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19話 ゼラル

「ギルド『スクリーム』かぁ。あそこは本当に実力主義だからねぇ。まいったね」


 アンリュを保健室に運んだ後に向かった学園長室。

 ハルトは先程襲ってきた男達の報告にやってきたのだ。

 

「あれが五大ギルドの一つなんていいのか?」


 あんな馬鹿が副リーダーなんてギルドとして認めていいのか疑いたくなる。

 スクルも同じことを考えているのか頭を抱える。


「それ、なんだよね。『スクリーム』は僕達になんの報告もなくいきなり五大ギルドの一つになったんだよ」


「普通、話し合ったりするの?」


「しないけど、何か一言はあるよ。それが突然、ね」


 スクルは少し怒ったようにむくれながら続ける。


「ギルド本部であるギルド『ヤマト』が独断で認めたんだ」


 ヤマト?

 地球で聞きそうな名前にハルトは首を捻る。

 ギルド名は、普通リーダーの名前がつくらしいのでヤマトというのがギルドリーダーなのだろう。


「ギルド、『ヤマト』ねぇ。まあ、そっちはいいや」


 この世界の事は現地人たちに任せればいい。

 ハルトがやることは自分の敵を排除するだけ。

 それもあんま気の進まないことだけどな。



「とりあえずあいつらは捕まえたんだから、一応は解決か?」



 その瞬間、スクルの纏っている空気が変わった。

 ハルトは、あまりの変化に理解できず思わず後ろに下がる。


「捕まえたのに、どこにもいないよ?」


「え? いや、だってここの警備員が……」


「確かに、警備の者はいるが彼らは門とダンジョンの入り口にしかいないよ。街の中でのいざこざはよっぽど大きなものじゃなければ各々に任せるんだ」


 確かに冒険者の暗黙のルールのようなものであることを知っている。

 だが、ここは冒険者見習いがたくさんいる街だ。


「いや、結構大ごとだぞ。それに警備員の奴らがここに生徒を運ぶ、って」


「生徒……」


 スクルは席を倒しながら空を飛んで移動を始めた。

 と、飛んでいやがる……!

 ハルトはいきなり飛び出したスクルに追いつくために全力で走る。

 長い廊下を走り、階段を下りて一階へ。

 一階の一番端――保健室。

 先程運んだのでハルトは道を覚えていた。

 スクルの目標はそこらしい。

 先に入ったスクルさんの影を凝視しながら遅れて開いた扉の中へ。


「ここには、運ばれていないね。つまり、ここ以外のどこか別の場所。だけどそれはありえない。応急処置はしても、ここ以外で治療できる場所はないから僕は認めていない。ここにいる回復師は一級の者たちだからね」


「まさ、か。あの警備員は……」


 ぞくっと冷や汗が流れる。

 何も疑わずに完全に油断していた。


「たぶん、敵の身内だね。副リーダーではない誰かが予め、用意していたのだろう」


 くっとスクルは顔を歪める。


「いや、でもあいつら俺を追ってきて、数日だぞ? そこまでの準備をできるわけがないだろ」


 用意周到すぎる。

 デボッシュたちは下手したら今日この街についたのだ。

 その日にここまで手の込んだことを出来るとは考えられない。


「いや、最近頻繁にギルド『スクリーム』の者がこの街に訪れている。先週には僕の元へスクリームがやってきた。僕のギルドの者を何人か自分のギルドに誘いにきたんだよ。全部無視させてもらったけどね」


 スクルは「評判悪いから」と繋ぐ。

 スクルにとって生徒は自分の子みたいなものだから、その理由も頷ける。


「だったら、さっさと追い出せばよかったんじゃねぇか?」


 そうすれば今回のような事件は起きなかったはずだ。


「そうもいかない。いくら僕が嫌いだからと追いだせば職権乱用だ。ギルドは表向きは手を取り合ってモンスターを討伐するのだからね」


 ギルドってのは随分とややこしくて複雑だな。


「と、ギルドの意味なんて語ってる場合じゃないね。今からギルドメンバーに三人を捜索してもらおう」


「あ、はい。なら、俺も」


 一応、傷だらけだが顔は見ているし、元々はハルトがすべての元凶だ。

 ハルトのせいで奴らはここまで追ってきてしまったのだから。

 さすがにここでじっとしているわけにはいかない。

 だが、スクルは首を振る。


「君も狙われているんだ。この学園で身を隠していたほうがいい」


 確かに。

 もしもハルトが『スクリーム』の誰かに襲われて、負けたら余計に迷惑をかけてしまう。

 だけど、ハルトは負けるつもりはない。


「一人でも多くいたほうがいいと思いますよっ?」


 スクリームに狙われている?

 ――ちょっと待て。

 ハルトは一つやばいことに気づく。

 あいつらの恨みが俺だけでなく、イーティにもだったら?

