プロローグ
紅くあかく染まる水。
ごうごうと音を立てて奔流する真っ赤な血。
それは転じて毒となり、触れる者を一人残らず死に追いやった。
どす黒い空から滝のように降り注ぐ雨、大地を引き裂く稲光、里中に響き渡っていた悲鳴に咆哮、魔物の鳴き声。
──その総てが。
あまりにも圧倒的で、そして無情だった。
六年前のあの日、俺達の里は一度滅んだ。
その壮絶な滅亡の渦中に多くの命と、幼い姫の運命とを巻き込んで。
***
──無理をしてると、知っている。
内に秘めたものの重さを、それを抱えて生きてゆく辛さを。
華奢な体が折れてしまうかと思うほど非常な運命をその背に負いながら、あなたはけっして挫けない。
中途で立ち止まってしまったり、声を上げてもう嫌だと泣き出したり、そんなことをあなたは絶対にしないんだ。
……その毅さが。
時に誇らしく、時に憎いとも思う。
だって俺は、あなたがごく普通の女の子だっていうこともわかっている。
気が強いのは、ほんとうは誰よりも傷つきやすい所があるから。
すぐに激するのは自分に嘘をつけないからだ。
生真面目で、努力家で。
心優しくて脆い女の子。
そういうあなたを──俺は心から可愛いと思う。
愛しいと思う。
だから守る。命を賭しても。
そしてこの心は、何が起きようとも、決して変わらない。
──けっして。