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第5話 チェスと石鹸の制作 新しい料理


 父さんに裏の森に姉さんと一緒に入る許可をもらってから数日が経った。


 冒険者ギルドへはまだいっていない。


 何でも、裏の森の奥で、C級のオーガという強力なモンスター(その強さは、最低ランクのG級から、最高ランクのEX級まである。一応それ以上の存在として、〈七極セプテム・クルミナ〉なんていう常軌を遥かに逸した超常のモンスターもいるにはいるんだけど⋯⋯それはまたいずれ)が出現したそうなんだ。

 そのオーガに、そこで狩りをしていた冒険者達のパーティが襲われるという事件があったらしい。


 今そのモンスターの討伐隊が組まれて、報告にあった場所を探っているとの事。

 森の奥の方とは言え、そのモンスターに追い立てられた他のモンスター達が、浅いところまできている危険性もある。

 その為、その騒ぎが落ち着くまでは、森に入るのを控えておく事にしたのだ。


 そういう訳で、訓練の時間以外は暇になってしまった僕は、今、ある物を作っているところだ。


 それは、チェス。


 リバーシでもよかったのだけど、僕は前世で大学時代にそのサークルに入っていたくらいのチェス好き。

 なので、ここは自分の趣味を優先する事にした。


 その材料となる木材は、〈破壊〉のスキルを使って木を切り倒す事で手に入れた。

 裏の森のモンスターがほぼ出てこない入り口付近でだから安心だ。


 制作も、その〈破壊〉を使って行っている。


 初めの内は細かい作業に慣れなかった。

 けれど、次第にコツを掴み、制作を開始した昨日から、計三時間程が経った頃。

 チェスボードと、白黒に塗り分けた各16個で構成される6種類の駒を完成させる事が出来た。


「美しいね」


 精緻な造りの駒を手に取って見つめながら、思わず嘆息した。


 早速出来上がったそれを抱えて一階のリビングに下りる。

 すると、丁度仕事の手が空いたらしい父さんが、ソファに座ってくつろいでいた。


「父さん、今時間ありますか?」

「デュアル君か。うん。書類チェック一段落したからね。ん? その手に持っているものはなんだい?」

「僕が夢で得た知識を元に作った、二人で行うボードゲームです」

「ぼーどげーむ? 聞き慣れない言葉だけど、ゲームというからには、遊びの一種なのかな?」

「はい。でも、対戦をするのでかなり熱くなれなすよ」

「へえ、それは面白そうだね」


 父さんは興味深げにすると、


「それじゃあ、試しに一つやってみようかな。どういうルールなんだい?」


 父さんの飲み込みは早く、すぐにルールを理解してくれた。


「では、初心者の父さんから先行でどうぞ」

「うん。じゃあ、先ずはポーンから動かそうかな」


 そうして始まった僕と父さんの対戦。


 それは一時間と経たずに、僕のルークが父さんのキングをチェックメイトした事で、あっけなく終わった。


「むむ。負けてしまったか⋯⋯しかしこのチェスというのは、中々に戦略性が高いゲームだね」


 父さんは、悔しげにした後で感心したように評価した。


「面白かったでしょう?」

「うん。これは世に出せば流行るんじゃないかな。酒場なんかで、皆賭けながら楽しみそうだ」

「ええ。それで先ずは、試しにこのイムルに広めてみてはどうかと思うんですけど、父さんはどう思いますか?」

「いいんじゃないかな。この町は娯楽が少ないから、きっと皆すぐに夢中になるよ」


 こうして僕は、イムルの飲食店などに配る為に、まとまった数のチェス一式の制作を請け負う事になった。



   §



 五日後、イムルにある飲食店などに行き渡るだけのチェス一式を作り終える事が出来た。


 その僕が、次に現代知識を使って取り組んだのは、石鹸の制作だ。


 前世で、Webサイトを見ながら自作した経験があるんだ。

