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13話 スクル

 男を放置して、すぐさま馬車に乗り込み出発したハルト達は何の問題もなくスクルについた。 

 馬車の中でハルトは他の冒険者からかなり慕われ、いつかギルドを作ったら誘ってくれとか言ってくる始末。

 ハルトはうんざりしながらも丁寧にすべてを断った。

 スクルのギルドはかなりの人気を誇っているのは言わずもがなだろう。

 冒険者に憧れる十代の人間はほとんど全員がこのギルドに所属している。

 冒険者になりたくても、一人では何をすればいいか分からない。

 迷える人たちにとってはこれほど好条件のギルドはない。

 誰だって、道を示されれば無意識のうちにそこを通る。

 ハルトも異世界に帰る方法がはっきりとした道としてあれば真っ直ぐそこを歩いていく。

 冒険者としての道を教えてもらえるギルドスクルが人気がでるのは当たり前のことだった。

 ハルト達が来ることは伝書鳩ですでに知らされていたのか、でかい学園について学園長の部屋へすぐに通される。

 通された部屋は観葉植物が四隅にある。

 部屋の床は石造りでだが、絨毯がしかれている。

 茶色を基調とした絨毯は踏むのをためらわせるのほどに綺麗だ。

 エスセリアレの仕事部屋とは違い、見ていて楽しい部屋だった。

 まず先にイーティが説教をくらう。

 それからハルトへと話題が移る。

 イーティは他の先生につれていかれ、反省文を書いている。


「君が、ハルトくんだね。噂は聞いているよ。僕はここのギルドを治めるスクルだ。よろしく」


 人当たりのいい顔つきでこちらを分析するように見てくる。

 仕事柄か、それとも何か仕事を押し付けるつもりなのか。

 ハルトの力量を測っているようなスクルさんの視線に晒され、頭をかく。

 人にじっと見られるのはあまりいいものではない。

 ハルトの所作で気づいたのか、スクルはすまなそうに頭をさげてくる。


「すまない。強い人を見るとつい分析してしまうんだ。どんな戦い方をするのか、どんな魔法を使うのか。ついつい想像しちゃんだよ」


 ギルドリーダーはおじいちゃんに近い男。

 ほんわかとした空気で、詐欺師に引っかかりそうな気の良い人だ。

 ハルトはてっきり豪快で、「がっはっはっは」と笑いそうな貫禄のある人を想像していたのだが予想とは違っていた。

 そんな人が戦闘狂。人は見かけによらないなとハルトは一歩後ろに下がる。

 

「警戒しなくていいさ。もう、年だからね。魔法以外は全部が衰えて油断したらぽっくり逝きそうだからね」


「だったら、戦いのことなんか忘れて田舎に篭って余生を過ごしたらいいんじゃないですか?」


 軽口を叩くがスクルは嫌な顔をせずに目を細める。


「それも考えたけどそれはつまらないじゃないか。って、今はいいかな、それは。それよりも君が身に着けている武器が気になるんだけど……見せてもらっても構わないかな?」


 初対面の相手にいきなり自分の得物を見せるのは気が引けた。

 それに、アニムスブレードを他人が抜いたときどうなるのか分からないので、むやみやたらに人に貸すことはしたくない。

 子供のような期待したスクルの顔が怖いのも理由の一つだけど。


「この刀、ちょっといわくつきなんですよ。触れないほうがいいですよ?」


 嘘でもなんでもいいから武器に触れたくなくなるような理由を考えて手当たりしだいに言おうと決心する。


「アニムスブレード。モンスターの魂を封じ込めた剣。封じ込めたモンスターの魂により、剣は様々な力を得る。刃こぼれしないや手入れをしなくても常に最新の状態のままなどなど。君のはアニムスブレードだと思うのだが、どうかね?」


 この人はアニムスブレードについて詳しいようだ。

 ハルトは見開く。

 レングはアニムスブレードについてほとんど知識がなかった。

 魂を封じ込める程度しかしらなかったのだ。


「正解です。でもなんで分かったんですか? 前に見たこととかあるんですか?」


 スクルは好奇心を押さえきれないとばかりに鼻息を荒くして、それでも冷静に言葉をつむぐ。


「本物は初めて見るよ。答えは簡単、剣自体が放つ魔力が高い。それと、エスセリアレは気づかなかったでしょ?」


「あ、そういえば」

 

 ハルトの武器をはっきりと見ていた記憶はないが、スクルと同じくらいは見ていた。

 だから、エスセリアレは気づけなかったのだろうと予想する。


「彼女は保有魔力が馬鹿みたいに大きいからアニムスブレードが放つ異常な魔力でさえも相殺してたんだ。魔法に対する抵抗力が高い人は気づけないけど、僕のような人は、ね」


 まるで自分は弱いといっているようだが、スクルは弱くはない。

 ハルトが今ここで刀を抜き放って戦いを挑んだとして勝てるかどうか定かではない。

 ハルトもそれを理解しているからこそ余計に警戒している。

 自分が勝った姿が浮かばないのだ。

 彼の周囲は斬れる刃のように鋭い。うかつに近づけば体中に切り傷ができてしまいそうな錯覚を感じる。


(これが、年の功か)


 彼の言い分から、大体この刀の正体に気づける人間のレベルが分かった。

 ギルドリーダーに慣れるほどの魔力を持っていて、そしてそれが高すぎない人。

 そうなると結局多くの人には分からないようなので安心できた。


「アニムスブレードって俺詳しく知らないんですけど、何か知ってますか?」


「知らない? なら君が今持ってるそれはどうしたんだい?」


 本当は話したくないけど情報を得るための代償だ。

 ハルトは森であったことを所々省きながら説明していく。

 一頻り話したあと、スクルは怪訝そうに顔をしかめる。


「何か、問題でもありましたか?」


 人から勝手に武器を奪ったことだろうか? 

