20話 異常ゴブリン
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ダンジョンとは、この学園の生徒に戦い方を学んでもらうために作られたものだ。
ダンジョンは地下に続いていき、全部で20階まであるらしい。
内部には捕獲したモンスターを放って独自の生態系が生まれている。
稀にゴブリンなどは地下から地上――スクルの街にあがってくることもあるらしいが警備員の二名が対処できる雑魚。
ダンジョンのモンスターは強くてもDランクまでしかいないし、地上に近い階層にはFクラスのモンスターしかいないので問題はない。
だが、今回はなぜか異常成長したゴブリンが三体も地上に出てきている。
今はまだ生徒と警備員で対処しているが、いつ被害がでるか分からない。
「見えましたっ。一撃目で一体の魔石部分を破壊できますか?」
「見えていたら、なっ!」
塗装された道を駆けて、ダンジョンのために作られた空間へ飛びこむ。
三体のゴブリンの身長はどれも三メートルほどで、確かに異常だった。
これは、バケモノだ。
乱戦が繰り広げている中、足を止めずに近場のゴブリンの運よくむき出しになった魔石に向かって刀を突きつける。
ゴブリンの腹部分にある魔石に刀が近づき――砕く。
破壊された魔石から刀を取り外し、次の目標に視点を移していると。
なぜか、影ができる。
「え?」
「サンダーフォール!」
巨木のような雷がハルトの背後で音をあげ、あたりに閃光を撒き散らす。
ハルトは背を向けていて光の被害にはあっていない。
が、周囲にいたゴブリンは目を押さえる。
ハルトが振り返ると、雷によって全身を黒焦げにしたゴブリンは口から煙を吐き出しながら体を倒す。
倒れた際に生じた地響きが足に伝ってうまく立つのが難しい。
雷熱で見事に焦げたゴブリンは、口元を動かしてごぼっと変なものを吐き出す。
魔石、のようだ。
「どうやら、異常なのは見た目だけではないようですね」
「らしいね」
魔石は確実に壊したのに、倒れなかった。
これが異常じゃなければ何が異常だ。
「二体同時に相手どれますか? 私が大きな魔法を放つ詠唱の時間を稼いでくれればいいですから」
ここで踏ん張っていた人々は満身創痍だ。
とてもこれ以上戦っていられそうにはない。
余裕があるのはハルトとゼラルの二名のみ。
「まあ、任せろ」
ゼラルは目を細めて、
「みなさん。怪我人をつれて今すぐに避難してください。ここは我々で片付けますから」
ハルトもさっさと倒してイーティの捜索に向かわなければいけない。
この場にいないようなので、ダンジョン内かそもそもダンジョンには向かっていないかだ。
ダンジョンの前で足踏みしている場合ではない。
「ゴブリン、こっち向け!」
一体にフレアラインを放ち、近くにいたもう一体を蹴り飛ばす。
フレアラインは何も調整しなかったせいか全くダメージが通らない。
だが、二体の注意はこちらに向けられそれぞれが持っている棍棒を振りかぶって襲い掛かってくる。
ハルトは一体目――ゴブリンAとしよう――の棍棒を避ける。地面に穴が開くのを視認してぞっとしながら、二体目――ゴブリンBとしよう――の横殴りを身長さを活かして上半身を下げて避ける。
横殴りは勢いを落とさずにゴブリンAをぶん殴る。
進化はしても、知能は低いままのようだ。
教えられればすぐに出来るから、学習能力が高いのは知っている。
長期戦はまずい。
ゴブリンA、Bは身内同士でにらみ合い、次の瞬間には何で怒っていたのか忘れて再びハルトに襲い掛かってくる。
「離れてください!」
ゼラルの声が耳朶を打ったので、ハルトは大きく飛び退く。
「サンダーフォール!」
纏まっていた二体を巻き込みながら、先程同様の雷が二体の頭上から降り注ぐ。
威力は先程よりも大きい。
雷は二体を地面に押しつぶしながら、どんどん沈んでいく。
圧倒的な雷撃は休むことなく、ゴブリンの原形を壊していく。
「終わりましたよ?」
ゼラルはにこにこ笑顔を崩さずに、何事もなかった顔つきでモンスターの体をチェックしていく。
二体は完全に死んでいて姿は残っていないので初めに倒したモンスターをだ。
ハルトは見事な魔法の一撃に見とれていた。
この人、相当強い。
魔法しか見ていないがかなり腕が立つ。
ハルトは、特に問題がないことを確認してからダンジョンに向かうために歩き出す。
「待ってください」
ゼラルの止める声に振りかえる。
「私もついていきます」
「はっ?」
「現在中に『スクリーム』の者がいるそうです。それに何人かの学園の生徒が。あなたが現在探しているイーティさんらしき人物も大分前に中に入ったそうです」
あまり、いい状況じゃないな。
ダンジョン内部がおかしいのかもしれないのに、危険だよな。
「足は引っ張りませんよ?」
柔和に顔を変化させる。
そりゃ、な。
ハルトよりも魔法だけなら全然レベルが違う。
足は引っ張らないだろうと考え着いてきてもらうことに。
「なら、さっさと行こうぜ」
二人はダンジョンに潜るために入り口へ向かった。
ダンジョンの入り口はただの箱のようになっている。
これは地下に伸びているからで、中に入れば階段はある。
