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21話 異常ミノタウロス

後二、三話で終わりの予定です。

(イーティ!)


 今にもでかい斧の餌食になりそうなイーティ。

 心中で叫び、ハルトは両の足に力を蓄え、膝を折り、撃ちだすように前へ。

 弾丸のような刺突はでかいモンスターのわき腹に当たる。

 刺さりはしない。頑強な筋肉の壁に弾かれハルトの勢いが消える。

 ハルトはすかさず、魔法を発動させる。

 零距離でのフレアライン。

 威力はランクCのドラゴンを真っ二つにするものなのに。

 モンスターに当たった瞬間、空気中に霧散する。

 破られた。

 魔法への耐性が異常に高いのだろう。


「ぐぼぉぉぉぉおおおおお!」


 獲物が割り込んできた怒りか、獲物を仕留めそこなった怒りか分からないが唾を飛ばしながら咆哮。

 ハルトは音が作り出す圧力に耐え切れずに弾け飛ばされる。

 飛ばされたことによりモンスターの全長が見えて、顔を引きつらせる。

 ハルトのゲーム知識が正しければ、相対しているモンスターの名前はミノタウロス。

 頭から生えた立派な二本の角。体は死体でみたオーガとほぼ同じだが、腕や足の筋肉の密は数段に膨れ上がっている。

 胸の部分に魔石があるが、あれを弱点と考えないほうがいいな。

 ダンジョンに入る前のゴブリンを思い出す。

 ミノタウロスがハルトを無言のまま睨み――口角をいびつにする。

 戦闘狂が見せるような気味の悪い笑顔。

 自分よりも強い相手か、自分と対等の敵に出会ったときに見せるもの。

 こいつは一目見てハルトの力量を測った。

 知能があることにハルトは舌打ちする。

 知恵を持っているモンスターはどれだけランクが低くても厄介だ。

 対立しているミノタウロスは、ランクが高い。

 手ごわい、な。


「ぶおうううううううううううう!」


 ミノタウロスは、自分の体躯の半分ほどの斧を振りかぶる。

 それを風を破りながら振り落とす。

 ミノタウロスの一撃はどう考えても喰らってはいけない。

 一発もらえば戦闘不能どころかあの世行きだ。

 ハルトはちらと横目でイーティを見る。

 腰を抜かして、座り込んでしまっている。

 ここでハルトが避けたら確実に斧が破壊した地面の瓦礫の被害にあう。

 くそ、さっさと全員連れて逃げてくれ。

 ハルトは鞘に入ったままの刀で斧の刃の部分に当てる。

 体が、つぶれる。

 拮抗なんてしていない。

 力負けする。

 慌てて横に弾き、生まれた隙目がけて叩こうと前にでると。


「ぶおうっ!」


 ミノタウロスが叫ぶと同時に何かが俺の体を切り刻む。

 かまいたちのようなその技は――魔法だ。

 魔法を使えるまでに知能が上がっていたのか。

 魔石による、強化。

 何をしたらこれほどまでにチートなモンスターができんだよっ。

 

「イーティ! さっさと全員連れて逃げろっ!」


 ハルトは今のうちに、激を飛ばす。

 ここで全力の戦闘をおっぱじめたらイーティや、学園の生徒たちへ絶対被害がでる。

 戦いに巻き込まれて怪我しました、死にましたなんてことになったらハルトが助けに来た意味がなくなる。


「は、はひっ、ですぬわ」


 イーティはしどろもどろになりながらもはいはいで近くにいた生徒の傍に向かう。


「それじゃあ、私も生徒の避難を優先しますね?」


「ゼラル!? 早く連れてってくれ!」


 いつの間に? と口から飛び出そうになったが関係ない。

 ハルトが全力で戦える舞台さえ出来あがればそれでいい。

 ミノタウロスは、二人を見て、ハルトを見てから、ふんと鼻を鳴らす。

 攻撃、してこない。

 もしかして、あの二人がいなくなるまで待っててくれるのか?

