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 ドアを開けリビングに入れば、野菜炒めにステーキ、味噌汁、マッシュポテトサラダ、ミルク、ひじきの煮つけと、佐奈ファンからしてみれば感涙ものの手料理がテーブルを埋め尽くさんばかりに並べられていた。


 「……すごいね」

 眼の前の豪勢な料理を前にした僕は小さくつぶやいた。


 「さあ、冷めないうちに全部食べてくださいね!」

 と、佐奈は満面の笑みを浮かべている。

 残したら別の意味で感涙ものかもしれない……


 佐奈と向い合ってソファに座り、いただきますと手を合わせ、箸を掴む。ふと視線を感じ、ちらっと佐奈を見た。

 ジューシーな肉汁滴るステーキの切れ端を、僕の口元へ運ぼうとしている。


 「お兄様。はい、あーん♪」


 「いや、一人で食べれるから……」

 フルフルと首を全力で横に振る。


 すると、佐奈は信じられないものを見たような目で、

 「お、お兄様……? もしや私のことがお嫌いに……?」


 捨てられた子犬のように開けられた瞳からは、いじらしいながらも、ちらちらと殺意が見え隠れしているようだった。



 「違う違う! 食べるよ! 食べさせてもらうから!」

 見えない圧力に押され、ご機嫌をとる。

 今に始まったことではないが、僕の人生は佐奈の手のひらから転ばされてるようなものだ。


 「はい! それでこそお兄様! 私の生涯の伴侶となるお方ですわ!」

 霧が晴れたように、パッと佐奈の顔が明るくなる。


 見慣れている僕以外が見たら、まるで女優レベルだろう。

 僕は胃もたれを覚悟して、料理を口に迎え入れた。


 「ふう……食べた食べた」

 食後のミルクを飲み終え、グラスを置く。


 「はい、お粗末さまでした♪ お味付けはいかがでしたでしょうか?」

 隣で座っている佐奈が僕の腕を引っぱりながら聞いてきた。


 「うん、凄くおいしかったよ」


上等な肉を使っているだけあって、ウエルダンで焼いたステーキはレストランで出せるレベルのものだった。


 「そうですか! 隠し味をたっぷり入れた甲斐がありましたわ」

 「隠し味……? そんなもの入ってたの?」


 飽きないように何か特別な調味料でも使っていたのだろうか。


 「ええ、愛情という名の隠し味を……」

 ウットリと組んだ手元の間から、指にバンテージを巻いているのが見えた。


 「あれ……ケガしたの?」心配して声をかける。佐奈は慌てて、

 「い、いえ! 大した傷ではありませんわ! ご心配なさらずに」


 僕から見えないようにと、後ろ手で腕を組み、洗い物をしてきますとキッチンの方へと消えていった。



 うん、やっぱり気のせいか。

 ――料理から血の匂いがしたのは

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