第4話 剣術の訓練
暖かい陽の光が射す邸の庭園。
その開けた場所で僕は訓練用の木剣を構えて、父さんと向かい合っていた。
「デュアル、頑張りなさいよ!」
「デュアル君、ファイトですよー!」
観客として見守る母さんとリノア姉さんから、声援が飛ぶ。
今は、初めての訓練の時間。
父さんはまだ若かった頃に、王都で王立騎士団に所属していて、その中でも選び抜かれた者達だけがなる事の出来る、第一騎士団の副騎士団長を務めていた程の剣の使い手だ。
その固有スキルは、〈閃光〉。
位階は伝説級で、文字通り、光のような速度を得て、強力な一撃を放つスキルだ。
それに、剣の腕だけじゃなく、火、風、光の魔法が使える。
魔法は、初級、中級、上級の順に強力になり、さらにその上に、最高位として、極大魔法、禁呪などがあるんだけど、父さんはその上級まで使いこなす事が出来る。
ついた通り名は、〈閃光の騎士〉。
その固有スキルに相応しいね。
「さあ、デュアル君、いつでもかかってきていいよ」
その父さんからの呼びかけに応じて、
「いきます!」
僕は叫ぶと同時に、地面を蹴った。
「たああっ!」
父さんとの距離を縮めた僕は、木剣を袈裟斬りに振り下ろした。
──ガッ!
だが、軽々しく木剣で受け止められてしまう。
「まだだあっ!」
なおも水平に薙ぎ払ったり、真っ向に斬り落ろしたりと連続して攻め立てるものの、全て防がれてしまった。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
一旦距離を取り、乱れた息を整える。
「どうした? もう終わりかい?」
息一つ乱さず余裕の表情でいる父さんの挑発を受けた僕は、
「〈力強き魂〉」
無属性の身体強化魔法を唱えた。
「〈加速せよ〉」
続けて、速度を上げる魔法を重ねがけする。
「む。身体強化魔法か」
そう呟き、それまでの余裕を崩して表情を引き締めた父さんに、再び接近する。
速度を強化しているため、風を切るようなスピードで駆け、その勢いのまま突進し、強力な突きを放った。
「ふんっ!」
──ガキッ!
父さんが逆袈裟に斬り上げた木剣が、僕の木剣とがぶつかり合う。
弾かれて宙を舞った僕の木剣が、音を立てながら地面に落ちて転がった。
「くっ!」
悔しさに唇を噛み締める僕。
今のは、僕が出し得る最高の一撃だった。
それを、ああも易々と防がれてしまってはなすすべもない。
「最後の一撃は中々良かったよ。でも、魔法で強化していない時の動きは、まだまだだね」
父さんが、いい点と悪い点を挙げて評価を下す。
「はい⋯⋯」
僕は、肩を落として力なく頷いた。
「そう気を落とす事はないよ。つい先日能力を与えられたばかりだというのに、既に身体強化魔法まで使えるんだから、見込みは十分にある。ところで、どこでその魔法を覚えたんだい? もしかして、それも夢の中で?」
「はい。そうです」
「なるほどね。それ以外の魔法の知識も得たのかい?」
「ええ。かなりの数のものを。まだ使えないものばかりですけど」
本当はゲーム知識として持っているだけなんだけどね。
「これから訓練を積んで使えるようになっていけばいいさ。レベルアップとステータスの強化も同様にね」
そう励ましの言葉をもらった。
「分かりました。それと父さん、昨日に続き、もう一つお願いをしてもいいですか?」
「なんだい? 言ってみなさい」
「冒険者登録をして、邸の裏にある森に入る許可をもらえませんか?」
「あの森にかい? 冒険者登録は、洗礼の儀を終えた者なら誰でもする事が出来るからそれは可能だとしても、あそこは、モンスターが出る危険な森だよ? 今のデュアル君には少し厳しくないかな?」
父さんが苦言を呈する。
「浅いところで最低ランクのモンスターを狩るだけにとどめて、決して命の危険があるような深い領域までは立ち入らないと約束しますから、どうか許してもらえませんか?」
自ら条件を提示してもう一度お願いした。
「どうしてそこまで森に入る事に拘るんだい? 強くなりたいなら、毎日の訓練でも十分だと思うけれど」
父さんの疑問ももっともだ。
「狩ったモンスターの肉を食材にしたり、他に得た素材を売って、お金に換えたいんです」
「肉を食材にするのは分かるけど、お金は何に使うつもりなんだい?」
「僕が王立学園に通う時のための受験料と学費、それと、一人暮らしの為の生活費に充てたいと考えています」
「そんな事を考えていたのかい? デュアル君がわざわざ自分で稼がなくても、それくらい払えるだけの貯えはあるよ」
「いえ、その気持ちは嬉しいんですけど、自分の事は自分の力何とかしたいので」
「うーん⋯⋯」
父さんが、思案げに腕を組んで唸っていると、その話を聞いていたリノア姉さんが、
「いいじゃない、父さん。裏の森に入るっていうなら、私もそれに同行してあげるわ。あの森の浅いところに出てくるモンスターなんて、強くてもF級かそこらでしょう? そんなの、私とデュアルが組めばどうって事ないわよ。それに、私もそろそろどこかで腕試ししたいと思っていたところなのよね」
(困ったな⋯⋯リノア姉さんが一緒にくるとなると、〈破壊と創造〉の威力を抑えて使わないといけなくなるのに⋯⋯)
僕とリノア姉さんは一歳未満差の年子で、王立学園には同時期に入学して同学年になる。
それまで一緒に狩りをする事になるのか⋯⋯これは何か対策を講じる必要があるかな。
とりあえず、今はスキルのレベルを上げる事に専念する事にしよう。
「分かったよ。そういう事なら、森に入る事を許可しよう。勿論、二人だからって、深いところまで進んだら駄目だからね」
よかった。許しがもらえた。
もちろん、父さんに言われるまでもなく、深い領域に立ち入る気は毛頭ない。
そうするのは、鍛錬を積んでもっと強くなってからだ。
「はい。ありがとうございます、父さん」
「デュアルと一緒に戦えるなんて、今から楽しみだわ」
リノア姉さんが嬉しげに目を細める。
「私は心配ですけどね⋯⋯二人とも、くれぐれも無理だけはしちゃいけませんよ」
憂えるように眉尻を下げる母さん。
「はい。約束します」
「私がついてれば安心よ、母さん」
「うん。君達なら、約束を破る事はないと信じているよ。それじゃあ、話もまとまった事だし、そろそろお昼にしようか」




