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 「……誰ですの、お兄様。この人は」

 佐奈が焼け付くような視線をぶつけてくる。

 「こ、この人は……あの、その」

 「はじめまして。在咲雫といいます」

 うっすらと微笑を浮かべ、在咲さんが佐奈に向かって喋りかける。


 「一応この学園の生徒会長です。神来君とは同じクラスなので仲良くさせてもらっています」

 「仲良く……?」


 佐奈が鼻の付け根辺りに神経質な線を漂わせながら言う。

 「お兄様! 私というものがありながら、またこのような人と!」

 「いや違うんだよ。前に生徒会の仕事を少し手伝っただけだから」 

 「そうよ。私のお願いを聞いてくれたのよね? 冬弥君?」

 と、在咲さんがウインクしながら手を伸ばし、僕の腕に絡めてくる。

 


 「私のお兄様に気安くさわらないで!」

 佐奈が今にも飛び掛りそうな形相で在咲さんを睨む。

 「お兄様に触れていいのは私だけですわ!」

 妹よ……それもどうかと。


 「――あなたの許可なんて必要ないわ」

 苛立たちそうに在咲さんが口を開き、僕の腕を持つ力を強めた。


 「ねえ、冬弥君。こんな短気な妹さんより、私とお話しない?」

 「いや、でも……」

 「お兄様、行っちゃダメ!」


 佐奈がもう片方の腕を素早く抱き込む。

 しんと静かな緊張があたりを包み、消え入りそうな声で佐奈がつぶやく。

 「お兄様……私のそばにいてください」

 「あなたには聞いてないと言ったでしょ?」

 在咲さんが冷酷に告げる。


 「あなたのその独占欲が、冬弥君を深く傷つけているのよ? あなたのせいよ。ねえ、分かってる? いつも冬弥君のそばにつきまとって、自由もプライバシーもない。挙句の果てには他の人には触らせないなんて言い出す。こんな異常性、生徒会長として見過ごすわけにはいかないわ」


 「そんな……こと」

 佐奈が魂が抜けたように虚ろに視線を空に流している。

 それを見て、在咲さんが笑顔で言う。


 「あなたがそんなことだから、冬弥君は耐えず迷惑しているの。それが通じるほど世間は甘くないわ。この意味、分かるわよね? この前も学校の帰り道でキスしていたようだけど、あれも揉み消すのに大変だったんだから」


 この前のこと――僕の脳裏に鮮やかに佐奈とのキスシーンが再現される。

 やっぱり問題にならなかったわけじゃないのか。

 

 「あ、あれは、その……」

 慌てて言葉を紡ごうとする。

 「いいのよ。あなたは悪くない。悪いのは――」

 といって、在咲さんが佐奈の方を向く。


 「この勘違い屋の妹さんね」

 佐奈の肩がピクッと動く。眼には涙を浮かべているようだ。


 「私はあなたを助けたいの。来てくれるわね? 冬弥君?」

 僕に向かって伸ばす手を、まるで夢遊病にかかったように取ろうとする。

 その時――



 「――めて」

 「え?」

 ボソボソと、何かつぶやく佐奈を見る。


 「もうやめて! 私のお兄様をとらないで!!」

 涙をぼろぼろと流しながら、佐奈が叫ぶ。



 「さ……佐奈」

 握り締める僕の腕に爪が食い込み、うっすらと血が滲んでいく。

 それでも佐奈は僕の腕を放そうとせず、ずっと泣き続けている。

 それを見て、在咲さんがふうっとため息をつく。


 「しょうのない妹さんね。でもいいわ。無理に急ぐこともないし」

 僕らを残して立ち去ろうとする。その後姿に、疑問に思ったことを口にする。

 「どうしてこんなことをする? 僕を助けるってどうして」

 

 そう言うと、在咲さんは微かに微笑んだ。


 「決めたからよ。あなたを守ると」

 「え……それって、どういう……」


 「そのうち分かるわ」

 「え? ちょっと!」

 歪んだ笑みを浮かべ、今度は僕の言葉に返事することなく、在咲さんは去っていった。

 

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