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僕の家は豪邸という程ではないが、背伸びしても届かないほどの堀に格調高く囲まれてる程度には豪勢だ。二階立ての木造の一軒家だが、 築年数もそれほどたっていないし、東側にある広壮な庭に大きな池があり、尾ひれを回して鮒が泳ぎ回る様は映画のセットに使われても違和感のないレベルだと思う。
そんな邸宅に今佐奈と僕で二人暮らしをしてるわけなのだが、始めた当初はよく言えばスペースを持て余し、悪く言えば無駄に広くて落ち着かないものだった。
初日だから遠慮するかと思えばそんなことはなく、佐奈は常に僕と行動を共にし、朝は過剰なスキンシップ、昼は厳しく浮気チェック、夜は寝込みを襲いまくりという想像しただけで中学生には刺激が強すぎる生活だった。
しかし気づかぬ内に慣れてしまったようで、あの日全てを打ち明けて、今ではここが佐奈と僕が帰る"家”なんだ、と強く実感していた。
「あれえ……?」
扉を開けた僕はすっとんきょうな声をあげた。
この家にもっともそぐわない物を見つけたからだ。
すりきれた手で開けたドア越しの玄関に三足分の靴が並んでいる。
一足は佐奈の黒のローファーで間違いない。ではもう二足は……?
婦人用のパンプスに男物の革靴。どちらも高級そうだ。
佐奈の奴、友達でも連れてきたのか? いや、あいつは僕以外の人間は目に入らないらしく、逆に僕が友達を連れてこようものなら男でも遠慮なく締め出したものだ。いや、というかそもそもこんな大人っぽい靴履いてるクラスメイトいないし。
「うーん、謎が謎を呼ぶな……」顎に手を乗せ考え込む。
「何が謎なんですの?」
「いや、この靴がね……てうわぁ!」
「キャッ!」
考えに没頭している所にいきなり声をかけられ、思わず大声をあげてしまった。
ドキドキするのを隠し声の主を見ると、制服姿のままの佐奈が立っている。
「お、お兄様。どうしたんですのいきなり」
流石の佐奈も不意を突かれたらしく、手を胸元に当てて額に汗をかいている。
「い、いや、何でもない。それより誰か来てるの?」
内心は心臓がバクバクしていたが、出来るだけ平静を装い聞いてみる。
すると、佐奈は当惑したような表情を浮かべた。
「あ、あの……お兄様……それが……」
佐奈にしては珍しく言葉が途切れ途切れになっている。
いつもならドアを開けた瞬間ダイブしてくるのに今日はそれもなかった。
「どうしたの? どこか気分でも――」
悪いの? と言いかけた瞬間だった。思いがけない人物が僕の名を呼んだ。
「久しぶりだな、冬弥」
「……父さん?」
今日はやたら驚くことが多い一日だ。
なんってたってずっと家を空けてた親がいきなり帰ってきたのだから。