ボトルトイレ
――もう少しで漏れる。
電車内。急な便意に襲われた男はそう思った。殿筋を引き締め臨戦態勢に入り呼吸を整える。
――洋式はあったか。
構内図を脳内で展開し便器までの最短経路を導き出す。予想所要時間は二十秒弱。
「降り口はあ右側でいす」
アナウンスが終わり、目つきを変える。停車は近い。
――いま楽に!
車両扉が開き競歩で駆け抜ける。眼前には男性トイレのマーク。いよいよ便器とご対面! と思いきや鍵のかかった扉には数人の列。万事休す。
――考えろ!
どうすれば便器を使わず排出可能か。思考を張り巡らせ、閃いた。
――ペットボトル!
鞄から飲みかけの容器を取り出し、自らの排出口に当てる。位置確認よし、あとは素肌を晒すだけだが。
――さすがに人前ではやばいか。
その場を離れ改札を抜けるとコンビニを発見。
――あそこなら人目につかない!
急いで店内に入り、店員の挨拶より早く男は叫んだ。
「トイレ借ります!」