ハルトたちは階段を降りていき、地下一階へ足を踏み入れる。
地上に比べれば暗いが、所々に魔石が埋め込まれていて真っ暗ではない。
煌々とした場所もあり、目が見えないということはないようで胸を撫で下ろす。
ゼラルが内部の地図は把握しているらしいので道案内を任せる。
といっても構造は、一本道で、途中に広間のようなものがあるだけだ。
一度見ればハルトでも迷子にならない簡素な作りだ。
ダンジョンは初めはモンスターを連れてきて、育てていたのだが、いつからか壁から生まれるようになったそうだ。
広間には何体かのちっこいゴブリンがいて、すべて一掃していく。
広間を抜けたら次の階、次の階へとつまらないものだ。
どんどん下に降りて行き、段々とレベルのあがっていくモンスターをあしらいながら進んで行き――10階。
段々と薄暗いにプラスで肌寒くなってきたハルトは腕をさする。
現在のハルトの格好は半袖だ。
半袖のせいでむき出しになった服装ではこれ以上は進みたくなくなってくる。
湿ったカビのような臭いもまた進みたくなる原因の一端を担っている。
「ここには、他とは違うボスモンスターがいるんですよ」
なぜか、10階層にはボスモンスターと呼ばれるオークがいるらしい。
ランクはDとこのダンジョンでも危険なモンスターだ。
10階層には許可なく侵入してはいけないと生徒には厳重注意している。
だから、ここに来ているはずはない。
ましてや超えて先の階層にいるわけもないのだ。
「おかしいですね。オークの死体です」
広間の中央には先程のゴブリンよりも一回りほど大きな死体が寝ている。
それにしてもこのダンジョンを作った奴は何者だとハルトに疑問が生まれる。
地下に続く大きな建物をこの世界の人が手作業では作れそうにない。
建設魔法とかあるのだろうか。
「つまり、この先に行ったってことかよ」
死体の傷の様子を記憶に留めながらちっと舌打ちをする。
これは間違いなく『スクリーム』の仕業だ。
『スクル』の生徒にはオークと戦って勝てるような相手はいない。
何人かで戦えば勝機はあるがレベルの高いコンビネーションが必要とされる。
傷の様子では、じわじわと戦った様子はない。
「これ以上先はまずいですね」
暗闇の中の明かりがゼラルの額に浮かんだ汗を照らし出す。
疲労ではなく、焦りの汗だ。
ハルトは一度でこを拭う。
「いきなりモンスターの強さがあがるのか?」
冗談気味に言ったのだが、深刻そうに顔を歪める。
「ええ。ゴブリンなどが主に出てくるのですが、知能が格段にあがっています。連携して戦うようになるので、かなり面倒になってきます」
『スクリーム』が『スクル』の生徒を連れて行ったのは間違いない。
目的は分からないが、オーガを倒せる存在は『スクリーム』しか存在しないはずだ。
「といっても私たちには問題はないでしょうね。いきましょう。急がないと手遅れになりそうです」
ゼラルの先導の元ハルトたちは体力を考えずに走っていく。
ダンジョンは全部で20階まである。
一つずつ降りて襲い掛かってくる敵を排除する。
ハルトとゼラルの敵ではない。
そして、19階層。
ハルトたちは、広間の先――20階層への階段を登ってくる陰を見つけて息を潜める。
身なりは、軽装だ。
暗くて見えないが二人。
会話をしているようで、ダンジョンの壁で声が踊り反響するので何かを話しているのは分かるが内容までは聞こえない。
二人が広間に入った辺りで、ようやくしっかりと声が届くようになる。
「魔石によるモンスター強化。すごいな」
魔石によるモンスター強化――。
もしかして、外で暴れていたゴブリンたちは、それの影響か?
倒したときに口から魔石を吐き出したのを思い出す。
「ああ、ランクの高いモンスターにも適応されるようだし……くくく、あの学園の青臭い奴ら、何分持ちこたえられるかな?」
「いやいや、俺らでも歯が立たないようなモンスターだぜ? 入り口は氷で塞いだから19階に逃げることもできねぇし……今頃おいしく喰われたんじゃねぇの?」
頭に血が上る。
この先の階層――つまりは20階。
10階同様ボス級モンスターがいて……もしも魔石による強化が施されていたら、ランクはAに近いモンスターに進化しているだろう。
警備員が見間違えていなければイーティがそこにいる。
他にも何名かの生徒が。
「まあ、どうでもいいけど」
がっはっはっはと二人は笑いあう。
――我慢が限界にきた。
男二名が広間を抜けたところで、ハルトは一気に飛び出して右側の男の鳩尾に拳を入れる。
完全に油断していたところに喰らったせいか、一瞬で沈んだ。
隣にいる男は「誰だっ!」と叫びながら即座に自分の得物を抜き、反応するが既にハルトはそいつを無視して駆け出している。
ゼラルに任せればいい。
ハルトは広間から20階層への階段に向かっていき、塞がれた氷を蹴散らす。
飛ぶようにして階段を下りてそこには。
傷だらけの状態で剣を支えに立っているイーティの姿があった。
よかった、生きていた。安心できたのはそこまでだった。
イーティに相対して、でかい斧を両手で持つ牛のようなモンスターが襲おうとしていた。