#5 天文学レポート
今回はどちらかと言うと、設定開設です。
正体不明・原因不明・発生不明────。
星の雨、スターレインの研究にはこの言葉が呪縛のようにつきまとう。真実は今だ闇の中、我々人類はその原因はおろか、かの星がドコからやってくるのかも解明できないでいるのは周知の通りである。
そもそも、星がいつ頃から降っていたのか、それも謎だ。
正確ではないが、少なくとも2■00年台に出現したのではないかと、推測される。
星が落ちたのだから、落ちた星はドコかに存在するはず────そう素人は言う。
それは無理な話だ。大気圏を突入し、火炎となって地上を破壊し、後は灰となるのみ。
今までの探査結果から地球外からと思われる物質は、1ミクロンも検出されていない。あるのは徹底的に破壊された廃墟のかけらのみ。つまり手がかりゼロである。
事態は一向に進まず、被害ばかりが増えていく。だが、我々天文学者は手をこまねいて見ていたわけではない。天川博士のスター・レイン観測方程式、そしてそれを核に各国でバラバラだった天文学者達がプロジェクト・チームを結成し、情報交換を通じて全世界協力体制に入っている。NASA……アメリカ航空宇宙局が中心となった「ARK」により、確固たる情報通信が結ばれ、全世界の細かな状況を天文学者は即座に知る事ができるようになっているのだ。
しかし、実際の所、観測方程式以外は何も、何一つも分からないのが実情である。
『スター・レイン観測方程式そのものが偶然と幸運の産物にすぎない』
とは発案者の天川博士の言葉。
だが、過去の統計を取る事により、その姿を掴み取れるかもしれない。そんな些細な希望の元に多くの学者が、過去を洗い出した。かすかな情報の一つ一つを吟味し、真実に近いと思われるものを並べていくその作業は茶番のように見えて実は有意義な検証となった。
以下は「ARK」公式の見解である。
責任スタッフは天川京香博士、星野陽子教授、NASAエージェント フィリップ・シャーロック氏。なお、この見解は2■12年当時のものであり、微調整を含めて改定される可能性のある事をここに述べておく。
2■05年 6月────インド洋南方にて、アメリカ漁船一団が空を覆いつくす、流星雨を見る。その流星がスター・レインである可能性は高い。事実上、初めて発見されたスター・レインとして記録される。なお、このスター・レインのもたらした被害は不明。
2■07年 2月────各国の南極基地が突如、壊滅。原因不明、生存者無し。各国の基地そのものが廃墟と化していた。75回もの調査にも関らず、原因は不明。後のスター・レイン現象と照らし合わせ、原因はスター・レインにあると「ARK」は断定。
2■08年 5月────フランスの北東の田舎町、シャワネ他、ヨーロッパ山間地方の市町村壊滅、生存者ゼロ。はっきりと星の雨の落ちる瞬間を何台ものカメラが撮影。映像記録としてスター・レインは初めて認識されるが、先進国各政府は『単なる自然現象であり、不運な結末。資金援助はもちろん惜しまない』という的外れな公表をし、危機をつのらせる天文学者を冷笑した。NASAもこの時点では、積極的な動向は見せない。
2■08年 11月────第一次メテオ・レイン。北アメリカに大規模な星の雨が三日間降りつづける。主要都市、ほぼ機能停止。北アメリカ全土パニックに陥る。
2■09年 6月────NASAは流星雨をスター・レインと名づけ、その解明に全力を上げる事を宣言する。それを嘲笑するかのように、第二次メテオ・レイン。ヨーロッパ全土を一週間、先年の倍以上の流星が地上を破壊しつくす。ヨーロッパ地方、死者700万人。怪我人及び行方不明者、算出不可能。この被害は地上だけにとどまらず、地球の軌道上にあった各国の観測衛星も機能崩壊。なお、メテオ・レインとは大規模被害を巻き起こすスター・レインにつけられた呼称である。
2■10年 4月────スター・レインは、小規模ながら増加傾向をたどる。同年8月、日本の天川京香博士、『スター・レイン観測方程式』を発案。予想率は天気予報を下回る精度ではあるが、それが人々の活力となったのも事実。ただし、その数式は複雑で人の頭で計算しようとにも膨大な数式の解が必要であり、一般人が気軽に算出できるものではない。
