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4話 半年後

 森には川がある。

 綺麗な水で、森に住むモンスターたちの水飲み場として重宝されている。

 この川を根城にしているモンスターもいるので安全と言い切ることはできないのだが。

 今は草食モンスターが水をおいしそうに飲んでいる。

 川と草食モンスターを見通せる位置を陣取り、森の木に身を潜める男がいた。

 時刻は夕方とあり、中々彼の姿は見つかりにくくなっている。

 身長は百七十五ぐらいの男で、体つきは悪くはない。

 目に見えるほどの筋肉を持っているわけではないが、しっかりと鍛えられた体は初めてこの森に足を踏み込んだときの男とはまるで違っていた。

 顔は可もなく不可もない。髪はぼさぼさで、寝起きだと断言しても通じるほどだ。

 男――ハルトはじっくりと耳を澄ませながら、水の音を聞き続ける。

 そして、ついにその時が来た。

 川の水が噴水のように激しく這い上がり、水を被りながらモンスターが現れる。

 リザードマンだ。

 顔はトカゲを人間にしましたといった風な見ていて気味の悪いもの。

 背丈はハルトの二倍ほどもある。右手に盾を持ち、左手に剣を持っている。

 盾は木でできたもので、あまり強固には見えない。

 元々盾は命を守るものというよりも身を守るものなので、数回攻撃に耐えられれば問題はないのだからリザードマンが持っている盾は十分に選択としてはありなのだろう。

 剣は太いが随分と切れ味が落ちているように見える。

 武器を扱うようだが、さすがに手入れをするほどの知能はないようだ。

 斬りではなく打撃として活躍しそうだ。

 草食モンスターを狙って飛び出てきたのだろう。

 ハルトは、すぐに飛び出して声をかける。

 

