氷の檻に、愛の花が咲き誇る【完結】
アイリス・フォン・ロシュドールが「国外追放」という名の「救出」をされてから、半年が過ぎた。
世間では、第一王子バルトロメウスが廃嫡され、その放蕩のツケを払うべく北方の鉱山で再教育を受けているという噂が流れているが、アイリスにとってはどうでもいいことだった。
なぜなら、彼女はあの日以来、一度もこの広大なヴァレンシュタイン邸の敷地から出ていないのだから。
「アイリス、朝の接吻が足りない。……まだ、俺の魔力が君に馴染みきっていないようだ」
朝の陽光が差し込む寝室。セドリック・ジーク・ヴァレンシュタイン大公は、目覚めたばかりのアイリスを背後から抱き込み、そのうなじに深く顔を埋めていた。
「……セドリック。半年も経って馴染まない魔力なんて、欠陥品ではありませんか?」
「欠陥なのは俺の心だよ。君にどれだけ触れても、一生分には足りないんだ」
かつて「氷の処刑卿」と恐れられた男は、今やアイリスの前では、彼女の関心を一秒でも引こうとする、愛に飢えた大型犬のようだった。
アイリスは、窓の外に広がる完璧に手入れされた庭園を眺める。そこには彼女がかつて「好き」だと言った花だけが咲き乱れ、彼女を傷つけるような棘を持つ植物は一つとして存在しない。
時折、公爵夫人として社交界への出席を求められることもあるが、セドリックは「君の美しさを他の男の目に晒すくらいなら、国を鎖国にする」と本気で宣言したため、アイリスはもっぱら屋敷でのんびりと過ごしている。
(自由な独身生活とは程遠いけれど……。これほどまでに、呼吸するたびに愛を囁かれる生活も、悪くないわね)
ふと、自分の足首を見る。そこにはあの日から一度も外されることのない、銀のアンクレットが鈍く光っている。それは逃げ場のない「檻」の鍵であり、同時に彼からの「永遠の誓い」でもあった。
「……アイリス。何を考えている? 俺以外のことを考えているなら、今すぐその思考を俺で塗り潰さなきゃいけないんだが」
セドリックの瞳が、少しだけ不安そうに、そして深い独占欲を孕んで揺れる。
アイリスは苦笑し、自分から彼の頬に手を添えて、その唇を重ねた。
「貴方のことばかり考えていて、疲れましたわ。……私の重すぎる旦那様」
その言葉に、セドリックは一瞬目を見開いた後、この世で最も幸福な、そして狂おしいほど執着に満ちた笑みを浮かべた。
「愛している。……死が二人を分かとうとも、俺の魂が君を離さない。来世でも、その次でも、俺は必ず君を迎えに行き、こうして閉じ込めてみせるよ」
アイリスは、逃げられないことを誇らしく思いながら、彼に身を委ねた。
「氷の処刑卿」に捕らえられた令嬢は、今、世界で一番甘い檻の中で、永遠の愛を享受している。
(完)
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
「自由になりたい」と願っていたはずのアイリスでしたが、最後はセドリックの重すぎる愛に、心地よく完敗してしまいました。
檻の外よりも甘い場所を見つけた二人の物語、いかがでしたでしょうか。
逃がすつもりのない大公様と、あきらめて彼を愛することに決めたアイリス。
そんな二人の行く末を、最後まで見守ってくださった読者の皆様に心からの感謝を。
また別の物語でお会いできることを願っております!




