5
ドアを開けリビングに入れば、野菜炒めにステーキ、味噌汁、マッシュポテトサラダ、ミルク、ひじきの煮つけと、佐奈ファンからしてみれば感涙ものの手料理がテーブルを埋め尽くさんばかりに並べられていた。
「……すごいね」
眼の前の豪勢な料理を前にした僕は小さくつぶやいた。
「さあ、冷めないうちに全部食べてくださいね!」
と、佐奈は満面の笑みを浮かべている。
残したら別の意味で感涙ものかもしれない……
佐奈と向い合ってソファに座り、いただきますと手を合わせ、箸を掴む。ふと視線を感じ、ちらっと佐奈を見た。
ジューシーな肉汁滴るステーキの切れ端を、僕の口元へ運ぼうとしている。
「お兄様。はい、あーん♪」
「いや、一人で食べれるから……」
フルフルと首を全力で横に振る。
すると、佐奈は信じられないものを見たような目で、
「お、お兄様……? もしや私のことがお嫌いに……?」
捨てられた子犬のように開けられた瞳からは、いじらしいながらも、ちらちらと殺意が見え隠れしているようだった。
「違う違う! 食べるよ! 食べさせてもらうから!」
見えない圧力に押され、ご機嫌をとる。
今に始まったことではないが、僕の人生は佐奈の手のひらから転ばされてるようなものだ。
「はい! それでこそお兄様! 私の生涯の伴侶となるお方ですわ!」
霧が晴れたように、パッと佐奈の顔が明るくなる。
見慣れている僕以外が見たら、まるで女優レベルだろう。
僕は胃もたれを覚悟して、料理を口に迎え入れた。
「ふう……食べた食べた」
食後のミルクを飲み終え、グラスを置く。
「はい、お粗末さまでした♪ お味付けはいかがでしたでしょうか?」
隣で座っている佐奈が僕の腕を引っぱりながら聞いてきた。
「うん、凄くおいしかったよ」
上等な肉を使っているだけあって、ウエルダンで焼いたステーキはレストランで出せるレベルのものだった。
「そうですか! 隠し味をたっぷり入れた甲斐がありましたわ」
「隠し味……? そんなもの入ってたの?」
飽きないように何か特別な調味料でも使っていたのだろうか。
「ええ、愛情という名の隠し味を……」
ウットリと組んだ手元の間から、指にバンテージを巻いているのが見えた。
「あれ……ケガしたの?」心配して声をかける。佐奈は慌てて、
「い、いえ! 大した傷ではありませんわ! ご心配なさらずに」
僕から見えないようにと、後ろ手で腕を組み、洗い物をしてきますとキッチンの方へと消えていった。
うん、やっぱり気のせいか。
――料理から血の匂いがしたのは