 そもそも、あいつらは俺がギルドに所属していないことを知っている。

 悪い考えがどんどん新たな悪い方へ進んでいく。

 追いかけるとしたら、俺よりもイーティのほうが断然にラクだ。

 あいつらは、俺じゃなくてイーティを探していたら……。

 ぞくっと体中が嫌な汗で包まれる。


「イーティも、危ない……」


「イーティ? なぜだい?」


 そこで、ハルトはハルカニアで起こった事件を手短に話す。

 さすがのスクルも顔をしかめる。


「イーティも探させよう」


「だから、俺も探します」


「……だから、こちらとしては君にも」


「俺も行くからなっ!」


 いい加減、じれったい。

 ハルトは自分のせいでこんなことになったのに黙って見ていられるほど丸い性格はしていない。

 自分に関係なければ全くの放置だが。


「俺にも力はある。自衛ぐらいはできる!」


「……だがね」


「これ以上文句を言うなら、あんたを切り倒してでも行くからな」


 自分が傷つくならいい。他人だってハルトが関係していないところで怪我をするのなら構わない。

 でも、イーティは。

 ――半分は俺の責任でもある。

 アンリュも、男が女を守るっていうのが当たり前ならハルトの責任だ。

 ハルトの睨みにスクルはやれやれと頭をふる。


「若い子は成長が早いね。昨日の君は人に従順な犬、だったのにすでに手に負えない狼に成長しちゃったね。なら、任せるよ」


 ハルトはそれを確認して、すぐに飛び出した。


「なら、私もついていきますかね」


 保健室の入り口に突っ立っている人にぶつかりそうになる。

 慌てて回避のために体を捻るが、うまく避けられずこける。


「おやおや? ちゃんと前見て走ってくださいね?」


 長身の、ハルトよりも頭一つ分大きい男の人が手を差し出しながらハルトに向かってにこりと微笑む。

 あんたが、そこにいたのが悪いんだろっと言いたくなったが出された手を掴んで立ちあがる。

 男はハルトを横にずらしてから、中に入りスクルの名を呼ぶ。

 

「スクルさん。ダンジョン付近に異常なモンスターが現れました。現在ダンジョン付近にいた生徒で応戦していますが、ぎりぎりの状態です」


 ダンジョンと聞いて走りだそうとした足がつんのめり、転ぶ。

 ハルトが向かう場所の情報だ。聞いて損はないと思うが、目の前の人が誰なのか分からない。


「モンスター? ダンジョンの外に出てきてしまうモンスターはゴブリン程度の下級なはずだよ? 警備員でも十分対処できるはずだけど?」


「それが、ゴブリンらしいのですが、異常に成長しています。通常の三倍ほどの大きさで、耐久力が凄まじいそうです」


 スクルは怪訝そうにしていたが、すぐに案を打ち出す。


「なら、ゼラル。そこにいる、ハルトくんと共に現地の鎮圧に急いでくれ。僕はこれから『スクリーム』の件で忙しいからね。ハルトくん、手伝ってくれるかい?」


「ああ」


 ゼラルはハルトの応答を確認して、保健室に背を向ける。


「それじゃあ、ハルトくん、行きますよ?」


 ゼラルといわれた男はハルトを先導して先に進む。

 

「少し、走ります。色々聞きたいと思いますが、走りながら尋ねてください」


 ゼラルは、見た目文化系の癖にかなりのスピードで移動する。

 ハルトも並走しながら尋ねる。


「あなたは誰ですか?」


「私は、ここの副リーダーですよ。敬語は要りません。背中に悪寒が走りますので」


 どんな症状だよ。


「なら、あんたも敬語はやめてくれ」


「いえいえ。私はこれが生まれつきなので」


「赤ちゃんのときも敬語喋ってたのかよ」


「はい、私は赤ちゃんの頃からばりばりに敬語してました。少し聞きたいのですが、あなたの戦闘のスタイル、戦闘力を簡単に説明してください」


 さらりとハルトのギャグを避ける。

 戦闘のスタイル。

 接近戦タイプ。戦闘力はAランク程度にしておこう。

 思ったことを伝えると、満足そうに頷く。


「敵は、ゴブリンですが、異常だそうです。ランクはC――Bに近いですね」


 どんどん変わっていく景色の中、ゼラルは口元を歪める。


「B!? ゴブリンってFだぞ!?」


 ハルトが知っているゴブリンが一気に邪悪な顔つきになる。


「正確な数値は分かりませんが現在対処している警備員の最高ランクがCです。その方が押されています。ただ、敵も三体ほどいるので詳しいことは目で確かめない限りは」

 

「まじかよ……」


 ハルトが思いっきり右に曲がると、ゼラルは左に曲がる。


「あなた、ダンジョンの場所知ってますか?」


 あきれたような声。


「し、知ってるぞ」


「そうですか。これは変な疑りしてすみませんねー。それじゃあ、案内は任せますよ? 私は魔法の準備をしておきますよ」


 すべて分かっていてくつくつとゼラルは笑う。

 は、腹黒いぞこいつ。

 ハルトはどっかの元気メイドが頭の中でちらついた気がした。


「すみません、案内してください」


 ゼラルはくすくすと笑いながらハルトの前を走っていく。

 この人、苦手だ。


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