 だから、作り方はちゃんと頭の中に入っている。


 いずれは、美容液や化粧品も作ってみたいけれど、それらはまだ材料が揃えられない。敷居が高すぎる。


 という訳で、石鹸作りだ。


 制作に必要のは、オリーブオイルと灰汁とハーブ。


 オリーブオイルについては、厨房にいって料理長のオリバーさんに頼んですぐに分けてもらえた。


 香り付けと、抗菌作用もあるハーブについても、オレガノを使う事に。

 庭でメイドのクロエが育てているのを分けてもらった。


 でも、もう一つの灰汁については、それを作るのに必要な木の灰手に入らない。

 今は初夏なので、暖炉から手に入れる事も出来ないんだ。


 その為、手間はかかるけど、木材を燃やして作る事に。

 チェス制作でそうしたように、森から〈破壊〉のスキルを使って切り倒してきた木材を、庭にある小型の焼却炉で燃やす事で手に入れた。


 そして、ようやく準備が整ったところで、石鹸の制作を始めた。


 先ずは、灰を使って灰汁液を抽出するところからだ。


 木の灰をふるいにかけて、大きな消し炭や不純物を取り除く。


 次に、ザル布を敷き、その上に灰を入れ、熱湯をゆっくりと注ぎかけ、滴り落ちてくる液体を集める。


 そうやって抽出した灰汁液は、数時間から一晩置く事で、よりアルカリ性が強まる。


 灰汁液を作り終えたら、いよいよ石鹸作りだ。


 先ずはオリーブオイルを鍋に入れ、70℃程で湯煎してゆっくり温める。


 次に、その温めた油脂に、準備した灰汁液を少しずつ加えながら、木製のへらで絶えず混ぜ続ける。


 混ぜ続けていくと、生地にとろみがついてくる。

 持ち上げた時に跡が残る『トレース』という状態になったら、石鹸化が進んでいるサインだ。


 そうやってトレースが出たら、乾燥させて粉状に砕いておいたオレガノを練り込む。

 それを型に流し込み、保温して固まるのを待つ。


 その後、型から外し、風通しのいい場所で数週間から数ヶ月熟成させると、自然で優しい石鹸が完成する。


「完成したら、母さんやリノア姉さんに使ってもらおう。きっとその効果に驚くぞ」


 一仕事終えて楽しい気分になった僕。

 午後からの訓練に備えて、父さんから借りていた冒険小説を読んで英気を養うのだった。



   §



 一週間前に仕込んでおいた天然酵母が、ついに完成した。


 それを使って、早速ふわふわのパンを焼いた。


 それを試食したオリバーさんは、驚きにしばらく言葉を失っていて、再起動するまでに時間がかかったよ。


 それだけじゃない。


 今回は、それに加えて、卵黄、レモン汁、酢、塩、植物油を使って、マヨネーズも作った。


 そのマヨネーズ入りの、ポテトサラダも。


 さらに、ブイヨンや鶏がらを煮込むなどして、コンソメを作り、それを元にしたスープも品数に加えた。


 以上のように、今回は現代知識の大盤振る舞いだ。


 これで、夕食は華やいだものになるだろう。



   §



「何、このパンの柔らかさ! スープに浸さなくても、楽に噛みちぎれるわ!」

「このポテトサラダ? だったでしょうか。クリーミーでコクのある味わいですね。私、これ大好きです」

「このコンソメスープというのは、革命だよ。複雑で濃厚。それでいて、後味がいい」


 リノア姉さん、母さん、父さんの言葉だ。


 予想通りの大絶賛。


 料理した甲斐があるってもんだね。


 こんな家族の笑顔が見れるのは、純粋に嬉しい。

 前世では、一人暮らしが長くて家族の温もりを忘れてしまっていたからね。

 これからも、多少の苦労は厭わずに、現代知識で色んな美味しいものを振る舞ってあげたくなる。


 以前とは比べるべくもなく豊かになった食事に舌鼓を打ちつつ、そんな風に思った。





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