 ミノタウロスにそんな視線を投げかけるとにこりと笑う。

 な、なんて男らしいんだこのミノタウロス。

 ゼラルが二人を運び出し、イーティが一人を運び出す。


「ゼラル! 俺の事はいいから、先に地上に戻っててくれ」


 ミノタウロスが見逃してくれたんだ。

 たとえハルトの勘違いとしてもここは一対一にするべきだろう。

 ゼラルはにこにこと、「分かりました」といい、


「死んでも骨は拾いませんよ?」


 と不吉なことを言い残して去っていく。

 これから戦う相手にそんなことを言わないでと胸奥で叫ぶ。


「ぶわああああああああああああああっ!!」


 ミノタウロスは、二人の姿が完全に見えなくなったのを確認してから吼える。

 ミノタウロスは一歩で俺との距離をなくし、自分の肉体を活かした突進をお見舞いする。

 

「さっきまでとは、違うからな」


 鞘から、刀を抜き放つ。

 体中を不可視の何かがまとっていき、それがミノタウロスを押さえつける。

 アニムスモード。

 剣に封印されているディバールタイガーの魂を身に纏い、それを操り戦える。

 さらにモンスターの魂の影響で身体能力は格段にアップする。

 ディバールタイガーの技はハルトの守護霊みたいなものだと理解するのが一番合点がいく。

 

