第1話 最悪の異世界で、悪役令嬢に拾われた
「魔法のない異世界なんて――最悪だ!!!」
それってもう、タコの入ってないたこ焼きみたいなものじゃないか!!!
……と、俺は大通りの真ん中で叫んでいた。
ここは現代日本じゃない。
異世界だ。
多少迷惑をかけたところで、もう知ったことじゃない。
そう。
俺は異世界転移した。
しかもかなりベタなやつだ。
登校中、トラックに轢かれたのである。
……まあ、元の人生も別に楽しくなかったし、異世界転移自体は別に悪くない。
問題は――
この世界に魔法がないことだった。
魔物もいない。
勇者もいない。
「終わってるだろ、この世界……!!」
一人で叫んでいる俺を見て、周囲の人々がざわつく。
「かわいそうに……」
「まだ若いのにねぇ」
うるさいな。
全部聞こえてるんだけど?
俺は結局、頭を抱えたままその場に立ち尽くしていた。
そのとき――
「ねえ、あんた。なんでこんなところで一人なの?」
鋭いのに、どこか可愛らしい声が聞こえた。
顔を上げた瞬間、思考が止まる。
そこにいたのは――
金色の髪と、薔薇みたいな瞳を持つ少女だった。
……なにこいつ。
めちゃくちゃ可愛い。
魔法はなくても、美少女はいるのかこの世界。
そしてその少女の後ろには、長い茶髪の女性が立っていた。
年齢は二十代くらいだろうか。
「リリアーナお嬢様、その子は孤児に見えますし、あまり近づかない方が……」
……厳しそうな人だな。
世話係か?
そう思っていると、“リリアーナ”と呼ばれた少女は腕を組みながら言った。
「孤児ならなおさら放っておけないでしょ」
そして、彼女は俺を見た。
「あなた、親は?」
「……いない」
「名前は?」
名前……。
藤崎――
……しまった。
「フジ?」
リリアーナが首をかしげる。
「あ、いや……ユーマ。ユーマ・アークライト」
咄嗟にそう名乗ると、リリアーナはぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、うちに来なさい!」
「……は?」
なかなか強引なお嬢様である。
すると後ろの茶髪女性がすぐに口を挟んだ。
「お嬢様、こんな素性も分からない怪しい子を連れて帰るなんて――」
「でも、このまま放っておいたら今日寝る場所もないでしょ?」
二人が小声で言い合っていると――
「リリ、どうしたの?」
後ろから、一組の男女が現れた。
たぶん、リリアーナの両親だ。
母親らしき女性は三十代くらいに見えるのに驚くほど綺麗で、父親もいかにも貴族らしい整った顔立ちをしていた。
リリアーナは当然のように言った。
「この子、家がないんだって。だからうちで雇う」
「へえ?」
「じゃあそうしましょうか」
……決断早すぎない!?
こうして俺は、その日から――
リリアーナ・エヴァレストの従者であり、幼馴染になった。




