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そして10分ほど経って、校門の前で待つ僕の元にやってきた。
「すいません! ミーティングが長引いちゃったんで!!」
何度も頭を下げる遠山に、僕は軽く笑っていいよ、とだけ言う。
「じゃあ行きましょうか!」
そう言って遠山が僕の腕を捕る。
「おい」
「いいじゃないですか。仲良く帰りましょうよ!!」
僕の腕を引っ張りながら遠山が走り出す。
「こ、こら。勝手に進むな」
「何言ってるんですか先輩! 青春は待ってなんかくれませんよ!」
遠山が僕を見つめて言う。
「分かったからそんなに急ぐな」
「はい分かりました! あ、信号赤になります。いきましょう!!」
僕の手を持ちながらグイグイ交差点の向こうを渡る。
「……ほんとに分かってるんだか」
ふうっとため息をつくが、内心悪い気はしなかった。
佐奈以外の誰かと帰るのは何年振りだろうか……
前を歩く遠山を見つめふと思った。
すっかり陽が落ちて夕日に赤く染まった歩道を歩く。
「おいしーおいしーおいしー、更にもうひとつ、おいしー!」
「おい、もっとゆっくり食えよ」
チロチロと舌を出してアイスクリームにぱくつく遠山に軽く注意する。
「腹壊すぞ」
「そうしたら先輩におぶってもらいます!」
「帰宅部の僕には無理だよ」
肩をすくめながら、手に持つアイスを口にする。
冷たさのせいもあってか、とても甘く感じた。
「それにしてもよく食べるな」
気が付けば遠山はもう自分の分をコーンまで食べ終えたようだが、僕のアイスを見て何故かそわそわしている。
「な、何だ?」
「先輩の、ちょこーっとだけください」
「もう一個買えば?」
近くに見えるコンビニを指差して言う。
すると遠山が肩をわなわなと震わせて叫びだした。
「先輩の濃ゆ~い唾液が溶けてる食べかけだからいいんじゃないですか! 先輩とあたしの間接キスだなんて、ああ、考えただけで……というわけで、それあたしにください!」
「だーめ」そっぽを向きながら答える。
「どうしてですか!」遠山が非難の眼差しで僕を見つめてくる。
「甘いものばかり食べたら太るぞ。それに、これは僕の分だ」
「そんニャ~~! にゃごにゃご」
人間のプライドはどこに行ったのか、おあずけを食らった猫みたいに遠山が僕に擦り寄ってくる。
「や、止めてくれ。周りから見られてる」
会社帰りのサラリーマンとか、OLとか、買い物袋を手に下げた主婦とか。
道路の真ん中で乳繰り合う僕らに好奇の眼が集中しきっている。
「先輩はあたしのことが嫌いにゃんだ~、あたしの気持ちを弄んだんだ~!」
う……視線がどんどんハードに突き刺さってくるのを感じる。
というか誰が弄んだ! 誰が!
「わ、分かった。食べていいから、やめなさい!」
最低男にされたくないので、顔を赤くして叫ぶ。
すると遠山の眼がぱっと明かりが灯ったようかのように輝いた。
「せんぱーい♪ やっぱりあたしのこと愛してくれてたんですね~~♡」
そう言って勢いよく僕の胸に飛び込んでくる。
「お、おいちょっと……」
「にゃにゃ~♡ にゃごにゃご~」
思い出したが遠山は大変な猫好きで、家で何匹もの猫を飼っているらしい。興奮すると仕草や言葉遣いも猫になりきり、いつもの数倍周囲の人間を疲れさせると。
そんなことより、周囲の眼がまたきっと鋭くなる。
今度はデート中にふざけているバカップルにしか見えなくなったのだろう。
これはこれですっごい恥ずかしいんですけど!!
結局しばらくして半分以上胃袋の中に放り込み、満足したネコ……もとい、遠山と別れの挨拶をしてから、やっと僕は我が家へとたどり着いた。