来なかったら、お前は妖気に毒され、眠りについていなければならなっかただろう」

「よ、妖気に…」

「お前の身を案じたお前の父は、私にお前の周囲を調べるよう依頼したのだ。最近、息子の周囲で瘴気が渦巻いていると…。それで、調べたらこのざま。随分と甘やかされ育ったものだ。父親が霊力の高い陰陽師なら、自らも霊力の強さを自覚するべきだったな。ま、この先お前は一生妖魔に狙われる人生になるだけだが…」

「ど、どういうこと…」

「言葉の通りだ。お前は霊力がただ漏れで、常に妖魔に狙われていたんだ。今までは父親に守ってもらっていたが、お前が父親と別の道を選んだことで、妖魔共に隙ができ、今回のようなことになった。医者になりたいと聞いたが、やめておくことだな。お前1人のせいで、大勢の人間が妖魔の餌食になるだけだ」

「そ、そんな…」

「忠告はした。せいぜい、人生設計を見直すことだ」


女は1人、海岸を後にする。助けた大介を1人残して…



――…



「そうか。彼女はもう出て行ったのか」


神社に戻った大介は、父・直幸に女は妖魔を退治してすぐに海岸から消えたと話した。


「なあ、父さん。なんで黙ってたんだ?俺の霊力が強いってこと…」

「…」


息子のこの申し出に直幸は黙ったままだった。


「あの女の人に聞いた。俺の霊力が強くて妖魔に狙われているって。どうして一度も言ってくれなかったんだよ。でなかったら、医学部には行かなかった…」


直幸は息子の話に、それは違うと首を振った。

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