 それとも見殺しにしたことだろうか?

 思い当たる節は色々あるので不安だ。

 もしかしたらハルトはこの世界の犯罪者になってしまうかもしれない。

 迂闊に話しすぎたかもと後悔する。

 中々何も言い出さないスクルさんがついに口を開く。


「少し、喉が渇いたね」


 ずこっ! 

 ハルト顔面からめり込まんばかりにこけた。

 何も解決していないのに、心に余裕が生まれる。

 喉の辺りをさすっているスクルさんは部屋の外で待機していたらしいメイドさんを呼び飲み物を要求する。

 メイド。

 この学園には何十人もメイドがいた。

 そしてどの子もランクが高い美人揃い。

 黒を基調としたワンピース状のもので、所々に白いフリルがついている。

 胸から腹にかけては白いエプロンドレスがついた至って普通のものだ。

 それでもハルトは心が満たされていく。

 メイドってその言葉を聞くだけで癒される。

 さっきみたメイドは愛想のある笑顔を振りまく太陽みたいな子だった。

 元気なメイドはいい。

 ぐっと親指を立ててメイドの動きを追う。

 快活な女の子が飲み物を持ってきて、置かれた飲み物にハルトは、鼻を引くつかせる。


「どうしたんだい?」


 俺は机に置かれた木ではなく石か何かで作られたコップの中身を確認して、驚く。

 お茶だ。緑色をしたお茶は湯気をあげてハルトの顔に張り付いてくる。

 懐かしい。


「お茶、ですよね。これ?」


「そうだよ。おいしいよね」


「え、ええまあ」


「む、もしかして君もお茶はおじいちゃんが飲むものだと思っているのかね? それは間違いだ。身体にいいんだぞ、お茶は」


 食事だけでなく飲み物まで身体に気を配る時点でおじいちゃんじゃないのかとハルトは思ったが口には出さない。

 長生きのこつだな、だんまりは。


「いえ、ハルカニアでは見かけませんでしたから」


「ああ、お茶は向こうじゃあまり取れないからね」


 特産品か。

 急に地球との距離がぐっと狭まった気がした。これなら、とこの学校にある図書館に寄せる希望が大きくなる。

 だが、アニムスブレードのこともしっかり知っておきたい。

 自分で扱う武器なのだから知らないことがあって戦闘中に問題を起こしたくないからな。


「それで、アニムスブレードのことなんですけど……」


「ああ、そうだったね。問題だっけ? 別にないよ」


 ならなんで、あんな人の恐怖心を煽るような顔つきだったんだ。

 喉が渇いただけでは説明できないぞ。


「ただね、君が倒したモンスターがSランクだったのが驚きだったんだ」


 確かに初戦闘でSランクのモンスターを倒すのは至難の技だ。

 人間に身一つで空を飛べというのと同じだ。

 まず一人では無理。ハルトは大男が弱らしてくれたのと他に気をとられていたことから勝てたんだ。


「アニムスブレードに封印する魂は弱ければ弱いほどラクなんだ。だからランクFとランクSのモンスターを倒すならランクFのほうがいい」


「でも、時間さえかければ何度でもできるんですよね?」


「いや、無理なんだ。魂を封印する前の剣は堅さとかが脆いというわけではないがきっかり一戦闘を終えたら必ず壊れるんだ。又は魂を封印して最強の剣となるかのどちらかなんだ」


 なんていう鬼畜。

 あそこにいた大男は欲を出し、強いモンスターの魂を封印に来てそして負けた。

 欲を出しすぎてはいけないいい例だな。


「アニムスブレードの元って、なんなんですか?」


 ずっと知らない俺の剣ができるまでの工程。


「作り方はある。ロックガマルというSランクモンスターが稀に落とすロックガマルの心が必要なんだ。さらにロックガマルのうんこ。それに腕利きの鍛冶屋。すべてを終えたとしても最後にモンスターの封印が待っている。莫大な金がかかることや獣の魂を封じ込めることの大変さから過去に一つや二つしか作られていない伝説級の武器だ」


 「どちらも既にどこにあるかわからないけど」と付け足して続ける。

 だが、ハルトはこの剣が風化したりしないことは知っているし切れ味が落ちたりしないのも知っている。

 本当に作られていたとしたらまだこの世界のどこかで解き放たれる時を待っているはずだ。

 

(悪い奴の手に渡らなければいいな)


「アニムスブレードはもういいかな。確か図書館も見たいんだよね? 何か調べたいことでもあるのかね?」


「ええ、まあ……」


 異世界について調べたいというのはどうなんだろうな。 

 ちょっと確かめてみよう。


「スクルさんは異世界って知ってますか?」


 まずは触り程度に。ここで首を捻られたらその時点で話を打ち切ろう。


「異世界、かい? そういえばギルド本部で今そういった研究が行われているっていう話は聞くなぁ」


 まじで!?

 一気に帰る方法に近づいたような気がしてハルトはスクルに近寄る。


「知ってること全部教えてくれ、ください!」


「えぇ!? っといっても僕も詳しくは。あくまでそういう噂を耳にしただけだから」


「なんだー……」


 がっくりと項垂れてしまう。

 期待が一転愕然に。

 ハルトの顔を見て焦ったようにスクルは手をわたわたと振る。


「でも、図書館には異世界についての本も結構あったから見てみると何か分かるかもしれないよ?」


 すぐに切り替えようとハルトは顔をあげる。

 折れていた腰を戻してぴんと立つ。


「そうですよね。図書館ってどこにありますか?」


「ああ、メイドに案内させるよ」


 ハルトはその後色々とナンパ紛いのことをして元気メイドと仲良くなりながら図書館に着いた。



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