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家に帰ってきてすぐ、僕は部屋のベッドに勢いよく飛び込んだ。
「何だったのかな…あれは」
ベッドの上で呟く。
あんなことがあったばかりだから早足で家に帰ってきたのだが、明日になれば噂は避けられないだろう。はあっと僕はため息をついた。
ふと唇に触れてみる。舌と歯茎の隙間を指でなぞってみる。
「なんで僕は」
私のことを好きですかという問いに、しっかり首を横に振って否定しなかった。
だけど、それを言ってしまうと、何かが壊れそうな気がした。
でも、いつかは言わないといけない。
父さんが近親相姦を許すなんてありえない。
思い返してみても、堅物の父にとって人生はビジネスと同じで、固定観念と社会常識の塊のような人だ。
飲食店やホテル経営を展開している会社の社長になって以来、今はアメリカの企業に勤めている。
今も真鍮製のデスクに座り、パソコンの前で難しい顔をしてるに違いない。
(だったら……)
父さんのことを考えるといつも胸がムカムカしてくる。
(どうして子供なんて生んだんだ。今三十八だから、二十三歳のときに結婚したってことになる)
(母さんは何を思って僕を生んだんだろう)
下世話な考えだった。僕は眉をしかめる。
「別にないさ。意味なんて」
ぼそっと吐き捨てるように言うと、少し心が軽くなるような気がした。
そこでバンとドアが開けられ、佐奈が入ってきた。
「お兄様ーっ! お夕食ができましたわよ!」
勢いよく入ってくるやいなや、僕に抱きついてくる。
「お兄様、今日はご馳走ですわよ! お喜びください!」
「おわ、なにさいきなり」
ベッドから転げ落ちそうになり、僕は慌てて言った。
だが、佐奈はそんなことお構いなしとばかりに、
「いいから早く来てください! お料理が冷めてしまいますわ! それともなんですか? 私の愛情たっぷりの料理が食べられないと言うのですか? そのようなことないですよね? でも、もし私を裏切るようなことをいたらただでは済みませんから!」
「あ、ああ……」
いっぺんに早口で言われても、何が何やら分からない。
「わかったよ。いつもいつもありがとね」
「まあ、お兄様が素直に褒めてくださるなんて。珍しいですわね♪」
佐奈は嬉しそうに言った。僕はいつも素直なつもりだったのだが。
「さあさあ、早くリビングに行きましょ、お兄様✩」
「わかったわかった」
「わかったは一回でいいですよ♪」
絡ませてくる佐奈の腕のぬくもりを感じながら、僕は1階のリビングへと向かった。
どうでしょうか? つたない文章ですが、感想を言って頂けると嬉しいです!