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22話 スクリーム

 ダンジョンの入り口に戻ってきたハルトは夕暮れになりつつある日差しに目を細める。

 長く薄暗い場所にいたせいか地上の光が目に痛い。

 全力でダンジョンを上ってきたハルトはやや息切れが起きている。 

 だが、すぐにハルトは足を動かす。

 先に戻っているはずのゼラルたちに追いつく気持ちで走る。

 イーティ達が心配だったからだ。

 ゼラルがついているから大丈夫だろうとハルトは思っていたが、それでも僅かな焦りが残っていた。

 ハルトは頭の中の地図に従い早急に学園へ。

 入り口にゼラルがいる。

 視界に収めたハルトはブレーキをかける。


「ゼラル! イーティは無事か!?」


 咄嗟だったのでハルトはイーティのみ名前をあげる。


「ええ、問題ありませんよ。みなさん軽い怪我こそありますが、目だった怪我はありません」


 いつもどおりの淡々としたゼラルの言葉が耳朶を打ち、ハルトは安心からか腰を下ろす。


「よかったぁ……」


 安心したら一気に疲れが襲ってきた。

 ゼラルは座り込んだハルトに語りかける。


「それで、なんですが。今スクルさんが『スクリーム』がアジトとしている酒場に向かっ


てます」


「へえ、まだ向かってなかったんだな」


 ハルトはすでに向かってるもんだと考えていた。

 ダンジョンにいた時間はかなり経っている何をしていたのだろうか。

 ゼラルがハルトの疑問に答えるように口を開く。


「『スクリーム』がどこを根城にしているのか掴めなくて探していたそうです。学園長の部屋に書置きがありました。私もこれからそのアジトへ向かうつもりですが、どうします?」


「どうします……って、俺についてくるかってこと?」


 うわぁ。敵の本拠地に潜入するのか。

 ハルトは疲労と拒絶から顔を変に歪める。


(というかご老体のくせにスクルさんも頑張るな)


 空を飛んでいたスクルを思い出す。

 あの人なら問題なさそうだ。


「はい。もしも向うで戦闘なんて起こったら私みたいな雑魚では歯がたちませんからねぇ。あなたのような有用な人はいたほうがいいんですよ。生贄に」


「それで行きたいと思う奴はいないと思うぜ?」


「大丈夫です。あなたは来ますよ」


 くっくっくとからかうように小さく笑う。


「いらん信用だな」

 

(この人やっぱ苦手だ)


 ハルトはゼラルの性格が治ることを祈りながら呼吸を整える。


「どうっすかねぇ。争いごと嫌いなんだよな」


「別に構いません」


「そりゃあんたには関係ないからな」


「とにかく、行きながら答えは出しといてください」


「それって意味ないだろ」


「もちろんです。行きますよ」


 こ、こいつ。すでにゼラルの頭の中ではハルトは行くことになっているようだ。

 勝手過ぎると心中でぼやく。

 色々愚痴は言っていたがハルトもついていくつもりだ。

 一言スクリームにがつんと言ってやりたかった。

 ゼラルの案内の元、『スクリーム』のアジトに向かう。

 敵が根城にしている箇所はいくつかあるが、リーダーのスクリームがいる場所は酒場だ。

 学園があるこの街に酒場なんていいのかとハルトは思ったが、この世界は地球とは違い酒は未成年でも飲める。

 それが体にいいのか悪いのかは分からないがハルトは飲むつもりがないので深くは考えない。

 武器や防具を売ってる店が立ち並ぶ道を抜けて、裏道のような場所へ入る。

 建物により太陽が遮られ日陰が多い。ダンジョン内部を彷彿させる薄暗さだ。

 あまり好んで歩きたくない場所だ。

 さらに進んでいくと、また通りにでた。

 そこから数歩でゼラルは足を止める。

 

「ここです。ここが『スクリーム』のアジトです」


 『スクリーム』が運営していると言われる酒場に来た。

 運営という言い方は間違っているが。

 ここで酒を飲めるのは『スクリーム』のギルドメンバーだけ。

 身内同士で騒ぐだけの場所だ。

 ここを中心に『スクリーム』は依頼を受けているのだから家みたいなものだと思う。


「なんか、嫌な感じだな」


 ハルトは建物の雰囲気から眉にしわを作る。

 あまり新しくない木造の建物。だが、腐ったような臭いが鼻につく。

 あるだけで近所迷惑だ。

 ちらと隣の建物を見るとそれなりの見栄えをしている。

 隣と見比べるとこの酒場の悪さが目立つ。

 

「気持ちの問題ですよ、それは」


 ゼラルはいつもどおり柔和な笑顔を携えている。

 おまえ、その表情以外できるのか?