2■11年 7月────日本「国会議事堂」・アメリカ「自由の女神」・フランス「エッフェル塔」にスター・レインが同時直撃。修復不能なまでに破壊される。昨年と同じく、小規模なスター・レインは増加傾向をたどり、その範囲も広くなる。
2■12年 10月────第三次メテオ・レイン。南アフリカ、南アメリカの原生林ジャングル地帯に四日間、スター・レインは降り注ぐ。人的被害は少ないが、原生林は壊滅状態に陥る。かつて森だった場所は跡形もなく砂漠と変貌を遂げた。その被害は メテオレインとしては小降りと「ARK」は評すが、被害範囲は広く、生態系が崩れる事は必至である。同年12月、大阪南地区にスター・レインが降る。大阪人口の7割が死亡。大阪府は、大阪という街を切り捨て、住民に強制的に他の市町村への移転命令を発令する。街そのものが巨大であるがゆえに、修復作業はままならず、二次被害を巻き起こす可能性があるのが理由である。だがもう一つの理由としてスター・レインの連続被害によって国の手が回らないという現状がある。
先進国と言われる経済のトップは今や自分の国の災害対策をたてられないほど、疲弊してしまっている。打開策のない今、各国は財源が消えていくのを指をくわえて見ているしかない、それが現状である。大国アメリカでさえ、その状況は変わらない。
天文学的論点とは別に経済学・政論の視点からスター・レインを見てみることにしよう。
明らかに世界的危機であり、混乱は目前に迫ってきている。人々の不安と焦燥、恐怖と絶望……混迷と混乱にこれほど適した材料もない。
国連は各国間の連絡を綿密化させ、その中心に天文学者を配置し、状況打破を目指しているがいくら組織や情報が整っても、新たな発見をしない限りは混乱は防げない。
いや、今まで充分すぎるくらい混乱は防いできたと言える。天文学は窮地にたたされている。
何か一つ、新しい光が欲しい。今まで我々が研究してきたものとは、まるで別の場所を照らす力強い光を。
混乱防ぐ段階はすでに限界にきている。真実のえぐりだす事、それが天文学者としての使命であり義務として叫ばれている。
こんな絶望的状況下の中で、天文学を志す若者に告ぐ。
我々に禍々しい星の雨ではなく、奇麗で素敵な流星群を見せてほしい。古来から感動と夢を与えてきた宇宙の星達。そこを目指して進んできた、我々人類。だが、人類はそれを忘れようとしている。
欲しいのは、かすかの真実。
欲しいのは、力強い光。
欲しいのは、恐怖する事のない安堵の夜空。
もしも、貴方が天文学に名誉や名声、権勢や金銭を求めるのなら、考え直した方がいい。我々はそんな茶番を演じる人材が欲しいのではない。星を心から愛し、宇宙を探求し、何よりスター・レインによる被害を食い止めたいという強固な意志を持つ人を求めているのだ。
真実の探求、言葉で言うのは簡単であるが、実行に移すのは容易な事ではない。実際、第一線の現場で活躍している天文学者達が世間では単なる「予報屋」と軽視されている。最大の努力も結果がなくては、誰も理解してくれない。今もドコかで、街が人が消えているかもしれないのだ、その感情は当然の事である。
だからこそ、我々は全力を尽くして星の雨を解明しなくてはいけない。
我々は「天文学者」であって「スター・レインの予報屋」ではない。我々には誇りがあるし、天文学者としてのプライドがある。この現状に埋没するつもりはない。
貴方もそうだろうか?
もしそうであるのなら、白河学院大学理学部天文学専攻科での受講を認めたい。横柄な言い方であるが、生半可な気持ちで天文学に―スター・レインに接してほしくないのだ。生半可な姿勢でスター・レインに立ち向かえるほど、この世界は甘くない。星と破壊と死に毎日向かい合うのだから。
そしてまっすぐな姿勢で戦ってくれるのなら、我々も全力をもって歓迎する。貴方が、有望なる天文学者として旅立てるように。我々の持てる知識全てを講義に展開していくつもりだ。
貴方が、スター・レインのたしかな希望となる事を祈る。
白河学院大学理学部天文学専攻科 特別講師
天川京香(天の川天文観測所 所長)
志ノ原進之助(同観測所 研究員)
星野光助(同観測所 研究員)
【白河学院大学理学部天文学専攻科 ガイダンス資料より抜粋】