「ぐ、ぬぐおっ!?」


 ミノタウロスは突然体が動かなくなり、顔を面白いくらいに変化させる。

 怒りから、戸惑いへ、そして――恐怖へ。

 ハルトが一歩ずつ近寄るたびに恐怖は絶望へと変化していく。

 頭がいいやつってのは悟ってしまう。

 勝てない、殺されると感じてしまったとき、馬鹿なやつと頭のいいやつでは死の感じ方が全然違う。

 ミノタウロスは、モンスターだったときには死に対して恐怖がなかったのだろう。

 だが、今は知能をつけたかぎりなく人間に近いモンスター。

 死がどれだけ怖いものなのか分かってしまう。


「さすがに一撃じゃしとめられないだろうけど、勝つのは俺だぜ?」


 居合いの要領で一閃。

 ミノタウロスは、ぎりぎりで拘束から右腕だけを逃しその腕でハルトの刀を受ける。

 防御されても関係ない。

 むしろ防御すれば無駄に痛みを味わうだけだ。

 ハルトは髪を斬るような簡単な動作でミノタウロスの関節から先を切り落とす。

 肉と、骨を絶つ感触に顔をしかめる。

 やはり慣れない。

 ぼとっと腕が落ち、鮮血がハルトに飛び散る。

 勢いのいい血が邪魔だったので一度距離を置く。

 魂を操るのも疲れるので一度解くと、ミノタウロスは即座に距離を置いた。

 ハルトの不可視の拘束を警戒している。

 確かに距離を離されればできなくなる。

 だけど、関係ない。これは相手には見えないとしてもハルトには見える。

 相手が距離を離して使う技は魔法。


「ぶろうっ!」


 ミノタウロスは先がなくなった右腕をアッパーの要領で振り上げる。

 すると、呼応するように風の音を鳴らしながら斬撃が迫るが、ハルトの前で霧散する。

 ディバールタイガーの魂を使ったガードができるので、例え距離を離されても問題はない。

 ディバールタイガーの魂を破らない限りハルトにダメージを与えるのは不可能だ。

 攻守ともに最強のこれだが、いつまでも悠長にしているわけにはいかない。

 ハルトが始めて使ったときに一瞬で体力をもってかれたのを覚えているだろうか。

 かなり体力使う。

 全力で戦えるのは三分程度。

 だいたいは三分あれば狩れるので危機感は感じないけど。


「いくぞっ」


 元々スピードのあるハルトだが、刀の力を解放されたことによりさらに強化された速さで繰り出した斬りこみをミノタウロスは腹筋でうける。

 ミノタウロスは苦痛で顔を歪めながらも斧を振りぬく。

 こいつ、相打ち覚悟で……。

 飛び退いて避けると、避けた先に魔法を放ってくる。

 ディバールタイガーで弾きながら、今度は攻撃に虎を使う。

 先程同様の拘束。

 これが成功したら首を刎ねて終了だ。

 勝ちが目の前に迫り余裕の表情を浮かべていたハルトはミノタウロスへ虎をけしかける。

 がしっとミノタウロスを掴む感触が伝わり、しとめるかと思ったら。

 斧が回転しながら飛んでくる。

 慌てて、虎を戻してガードする。

 斧から一瞬重みが伝わり弾き返すのが億劫になったがなんとか軌道を逸らした。

 

「ぶもうっ!」


 ミノタウロスは、ハルトへと左腕で殴りかかってくる。

 さらに、先のない右腕も殴打に参加する。

 最初で最後とも言える猛攻。

 両手からは常に斬撃が飛ばされ、迂闊に動くことはできない。

 虎を防御から、攻撃に回して拘束するのに一瞬の時間が必要になる。

 うまく、操って止められるか?

 バックステップで退避しようにもミノタウロスとはリーチが違う。

 どんどん壁際に押し込まれていく。

 

「いい加減、うざいっ!」


 ハルトの中で一番使い勝手のいい魔法『フレアライン』を発動させる。

 先程と違い細かく調整した鋭い業火がミノタウロスの足に辺り、止まることなく駆けぬけていく。

 足を失ったミノタウロスは、バランスを保っていられるわけもなく無様に倒れる。

 たぶん、ミノタウロスは負けることが分かっていたんだろう。

 だから、さっきの体力を考えない猛攻に打ってでた。

 そして今ミノタウロスはハルトの方へぶっ倒れてくる。

 最後の攻撃。

 ハルトはそれに答えるようにして、虎の魂を刀に乗せる。

 鞘に納まってはいないが、腰へと刀を動かして、居合いの構え。

 集まっていく周囲の魔力を虎の魂が吸収していく。

 魔力が集まっている刀は光がどんどん強くなる。

 薄暗い広間を地上と同じように照らすハルトの刀を、


「はあっ!」


 放つ。

 虎により強化された剣から放たれた、周囲を飲み込む――居合い。

 風を切り裂き、支配しながら放たれた攻撃はミノタウロスの背に辺り、真っ二つに分かれる。

 ハルトの両側にずしんと沈み、それきり音はなくなり沈黙が場に発生する。

 戦いは終了した、ハルトの勝ちで。

 刀を鞘に仕舞ったのと同時に全力疾走を何百メートルもしていたような疲労が襲い掛かってくる。

 強かったな。

 サウザンドウルフほどではないが、十分な好敵手だった。

 今は既に粒子となって魔力になっているだろうミノタウロスを頭に思い浮かべる。

 まさか、刀を抜かされる羽目になるとは。

 本当に疲れるから多用したくないが相手が悪かったとハルトは割り切る。

 そして次にやってきた喜びに手に力が入る。

 仲間を守ることが出来た。

 ハルトは、悦に浸っている。

 やろうと思えば守れるんだな、俺にも。

 今まで逃げてきた、背負うことの怖さ。力を持つことのプレッシャー。

 それが消えることはないが、ある決心ができた。

 逃げずに戦おう。

 少なくとも目の前で困っている人たちを放っておくのはやめよう。

 力はあるのだから、出来る限りでいいから頑張ろう。

 すべてを分からせてくれたミノタウロスに多大な感謝をしながら落とした素材を集めていく。

 集め終わったらまだ少し残っている食品用のバックパックから食事を取りだして体力を回復する。

 

(これから先、もっと大変になりそうだな……)


 イーティに何か言われるの覚悟しながらハルトは地上目指して、ダンジョンを上っていった。

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