 ハルトは口に出したら酷いことになりそうなことを考えていた。

 ゼラルは普通に戸を押し開け、中に入る。

 ハルトも続き、外からある程度想像できる世界が目の前にあった。

 昼間なのに、太陽の光の恩恵を全く受け付けていない。

 というか窓がない。半袖のハルトも蒸し暑く感じる熱気が部屋を支配している。

 代わりにある魔石の電球は消えたりついたりと頼りなく光っている。

 酒場だけあってテーブルとイスが多く設置されている。

 ざっと見ただけでも二十人ほどが、酒を飲んでいる。

 ハルトは反射的に鼻を押さえる。

 すごい酒臭い。嗅いでいるだけで酔っ払いそうだ。

 窓がないので、空気の換気ができない。

 男臭さと酒臭さ、最悪のマッチングだ。

 酔っ払った男達の大多数がハルトたちには気づいていない。

 入り口に近い数名の視線だけがこちらに向く。

 見た目はどいつも小さい体つきだが、鋭く細められた瞳はあきらかにこちらを威嚇している。

 ゼラルは意に返さずに近くにある階段を上ろうとする。


「待、てよっ。何のようだぁ……?」


 階段に一歩足を踏み入れた瞬間に顔を赤くした男が「ひっく」といいながら剣を抜く。

 ふらふらと揺れる剣先が危ない。脅しのつもりでもうっかり刺さりそうだ。

 ゼラルの近くに持っていかれたそれをみてハルトは腰に手を伸ばす。

 いつ戦闘が始まってもいいように準備をする。

 相手は酔っ払っていて話ができるような状況ではない。


「私は『スクル』の副リーダーでゼラルと申します。先に来ているスクルさんに用があってきたのですが……」


「あぁ? スクル? あぁ? ……あぁ?」

 

 思考がうまく纏まらないらしく何度も疑問顔をする。

 男が突然ふらふらしだしたら、そのまま後ろにぶっ倒れる。

 くかーくかーと寝息をたて始めた。

 ゼラルはそちらを見ずに促す。


「行きましょうか」


 ハルトは、絶対酒は飲み過ぎないぞと心に誓った。

 階段を上って二階へいき、部屋の突き当たりに向かう。

 そこがスクリームの部屋らしい。

 ギルド『エスセリアレ』と造りは似ているが『スクリーム』は二階までしかない。

 ここが本拠地じゃないのだからそこまでちゃんと作りはしないか。

 ドアノブをゼラルが捻り、中を確認。

 そこにはすらっとしたイケメンとおじいちゃんがお茶を飲みながら話していた。

 イケメンの男はただ座っているだけなのに圧倒的な存在感だ。

 たぶんこの人がスクリームなのだろう。

 スクルと張り合えるレベルだ。

 つーか、なんでイケメンなんだよ。

 むかっとするほどな男の顔たちにハルトは負けたと歯噛みする。


「ゼラルに、それにハルトくんも。そっちはどうだった?」


 スクルがハルトたちに気づきお茶を置く。

 ゼラルが前にでて、事務的にスクリームへ一礼する。


「モンスターは無事討伐しました。ダンジョン内にいた生徒も無事です。それと、事件を起こした二名の身柄を預かっています。ギルドカードを確認した結果、『スクリーム』の者だということも分かってます」


 スクリームを睨む。

 スクリームはそれを受けてどこ吹く風とばかりどっしり構えている。


「それで、スクリーム。どう落とし前をつけてくれるんだい? さすがの僕もかんかんだ


よ?」


 スクルが殺気を放つ。

 びりびりと服を破るような威力の高い殺気にハルトは体が冷えていく。

 

(こ、この人。やっぱかなり強いな) 


 スクリームはスクルの態度をみて深く頭を下げる。

 下げた……?


「すまない。貴様らに迷惑をかけたことはわびよう」


 殊勝な態度にスクルはより睨みを強くする。


「リーダーである君がしっかりしないから今回のようになったんだ。それは分かっている


よね?」


「……分かった。落とし前をつけよう」


 スクリームが部屋から出て行く。

 それにしても、異世界の人間は顔がいいやつばっかだな。

 街で歩いている人も基本美人だ。男の方は知らない。

 ハルトが熟慮していると、スクリームが戻ってくる。

 右手と左手に男三人を連れて。

 スクリームは見た目どおりかなり力はあるようだ。

 連れてこられた三人は昼間にハルトを襲ってきた奴らだ。

 三人はそれぞれ手足を縛られ、口を縄でふさがれている。

 ハルトの目の前を通る一瞬。

 ハルトは恨みを込めてさりげなくデボッシュに蹴りを入れてやる。 


「こいつらが、事件を起こした者たちだ」


 ぽいっとゴミを捨てるように床へ投げる。

 顔面が床と当たった三人はすぐさま首を左右に振る。

 三人は涙を流しながら、ひたすら震えている。

 

「それが、どうしたんですか?」


 スクルはいぶかしむような目つきでスクリームを射る。

 スクリームはにやぁと無愛想な顔に気味の悪い笑みを浮かべて。


「お前達を殺そう」


 スクリームが放った言葉と同時に床に置かれていた三人の体が震えた。


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