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15話 呪い

 寮は、校舎から僅かに離れた場所にある。

 校舎に負けない豪奢で立派な建物だ。

 この街、本当に学園が大半を占めてるよな。

 中に入ると、女子がたくさんこちらを向く。

 女子寮だから、ハルトに対して懐疑的な視線が飛び交っている。

 ハルトは落ち着かなくなってきたので、元気メイドに話しかける。

 

「やっぱ、女子寮に男子って、まずくない?」


 普通ならありえない。


「いやぁ、まあ、大丈夫ですよ。私が面倒見ますし……あなたが泊る所は……くっくっくっ」


 怪しく微笑む元気メイドにハルトは一歩足を下げて頬を引き攣らせる。

 泊る所に何があるんだよ。

 ごくりと唾を飲み込む。変なことじゃなければと願わずにはいられない。


「部屋に何かあるのか?」


「聞いちゃいますかー? なら、よろしい、教えてあげましょう」

 

 こほんと咳払いを一つ。


「この学園の七不思議のひとつです。あの部屋は呪われる、と」


 七不思議って異世界にもあるんだ。

 一つ勉強になったが、呪いと放った元気メイドに眉を寄せる。


「呪い?」


「ええ。なんでもあそこに住んでいた寮生がダンジョンでたくさんのモンスターに襲われて重症を負ったんですよ」


「もしかして、その後に入った人も?」


「ええ。そりゃもう一人の狂いもなしにですよ。その部屋を呪われた部屋と決めたんですよ」


 元気メイドは「私はアンデット系統のモンスターじゃないんかなと思ってるんですよね」と呪いと確定するようなことをほざく。


「安易だな」


 がちがちと歯と歯をぶつけながらハルトは踵を返す。

 元気メイドにがしっと腕をつかまれる。


「どこに行くんですか?」


「いやぁ、ね。やっぱり、この街の宿を借りようかなーって」


 女子寮に男子なんて非常識だ。

 他に理由なんてない。

 急にそう思ったん。

 元気メイドはキラリと瞳の奥を光らせて、からかってくる。


「まさか、怖いんですか?」


 ずばりと心の中に発生した悩みを貫かれて、うぐっと怯む。

 だが、女の前で幽霊が怖いなんて言えるわけがない。

 ハルトはふ、ふんと鼻を鳴らして、変な勘ぐりして怒ってるよと態度に表す。


「怖い? 俺は怖いって言葉の意味を知らないな。どういう意味だ?」


「つまり、平気ってことですよね?」


「平気さ。というか、俺何かにびびってるように見えた?」


「呪いって聞いた瞬間に態度が一変したもんですからびっくりしちゃったんですよ。すみませんねぇ」


 にやにやと口の端をあげてくっくっくっと鳴らしている元気メイドにハルトはやっちまったと額を押さえる。

 変なプライド張らなければよかった。

 幽霊は……怖い。ある一部の例外を除いて俺は幽霊が苦手だ。

 元気メイドが途中に混ぜたアンデット系統のモンスターだとしても嫌いだ。

 あいつら魔法しか効かないし、光属性以外は大抵ダメージ軽減しやがるので倒しにくいのだ。

 

「部屋はこの先の奥です。ほら、あそこ。なんか嫌な感じしますよね?」


 指差した場所は、なぜか黒みがかったように見えた。

 ドアはしまっているが人にはあまりよくなさそうなオーラがぷんぷんしている。

 暗く、閉じ込められた世界。

 部屋の中を想像してため息が止まらない。

 死臭がしてきそうだ。

 ドアの前に着いたハルトはドアノブに手を伸ばすが捻るだけの勇気はでない。

 捻ったが最後部屋に取り込まれそうで怖い。

 無数の手がドアを開けた瞬間に襲ってきたら元気メイドを盾に逃げようと決心して、捻り開け放つ。

 中は、綺麗だった。

 整然とした部屋にはタンスや本棚が壁際に置かれている。

 部屋はワンルームしかないが、かなり大きい。ベットが二つあることから二人用の部屋と推測できる。

 さっき感じた肌を刺すような陰気なものは何もない。

 鼻孔からいい香りが侵入してくるので、匂いに意識を集中する。

 オレンジの香りだ。男が使う部屋としてはあり得ないフルーティーな香りが部屋に充満している。


「なんだ。いい部屋じゃねぇか」


 悩みがすべて杞憂で終わる。


「まあ、私先にこの部屋を整えておきましたからね。危険がないことは分かってますよ。ここの寮生が立て続けに怪我をしたのは本当ですけど」


「……なら、不安を煽るようなことを言うのはやめてくれ」


 元気メイドは耳をびーんと立てるようにしてまた嫌なにやにやを始める。

 今度は何だ。

 部屋に何か仕掛けたのかこいつは、とハルトが危険に対処するために腕を自由にして警戒心を高める。


「不安、ですか? あれれー? 何に不安を感じてたんですか? 私知りませんよー?」


 とぼけたことを……!

 目を瞬かせて何も知らないよとアピールしてくる。

 にっくき顔に俺は頭がきりきりと痛くなってくることを感じながら、話すことは何もないと無視を決めこむ。

 何かを発してもたぶん言い負かされる。

 相手を論破できるほどハルトは弁舌ではない。

 黙りこんで逃げるのがハルトにできる現時点最高の道だ。

 元気メイドはそこでからかうのにあきたのか事務的に話し出した。


「夕飯は食堂でとれます。今なら食べられますが、どうしますか?」


 手でさすりながら腹の調子を確認する。ぐぅと手を伝って音が鳴る。

 答えは、体がだしました。


「食堂に案内しましょうか?」


「……頼む」


 ハルトは学園の敷地を全く理解していない。

 学園にいる間は決して長くはないだろうけど必要な場所は覚えたほうがいいよな。

 いつまでも元気メイドのお世話になるわけにもいかないな。


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