「この森から出て行くか、この森のルールに従うかどちらか道を選べ」


 ハルトは刀を鞘に入れたままモンスターに語りかける。

 モンスターの言葉は分からないがこのモンスターはおそらくランクB、A相当であるだろう。

 ランクが高い=知性が高いということだ。

 ハルトの言葉は十分に理解できる可能性を持っている。

 リザードマンは自分の食事を邪魔されたことに怒り、ぼろぼろの剣を振り回す。

 リザードマンの顔は人間、それも一人如きに負けるわけがないといように歪められる。

 ハルトはリザードマンが威嚇、挑発していると解釈し、腰についた刀へ手を送る。


「忠告はしたぜ」


 リザードマンは左手の剣で前方すべての範囲を巻き込むように薙ぐ。

 人間には真似できないリーチとたとえ避けられて、反撃されてもすべてを弾き返す牽強な鱗があるからこそできる自信の一撃。

 だが、ハルトにはあまりにも幼稚な一撃に見えた。

 ハルトは剣を軽くジャンプして避ける。リザードマンは今までならそれだけで勝利を治めていたのだろう。

 リザードマンの顔に動揺が走る。

 ハルトは生まれた隙を見逃さない

 着地と同時に跳び、鞘に納まったままの刀で突撃。

 昔のハルトなら怖くて震えて、逃げることだけしか頭にはなかったはずだ。


 だが、半年経った今は違う。


 ハルトは両手でしっかりと柄を握り、リザードマンにぶつかる。

 リザードマンは野性の本能か、咄嗟に出した盾で防御。

 ハルトはお構いなしに突っこみ、盾を破壊するがそこで勢いはなくなる。

 盾に刀がひっつき、抜けない。

 ハルトは最初からそうなることが分かっていたので、鞘から刀を抜き放つ。

 ハルトの体の奥底に眠る力が解放されるような感覚。

 アニムスブレードであるハルトがもつ刀特有の奥義、アニムスモード。

 アニムスブレードに封印されたモンスターの魂を解放し、体に身につけることにより様々な能力を人間離れさせる技。

 これにより、今のハルトの身体能力はレングでも手こずるほどまでに跳ね上がる。

 リザードマンは、急にまとっていた空気が変わり恐れる。

 恐れから、愚行な攻撃をする。

 先程と同じ薙ぎ払い。

 既に意味のないそれをハルトは、身にまとうディバールタイガーの魂を操り受け止める。

 アニムスモードはただ単に身体能力を強化させるものではない。

 封印されたモンスターの魂を操り、攻守に参加させることができる。

 今のハルトにダメージを与えるには、ディバールタイガーに勝てるほどの力が必要なのだ。

 リザードマンは突然動かなくなった己の剣に絶望は最高潮へ。

 魂の存在はハルトにしか見えない。敵から見れば不可視の攻撃なのだ。

 おまけにハルトは自由に動ける。

 走ることはしないで、リザードマンの目の前に移動。

 動かない剣に気をとられすぎていたリザードマンにはハルトが急に目の前に現れたように見えた。


「あばよっ!」


 左から右へ、袈裟斬り。

 リザードマンの鱗を紙のようにあっさりと斬り、血とご対面。

 ハルトはぶっ倒れたリザードマンの魔石をくりぬき、鞘を取りに戻る。

 今のハルトは初めに比べれば大分長い時間アニムスモードになれるが、無駄に体力の消費はしたくない。

 盾から零れた鞘を拾い上げ自身の前で鞘にしまう。

 体からは気が抜けるような感覚が現れアニムスモードが終わったのが分かる。

 武器を腰に戻してから、リザードマンの方へ振り向くとちょうど体が消えていた。

 モンスターは死んでも体が消えることはない。

 モンスターの体が消えるのは魔石を奪われてからだ。

 魔石はモンスターの心臓のようなものだ。

 だが、魔石自体に魔力が流れている。魔力が消えるまでは体が消滅することはない。

 モンスターの肉を食べたければ、魔石を取らずに肉を切り落とせばいい。

 一度魔石から離れた肉は何の影響もない。ただし、魔力はないが。

 魔石を失った体もすぐに消え始めることはない。

 魔石が切り離される直前に流された魔力が消えるまでは体は残る。

 といってもすぐに消えるが。

 後に残ったのは、魔石とは関係のない、一生魔力の尽きることのない部位――素材だ。

 リザードマンの爪、リザードマンの牙、リザードマンの鱗、それに大きめの魔石。

 魔石は魔力こそ失ったが、魔力を蓄える力は残っている。

 魔石には様々な種類がある。

 例えば、光魔石などは魔力を溜めて発動させると光を放つことが出来る。

 寿命こそあるが、魔石はこの世界を支える貴重な物なのだ。

 魔石は様々なものに使うことができるので、取っておいて損はない。

 素材をサウザンドウルフの村で渡された、バックパックに入れていく。

 バックパックとはリュックサックのようなもの。

 ただ、魔石により改良されていて、荷物を一定量まで四次元の如く入れていける。

 限界を超えると重くなっていくが、ハルトが借りたバックパックは大体二十近くは入るので問題ない。

 種類で二十なので、一つの素材ならマックス二十まで入る。

 見た目はポケットに入る程度の箱なのでがさばることはない。

 一体倒しただけだったが中々優秀な個体だったおかげか大量の素材が手に入った。


(試験は無事終了だな)


 最近森の中間付近――ハルトが異世界召喚されたこの森は三つの部分に分けられて中間地点はB、Cランク相当の魔物が住んでいる――で他所の集落からきたリザードマンが暴れていると他のモンスターからサウザンドウルフにどうにかしてくれと依頼があった。

 その討伐に抜擢されたのがハルトで卒業試験を兼ねていた。

 少し、回想まがいのことをすると。

 あの日。

 異世界召喚された次の日にレングに打ち明けた事実は「ふーん、で。だからどーしたん?」見たいな軽いノリで流された。

 ちょっといらっときたけど勝手に不安がっていたハルトが悪いので怒りは抑えた。

 ハルトは元の世界に帰るため――帰る方法を見つけるために他の大きな都市とかに行きたいとレングに言うと、今のお前には無理だと宣告される。

 人がいる町に着く前にモンスターの餌になると冗談ではなく本気の顔で言われた。

 それは分かっているから人が住む場所まで送って欲しいと頼んだら、たとえたどり着けたとしてもこの世界では生きていけないと告げられる。

 じゃあどうすればいいんだとなり、レングが生き方を教えてやるといい、レングに戦い方を教えてもらい、この世界の基本的な知識などを教えてもらい、今にいたる。


 卒業試験がこのモンスターの討伐ということだ。

 話し合いでけりをつけられるのが最適だったらしいがまだハルトの威圧程度じゃ相手の動きを封じることはできない。

 でも、とハルトは満足する。

 今の俺には力があるんだよな、これでやっと帰るための旅に出られる。

 







