12
屋上から見下ろす街の景色は、地平線の先へと遠く消えていった。
淡色の風は胸の奥を吹き抜け、少し火照った頬を優しく撫でる。
なぜだろう、目線が変わっただけでいつもの世界と違って見えるのは。
「いいお天気ですわね、お兄様」
柔らかな声に話しかけられ、そっと視線を隣に移す。
「ああ、そうだね。佐奈」
四段重ねの重箱をつつきながら答える。
今日の昼休みの弁当は天気がいいので屋上でとることにした。
しかし何度箸を入れても、全く減らない。
幸い好きなおかずばかりなのと、とりわけ佐奈の料理スキルが高いので、何とか完食できそうだが。
というより、残したら佐奈に殺される……。
「お兄様、はい、あーん」
佐奈が卵焼きを箸で掴み、僕の口元に近づけてくる。
「いやちょ、こんなところで」
「大丈夫ですわ。見られたら責任を持ってお兄様の元へ嫁ぎますから」
「何にも大丈夫じゃないし!」
赤くなっている佐奈から目線を逸らす。するとそこに……
「――あら、楽しそうですね。神来君?」
「え?」
突然名前を呼ばれ、僕と佐奈は後ろを振り向く。
「私もご一緒させてもらってよろしいかしら?」
「君は……」
上品な亜麻色のスイートボブに、静かな双眸を黒縁眼鏡の奥に携えている。女子の割りには高身長だが、スリムなため、ほっそりとした印象を与えるが、とにかく学園でも天才と言われるほど頭が良い。
そんな学園の生徒会長、在咲雫さんが立っていた。