第8話 ギルドへの報告
「ユナさん、依頼を達成してきました」
冒険者ギルドにいき、受付けカウンターに座っていたユナさんに声をかけた。
「無事なようで何より。冒険者になりたての人達は、引き際が分からずに無茶をしてしまう事が多いからね。デュアル君達はそこら辺を弁えて──」
「主ー、何してるの?」
「あ、こら」
「あら? 新しいお連れがいるわね。そちらは?」
カウンターテーブルに飛び乗ったネビュラを見て、ユナさんが興味深げに尋ねた。
「森の中でデュアルが見つけて保護したのよ。可愛いでしょう?」
その問いには、リノア姉さんが自慢げに答えた。
「ふふっ。確かに可愛らしいわね。それじゃあ、ここで従魔登録も済ませておく?」
ユナさんが微笑ましくしながら、そう提案した。
「はい、お願いします」
僕は頷き、その為の手続きを行った。
従魔という事を示す赤いスカーフをネビュラの首に巻くと、
「どう? 似合ってる?」
と聞いてくるので、「よく似合ってるよ。黒と白のコントラストが美しいね」と答えておいた。
「では、従魔登録も終えた事だし、討伐した証となるワイルドウルフの牙を提示してもらえるかしら?」
「それなら、死骸を丸ごと〈空間収納〉に入れているので、どこか広いスペースで出したいんですけど」
「〈空間収納〉が使えるの? まだ若いのに優秀なのね。それじゃあ、解体場に案内するから一緒についてきて」
感心したようにするユナさんの後について、ギルドの奥にあるという解体場へと向かう。
通路の突き当たりにあったドアを開けると、開けた場所があった。
そこには一人の禿頭で筋肉質な中年男性がいた。
解体用の大ぶりなナイフを片手に、横たえられたモンスターの肉を捌いている。
「ローガンさん。新しい仕事を持ってきましたよ」
ローガンと呼ばれた禿頭の男性は、作業の手を休めると、
「そっちの二人か? こりゃあまた若い冒険者だな──ん? そっちにいるちっこいのは、ドラゴンじゃねえか」
とネビュラを見ながら驚きを示した。
「ええ。森の中で見つけて保護したそうです。従魔登録も済ませました」
「俺はドラゴンは解体した事ねえが、どれも貴重な素材ばかりだそうだな。牙、肝、生き血──」
「ちょっと、ネビュラをそんな目で見ないでよ! この子は絶対に解体なんて真似させないからね!」
既にネビュラの事を溺愛しているリノア姉さんが、凄い剣幕で言い放つ。
「ああ、悪い。職業柄、どうしてもモンスターを見ると全部素材に見えちまってな」
その光る禿頭を撫でながら、ローガンさんが申し訳なさそうにする。
「そんな事より、早く見積もりを出してよ」
「分かった分かった。そう急ぐな。で、その解体する倒したモンスターはどこだ?」
「ワイルドウルフを五体、〈空間収納〉に入れているそうです」
その問いには、ユナさんが答えた。
「〈空間収納〉だって? 若いのに大したもんだな」
感心したようにローガンさんに褒められた。
「ここに出してもらっていいですか?」
「ああ」
「それじゃあ、デュアル君、お願いね」
僕はそれに「はい」と頷くと、
「〈解放〉」
怪しまれないように、〈空間収納魔法〉で唱えられる文言を口にした。
同時に、異空間に閉じ込められていたワイルドウルフ五体の死骸がドサドサとその場に出現する。
「へぇ、一体は素材としてはいまいちだが、他はいい状態のものばかりだな。これなら、銅貨65枚ってところだな。そこから解体料を差っ引いて、手取りは50枚程度だ」
銅貨一枚がだいたい百円くらいの価値だから、一日で5000円くらいの稼ぎ。
二人でこれなら少々少ないようにも思える。
でも、最低ランクのG級モンスターなので仕方ないだろう。
B級のオーガロードの死骸を出せれば、買取価格は跳ね上がるんだろうけど、そうする訳にもいかない。
僕が成長して、周りが討伐者として納得出来るようになるまでは、異空間の中で死蔵するしksないね。
幸い異空間の中では時間流れは止まっているので腐るという事はない。
「すいません。お肉だけは売らずに持って帰りたいんですけど」
「別にかまわねえが、買取価格はだいぶさがるぞ?」
僕が希望を伝えると、ローガンさんはそう忠告した。
「はい。それでいいです」
受け入れて了承する。
「そうか。じゃあ、解体には一日かかるから、また明日以降に肉と金を受け取りにきてくれ」
ローガンさんに解体を任せた僕達は、再びギルドの受付けカウンターに戻ってきた。
「はい。じゃあ冒険者カードを返すわね」
依頼を達成した事で、口座に達成料が振り込まれ、冒険者としての実績が積み上げられた。
「ユナさん。それともう一つ伝えておきたい事があります」
「何かしら?」
そこで僕は、森の浅いところでオーガロードと遭遇した事を話した。
「──それが事実であれば、見過ごせない状況ね。ちょっとギルドマスターに相談してみるわ」
ユナさんは、「少しそのままで待っていてね」と、先程解体場にいったのとは反対側にある奥へと伸びている通路の先へと向かった。
「何だか、大事になってきたわね」
「相手はB級モンスターだからね。そりゃあ警戒もするよ」
リノア姉さんと会話していると、ユナさんが、一人の男性を連れて戻ってきた。
三十代後半くらいだろうか。短髪で精悍な顔つきをしている。
(この人が、ギルドマスターか⋯⋯今後の為にも、悪い印象を与えないようにしないと)
「お前達が、オーガロードと遭遇したっていう冒険者か」
渋いバリトンの声で、値踏みするような鋭い視線を向けてきた。
「はい。リノア姉さんを攻撃して気を失わせた後、そこに現れたこのネビュラを見て、恐れをなしたようで、森の奥に帰っていきました」
僕は丁寧な口調で説明した。
「ドラゴンの幼体か。希少だな。モンスターが、自分より上位に位置する相手に恐れを抱くという話は聞いた事があるし、事実なんだろう。運が良かったな」
そう納得してくれると、
「ユナ。もう一度討伐隊を組む。その依頼書を作成してくれ」
「はい」
命じられたユナさんが、受付けカウンターに座り、その業務に取りかかる。
「それにしても、まだ幼体とは言え、ドラゴンを手なづけるなんて聞いた事がない。その血はどんな病や怪我も治してしまうという霊薬エリクサーの材料にもなると言うし、金目当てに攫おうとする輩が出てくるかもしれない。十分に気をつけるんだぞ」
威厳のある態度だけれど、僕達の事を慮ってくれていると分かる。
「はい。気遣っていただきありがとうございます」
そう礼を述べた。
「ネビュラを狙うやつがいたら、私が八つ裂きにしてやるわ」
リノア姉さんが、その端正な顔を歪めながら、酷い事を言い放つ。
「程々にな。それじゃあ、俺は仕事に戻る。ああ、それと俺の名前はノアベルトだ。お前達はまだ若いが、見込みがありそうだから、これから関わる事も増えそうだし一応名乗っておく。じゃあな。報告ご苦労だった」
§
「あらあら、可愛らしい子ドラゴンちゃんですね」
「そんなに懐いてるなら邸で飼うのはかまわないけど、ちゃんと自分で世話をするんだよ」
邸に戻ると、ネビュラは父さんと母さんに快く迎え入れられた。
けれど、その後、オーガロードと遭遇した事を告げると、酷く心配される事に。
また状況が落ち着くまで、しばらくは森への立ち入りを禁じられる事になってしまったよ。




