第42話 セリアVSA級冒険者
「貴様らか。ふざけた真似をしてくれたのは」
そう憤りながら言ったのは、二人の男の内、恰幅のいい中年の方だ。
金や銀のゴテゴテしたアクセサリーをいくつも身につけた、いかにも成り金といった派手な格好をしている。
奴隷を密売するなどして得られた汚い金で買い漁ったのだろう。
「ナゼル、頼んだぞ」
「任せろ。特別報酬として給料に上乗せしてくれよ」
恰幅の良い男に促されて、くすんだ灰色の髪をオールバックにしている壮年の男が前に出た。
冒険者風のレザーアーマーを身にまとい、長剣を手にしている。
「俺はA級冒険者のナゼルだ。その白黒の格好からして、お前らが最近王都を騒がせていた『モノクローム』とかいう組織のやつらか。雑魚相手にいい気になってるみたいだが、本当の実力者がどういうものなのかを教えてやるよ」
「クラヴィス、ここは私に任せて」
セリア嬢がナゼルというA級冒険者の相手に名乗りを上げた。
「君一人でか? 危険はないと思うけど、相手は人間のクズだ。どんな卑怯な手を使うかも分からなない。気を抜かないでくれよ」
「心配いらないわ。私にとっては、A級冒険者程度、いい経験値稼ぎよ」
セリア嬢が、言いながら腕輪型の空間収納から長剣を取り出してかまえる。
「お前が一人で相手をするのか? 舐められたものだな」
「さあ、いつでもかかってきなさい」
「では、遠慮なくいかせてもらう!」
そのかけ声を発すると同時に、ナゼルが一気に距離を詰めてくる。
速い。
魔力の扱いに相当長けた者の動きだ。
自分と同じA級冒険者という肩書きは伊達ではないらしい。
ナゼルが剣を振りかぶる。
「ハアッ!」
気合いとともに、振り下ろされた剣を、セリア嬢は、手にした剣を下から振り上げて迎撃した。
ナゼルが剣を弾かれて体勢を崩す。
「シッ!」
そこにセリア嬢が、お返しとばかりに剣を振り下ろす。
「くっ!」
ナゼルはその一撃をなんとか受け止めたものの、次々と繰り出されるセリア嬢の剣撃に防戦に立たされた。
「ぐあっ!」
セリア嬢の放った剣が、ナゼルが身にまとうレザーアーマーの肩当てを斬り裂く。
ナゼルは慌てて後方に飛び退り、距離をとった。
傷は浅いようだが、激しく動揺を見せている。
格下だと思っていた相手に軽くあしらわれて、敗色が濃厚だと悟ったのだろうか。
「中々やるようだな」
だが、ナゼルはすぐに余裕を取り戻し、不敵な笑みを浮かべた。
「それなら、俺も本気を出させてもらう」
「奥の手でもあるって言うの? 待っててあげるから、早く見せなさい」
対するセリア嬢は泰然としてかまえている。
「その余裕が命取りだ。〈闇のヴェール〉」
ナゼルが唱えた途端、セリア嬢のいる一帯が、どこからか湧いてきた漆黒の闇によって覆われた。
あれでは視界がまったくきかないだろう。
「わははっ! これでお前は満足に動けまい! もちろん術者である俺には、お前の動きが手にとるように見えているがな」
ナゼルが勝ち誇ったように笑い声を上げた。
と──。
「〈光、あれ〉」
セリア嬢が唱える声が闇の中で聞こえたかと思うと、その内側から光の筋がいくつも走り、またたく間にそれが拡散し、完全に闇を払った。
「な、なんだと⋯⋯!?」
驚愕するナゼル。
「〈Ahー〉」
セリア嬢が、流麗な声で歌う。
「ぐっ⋯⋯」
ナゼルが、うめき声を上げながら顔を歪ませた。
これが、セリア嬢の固有スキル『歌姫』の能力の一端だ。
デバフの効果を生む歌で相手を一時的に麻痺させたのだろう。
セリア嬢が駆ける。
「セァアアアッ!」
突進による強烈な突き。
「ぎゃぁあっ!」
身動きがとれないナゼルは、レザーアーマーの右胸にあたる部分を貫かれ、悲鳴を上げながらその場に崩折れた。
「奴隷密売組織に与するクズだけど、命だけは奪わないでおいてあげる」
セリア嬢が、蹲って苦悶するナゼルを見下ろしつつ、情けをかける。
その時──。
「そこまでだ!」
目を離していた隙に、恰幅の良い男が、馬車の後部に取り付けられていた檻の中から、一人の少女を連れ出して、その首に手にしたナイフの切っ先を当てた。
「システィーナ⋯⋯!」
セリア嬢がその名を呟く。
彼女がさらわれた学園生らしい。
黒い髪をツーサイドアップに結んだ清楚な雰囲気の少女。
その首には、隷属の首輪が嵌められている。
「この娘を殺されたくなければ──」
「〈魔弾〉」
恰幅の良い男が言い終わらない内に、僕は魔力の銃弾を放った。
「ぐあっ!」
恰幅の良い男が、手首に穴を穿たれ、短く叫びながら手にしたナイフを落とす。
「〈蛇の鎖〉」
それを見てとったイヴが、すぐさま魔力の糸を放ち、恰幅の良い男を縛りつけて拘束。
続けて、ナゼルにも同様の処置を施し、完全にその場は『モノクローム』によって制圧されることになった。