 村に戻ると既にハルトの旅立ちの準備が整っていた。

 夕方から夜に変わったからかキャンプファイヤーも準備されている。

 ハルトが討伐して帰ってくるとレングが信じていたらしい。

 ハルトは自分を信用してくれているレングの姿を認める目頭が熱くなるのを感じた。

 信用されている、人――モンスターだけど――の温かみは素直にハルトの心を和ませる。

 ほとんど準備は終わっていたのか、レングはハルトをつれて即席の壇上のような場所へつれていく。

 マイクなどは使わないがレングの声は大きい。ハルトのために集まったモンスターたちへと声をかける。


「さてさて、素材はお前の今後の生活に役立ててもらうとして乾杯だな」


 レングが片手をあげると他の部族――モンスター仲間のようなものだ――の人がそれぞれの飲み物を持ち上げて叫ぶ。

 近所迷惑になるレベルだが、ここはモンスターが住む無法地帯のようなものだ。

 近モンスター迷惑にはなるが問題はない。

 ハルトはそそくさとレングから離れる。

 そして辺りを見回す。

 ゴブリン、コボルト、スライムなどの低ランク(のものから、ブラックドラゴン、べ、ベヒモスまでいるぞ。

 モンスターたちにはランクがある。

 ランクはF、E、D、C、B、A、Sの七つで分けられている。

 ゴブリン E。コボルト F。スライム E。

 ブラックドラゴンAランク、べヒモスSランクという面々だ。

 ゴブリンやコボルトは見た目は人間のような姿で物を教えれば結構すぐにできるという賢さ――何も習わなければ物凄く知能は低い――を持っている。

 スライムは丸い緑色の水で黄色い目が二つある以外は特徴はない。

 ブラックドラゴンは人の姿をとっている。

 肌は褐色で髪は黒。瞳は茶色の女の子だ。胸もそこそこある、かなりの美人だ。

 ハルトは少々苦手だ。

 ベヘモスは長身の男で額から角が生えている。

 筋肉むきむきでハルトが何度もぼこされている相手だ。

 ベヘモスもハルトは苦手だ。

 顔を見るたび「戦おうぜ!」と言ってくるからだ。

 ハルトが親しい種族はそれぐらいだが、他にもまだいる。

 集まっているやつらのうち半分近くはバケモノレベルだ。

 サウザンドウルフの一声で今いるモンスターが集まるのだ。

 もしも人を襲う意志を持ち、人が住んでいる場所に攻め込めば非力な人などたちまちのうちに惨殺されるのが目に浮かぶ。

 人間がモンスターに恐怖するのも分かる。

 ハルトもモンスターに対しては畏怖があるが、この場に集まっている人たちは違う。

 ハルトはとりあえず知り合いの種族にだけは挨拶をしようとまずはゴブリンとコボルトの元へと向かう。

 ゴブリンとコボルトは三十ほどいて、それぞれリーダーがハルトの前へ。

 

「「まじ、兄貴かっけぇっす!」」


 ゴブリン、コボルトの尊敬の言葉を受けてハルトはちょっと胸を張ってみせる。

 するとゴブリンとコボルトはさらに目を輝かせた。

 ちなみにハルトはレングとの訓練の合間に二種族に言葉を教えていた。

 一週間程度で話せるようになったのは度肝を抜かれた。

 さらに、近くにいたスライムもやってくる。


「すらーすらすらすらすら!」


 スライムは、言葉を教えたが理解されることはなかった。

 よって何を言っているのかハルトには分からない。ただ、なんとなく褒められているんだろうなとハルトは思った。

 ちなみにレングはほとんどすべてのモンスターの言葉が分かるので、スライムのも分かる。

 もっともレングはハルトを放って酒を飲んでいるが。


(あいつが一番楽しんでるだろ)


 ハルトはだからこそレングから離れたのだが。

 油断したら酒を飲まされてしまう。

 できれば二十になるまでは飲みたくはないからだ。


「久しぶり。これ、あげる」


 ブラックドラゴンはそういうと、腰についているバックパックから何かを取り出す。

 それは、おにぎりだ。

 この世界でも問題なく米はある。

 ブラックドラゴンは定期的に米料理を届けてくれる。

 その点はハルトも素直に感謝している。 


「ありがとな」


「お礼はいいから。私と子供を作ってくれるだけで……」


 ブラックドラゴンは頬に手をやって体をくねらせる。

 わずかに頬を染めているがハルトからは見えない。

 ハルトは何か黒い願いを言っているような気がしたので流して逃げることにした。


(なんでこいつはあんなに構ってくるのだろう?)


 ハルトは改めて考えるが答えは見つからない。

 

「よぉ、久しぶりだな。殺りあおうぜ!」


 勝気なべヒモスが人間の姿で肩を組んでくる。

 相変わらずでかいし筋肉により左耳が潰されて痛い。

 ハルトはべヒモスの喧嘩早い性格は嫌いだが、それ以外の点では男友達ということでレングの次ぐらいに気を許せる人物だ。


「……」


 こいつが喧嘩をふっかけてきたら無視するのが最良だということをハルトは既に学んでいる。

 下手に言い合っていると訳のわからん約束をこじつけようとするのだ。

 そんな知り合いにあったりして時間を潰す。

 気づけば祭りも終わりに近づいていた、レングが初めにあがっていた壇上にふただび上る。


「ハルトは俺の適当とも言えるスパルタを乗り越えて、無事に半年の訓練を終了した。そして今、旅に出るそうなので、ハルトを見送る祭りを開いたわけだ。みんな楽しんでくれたか?」


『おぉぉぉぉぉおおおお!!』


「ハルト、何か言いたいことあるか?」


 レングが振ってきたので、ハルトはこくりと頷く。


「みんな、ありがとな。ええと、すごい嬉しい」


 声はレングに比べれば小さい。

 それでもハルトは精一杯にいった。

 すると、様々な種族が自分の言語で何かを叫び返してくれた。

 言葉は分からなくても祝福してくれていると感じて心に嬉しさがこみ上げてくる。

 異世界でも、俺の事を大切に思ってくれている人がいる。

 この人たちと別れるのはつらいけど……。

 ハルトは同時に地球を思い出す。

 やはり帰りたいという思いのほうが大きかった。

 何かがあるわけではないが、なんとなく、生まれた場所だから。

 

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