第6話 冒険者ギルド 初陣
森の奥に潜むC級モンスターのオーガという脅威は、討伐隊によって無事退治され、平穏が戻ってきた。
その知らせを受けた僕達は、ようやく森の中に入れるようになった。
そうする為に、先ずは冒険者ギルドにいって登録を済ませる事にする。
「ここが、冒険者ギルドですか」
二本の交差する剣と盾が描かれた看板を掲げているその石造りの二階建て建造物を前にして、呟く。
(流石に、ゲームで見た王都にあるギルドよりも小さいな)
王都にある冒険者ギルドは、その本部を兼ねた大きな建物だった。
なので、規模はそれよりだいぶ落ちるものの、このイムルの冒険者達の需要を賄うには、十分な施設だろう。
「中は荒くれ者の巣窟だから、彼等を無闇に刺激しないように気をつけるんだよ」
父さんが、僕とリノア姉さんに注意を促す。
「大丈夫よ、父さん。この地の領主で、しかも〈閃光の騎士〉の異名を持つ父さんがついているのに、突っかかってこようとする馬鹿なんている訳ないじゃない」
太陽のように明るいリノア姉さんは、今日も楽観的だ。
「その異名で呼ばれるのは久しぶりだから、何だか面映ゆいね」
父さんが気恥ずかしげに頬を指で掻く。
「父さんは英雄なんだから、どーんと構えてればいいのよ。それじゃあ、早く登録を済ませにいきましょう」
そんな意気揚々と進むリノア姉さんの後について、冒険者ギルドのドアを潜った。
中は、向かって右側に、テーブル席が並ぶ酒場が。
左側に、様々な依頼の紙が貼られた掲示板エリアが。
そして、中央に、三人の若く見た目のいい女性が座るカウンターが設えられた受付けがあった。
酒場には、女性も少なからずいたりはする。
けれど、やはり父さんの言ったように、屈強な肉体の荒くれ者が多数を占めている印象だ。
掲示板の前では、冒険者達がボード一面を埋めている数々の依頼書を前に吟味して見定めている。
「おい、見ろよ。領主様がお見えになったぜ」
「〈閃光の騎士〉か。直に見るのは久しぶりだな」
「子連れじゃねぇか。まさかあの坊っちゃんと嬢ちゃんが、冒険者になろうってんじゃねぇだろうな」
入ってきた僕達を見て、酒場で朝っぱらから酒を呷っているろくでなしな男達が言葉を交わす。
美しくない連中だ。
この見た目の幼さで侮られているらしい。
でも、今の僕でも、あいつら程度なら一人でのしてやれるだろう。
まあそんな事はしないけど。
父さんに迷惑をかけたくないし、無闇に力を誇示するのは美しくないからね。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか」
三人の内、中央にいた、ふんわりとしたシニョンヘアの女性の前に父さんが立つと、そう尋ねられた。
胸につけたネームプレートには、『ユナ』と書かれている。
領主だと分かっているはずなのに、一切萎縮していない。
そのプロ意識には、美しさを感じる。
「この子達の冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました。では、先ずはこちらの用紙に記入をお願いします」
渡された用紙には、名前や性別、年齢、魔力量、魔法適性、固有スキルなどを書く欄があった。
それらをリノア姉さんと一緒に記入し、受付けのお姉さん──ユナさんに提出した。
「はい、結構よ。では次に、犯罪者歴の有無を調べるので、こちらの水晶玉に触れてね」
促され、テーブルの上に置かれている水晶玉に触れる。
すると、水晶玉は青い光を放った。
リノア姉さんも同じく。
「はい。問題なし。続けて、ギルドカードを作るので、このカードに一滴血を垂らしてね」
言われた通り、ユナさんに渡された針を指に刺し、流れ出た血を金属製のカードに垂らす。
すると、カードが仄かに白い光を放った。
「はい、ありがとう。では、こちらが貴方がたのギルドカードになるので、大事に保管していてね。もし紛失した場合は、再発行が可能だけど、その時は再発行料として銀貨五枚が必要になるので覚えておいて」
「はい」
「分かったわ」
「以上で登録は完了だけど、冒険者についての基本的な事項の説明は必要かしら?」
「お願いします」
「聞かせてもらうわ」
「分かったわ。それじゃあ、説明するわね。冒険者はギルドに登録する事で様々なサービスを受ける事が出来るの。仕事の仲介、報酬の受け渡し、素材やアイテムの買い取り、ギルドカードによる身分証明と口座へのお金の振り込みと引き落とし、魔物や動物の解体などね。冒険者のランクについては、下はG級から上はS級まであって、依頼は、このランクの一つ上までしか受ける事が出来ないわ。パーティを組んでいる場合は、そのメンバーの中で最もランク低い人が基準になるの。依頼達成時の報酬は、冒険者カードと紐付けられた口座に直接振り込まれるのよ。モンスターを倒して得たドロップアイテムや素材などを売却した場合も同様ね。現金の引き出しは、ギルドの窓口や都市に設置された魔道具にカードをかざす事で可能になるわ。もし依頼を失敗した場合は違約金が発生し、それを規定回数を超えると、ランク一つ下がってしまうから気をつけてね。以上で説明は終わりだけど、何か質問したい事はある?」
長々とした説明を、一切つっかえる事なく話し終えたユナさんが聞く。
「いえ、大丈夫です」
「理解したわ」
「そう。それじゃあ、貴方達が、冒険者として大成出来る事を願っているわ。名乗るのが遅れたけれど、私の名前はユナよ。これから関わる事も多くなるかもしれないから、よろしくお願いね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします、ユナさん」
「よろしくね、ユナ」
§
登録を無事終える事が出来た後は、掲示板エリアに向かった。
ボードに貼られていた依頼書から、ワイルドウルフ五体の討伐依頼が書かれたものを剥ぎとる。
リノア姉さんとよく相談して、モンスター相手では一番楽に倒せそうな依頼を選んだ。
そして、ユナさんに依頼受注の手続きをしてもらってから、冒険者ギルドを出て森へと向かった。
「じゃあ二人とも、頑張って。くれぐれも無茶だけはしないようにね」
「はい」
「私に任せておけば楽勝よ」
森の入口で父さんと別れた僕達は、浅い領域を彷徨いて、討伐対象のワイルドウルフを探した。
ここで、戦闘を行う前に、リノア姉さんを鑑定した結果を紹介しておこうか。
【名前】リノア・アイシュリング
【種族】人間
【性別】女
【年齢】11歳
【状態】正常
【LV】9
【HP】56
【MP】28
【ATK】27
【DEF】26
【INT】13
【AGL】24
【能力】付与 魔:火 闇
【称号】厄災の贄
【加護 邪神の加護
以上のように、完全な攻撃力特化の前衛タイプ。
邪神の影響下にある事がしっかりと記されている。
忌まわしい事にね。
固有スキルの〈付与〉についての解説は、後からにしようか。
そういう訳で、そんなリノア姉さんとパーティを組んでのワイルドウルフ討伐だ。
すると、捜索を始めてから程なく──。
前方の茂みから、全身を灰色の体毛で覆われた鋭い牙を持つ一匹のワイルドウルフが姿を現した。
ここらへんの地域には広く生息している最低ランクのG級モンスターだ。
とは言え、まだレベル低い僕達が侮っていい相手じゃない。
「いたわよ、デュアル。先ずは私がお手本を見せてあげるわ」
リノア姉さんは勢い込んでそう告げると、
「〈より鋭利に〉」
魔法を唱えて手にした片手剣の鋭さを増した。
リノア姉さんの固有スキルは、〈付与〉。
その位階は、〈英雄級〉。
武器に属性を付与したり、鋭さを増したり、敵に状態異常を付与したり──。
それ以外にも、レベルアップに伴い様々な付与が可能になる非常に有用な万能スキルだ。
「グゥルァアッ!」
前に出たリノア姉さんを敵と見定めたワイルドウルフが、勢いよく突進してきた。
その鋭い牙を突き立てようと地を蹴って飛びかかる。
けれど、リノア姉さんは、冷静な動きで身体を横にずらしてその攻撃をかわす。
続けざまに、体勢を崩して隙が出来たワイルドウルフの胴体に、片手剣を振り下ろした。
「ギャゥッ!」
魔法で鋭さを増した剣に、胴体を真っ二つにされたワイルドウルフは、断末魔の悲鳴を上げて息絶えた。
「どう? 見事なものでしょう?」
戦闘に勝利したリノア姉さんが、得意げに胸を張る。
「リノア姉さん、動きはとても参考になったけど、これじゃあ、素材の価値が半減しちゃうよ」
「う⋯⋯ごめんなさい。そこまで気が回っていなかったわ」
僕が諌めると、リノア姉さんは素直に非を認めて謝った。
「次から気をつけてくれればいいよ。それじゃあ、このワイルドウルフの解体はギルドに任せるとして、それまでは僕の〈空間収納〉に入れておくね」
「え? デュアル、あなたもうそんな高度な魔法が使えるようになったの?」
リノア姉さんが驚きの声を上げる。
そりゃあそうだろうな。
〈空間収納〉は、無属性魔法の中でも、未熟な僕達にとっては高度な中級にランクづけされているものだ。
ついこの間洗礼の儀を終えたばかりの僕が使えるような魔法じゃない。
ただ、これにはちょっとしたからくりがあって、魔法じゃなく、僕の固有スキル〈破壊と創造〉を使っている。
先ずは、〈破壊〉を使って、時空間に裂け目を作る。
次に、そこの空間を〈創造〉を使って再構築して固定化させる。
後は、そこに収納したいものを放り込んでいるだけ。
〈破壊と再生〉の真の能力を明かす訳にはいかないから、無属性魔法の〈空間収納〉という事にしておいた。
でも、それくらいなら、成長著しいって事で納得してもらえるんじゃないかな。
そうじゃなきゃ困る。
ちなみに、この〈破壊〉の応用による時空間の切断は、発動までにある程度の時間を要するので、攻撃に利用する事は今のところ難しい。
「うん。気づいたら使えるようになってたんだ。僕も驚いたよ」
と、さも意外だったというように嘯く。
「ふうん。そうなんだ。流石私の弟ね」
良かった。リノア姉さんはその説明で納得してくれたみたいだ。
「そういう事なら、荷物の心配は要らないわね。この調子でがんがん狩りましょう」




