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第3話 食生活の改善


 朝食を終え、自分の部屋に戻った僕。


(そう言えば、まだデュアルの容姿を確認していなかったな)


 と、クローゼットの横に置かれている姿見の前に立った。


「美しいね⋯⋯ゲームで見たスチル通りだ」


 黒髪に、一筋白のメッシュが入ったミディアムヘア。

 身長は、140センチ程度だろうか。

 十歳にしてはかなり背が高い方だろう。

 身体つきも子供にしては筋肉質でしゅっと引き締まっている。

 ルビーのような赤い右目と、サファイアのように青い左目のオッドアイ。

 すっと通った鼻筋と、瑞々しく薄い唇。

 まさに絵画から抜け出てきたように幻想的な美しさを湛えている。

 

(デュアルって、悪堕ちした裏ボスのくせに、このビジュアルのせいで、「陰のあるイケメン素敵!」とか言われて女性に大人気だったからなあ)


 そんな前世の記憶を振り返りながら、僕はある事を試してみる事にした。


「〈鑑定(スキレ)〉」


 自分に掌を向けながらそう唱える。

 すると、目の前の空間に、幾つかの情報が記された半透明のボードが現れた。


 【名前】デュアル・アイシュリング

 【種族】人間

 【性別】男

 【年齢】10歳

 【状態】正常

 【LV】3

 【HP】15

 【MP】28

 【ATK】7

 【DEF】9

 【INT】12

 【AGL】10

 【能力】破壊と創造 魔:無

 【称号】破壊と創造の神の申し子

 【加護】シヴァの加護



「適正が無属性ならあり得ると思ったけど、予想通り鑑定魔法が使えたね」


 能力値は、この世界の平均値がどれくらいなのかがまだ分からないから、今の時点では何とも言えない。

 けれど、この数値を見た限り、高くはないだろう。

 これからの訓練でこつこつと伸ばしていくしかない。


 後、加護の欄に、『シヴァ』という単語が記されている。

 これは、ヒンドゥー教の三大最高神の一柱の破壊と再生を司る神の事だろう。

 固有スキルに相応しい加護だ。


 それらの確認を終えた僕は、ある計画を実行に移すべく、階段を下りて一階の厨房に向かった。



 厨房では、料理長のオリバーさんが、椅子に座って包丁でジャガイモの皮を剥いていた。

 彼は一人でこのアイシュリング家の食事を賄ってくれている四十代半ばの黒髪を短く刈り上げた男性だ。


「おや、デュアル坊っちゃんじゃないですか。目覚めたばかりだってのに、こんなところに何の用です?」


 笑顔を向けて尋ねられた。


「オリバーさんにお願いがあってきたんだ」

「私にお願いですか?」

「うん。リンゴと砂糖が欲しいんだけど、ここにある?」


 その言葉を聞いたオリバーさんは、難しい顔をして、


「あるにはありますけど、砂糖は貴重ですから、遊びで使うようなら許可を出す事は出来ませんよ?」

「遊ぶ訳じゃないよ。それを使って天然酵母を作りたいんだ」


 そう。僕が今からやろうとしているのは、異世界転生では御馴染みの天然酵母作りだ。

 前世で異世界転生ものの小説を読み漁っていた僕には、そのレシピがしっかりと記憶されている。


 美しい生き方を実践するにあたって、先ずは、食生活を豊かにしようと考えたんだ。

 食は人間にとって、生命を維持して、健康を保つ為には欠かす事が出来ない基本的な要素だからね。

 それだけじゃなく、人生の喜びやコミュニケーションにおいても大事な意味を持つ。

 単純に美味しいものが食べたいだけでもあるんだけど。


「てんねんこうぼ? 何ですか、それ?」


 オリバーさんが不思議そうに小首を傾げる。


「硬いパンを柔らかくする魔法だよ」

「魔法?」

「駄目かな?」


 必殺の上目遣い!

 天使の生まれ変わりみたいなデュアルがやれば、威力は絶大だ。

 これで落ちない大人はいないだろう。


「うーん⋯⋯それじゃあ、私が見てるところで作ってもらえるなら、許可を出してもいいですよ」


 腕を組んで唸ると、案の定許してくれた。条件つきだけど⋯⋯まあよし。


「ホントに? ありがとう」


 お礼に、天使の微笑みをプレゼント。


 その願いを受け入れてくれたオリバーさん。籠の中のリンゴと、棚に収められていた砂糖の入った壺を持ってきてくれた。


「このガラス瓶、使ってもいいかな?」


 テーブルの上に、手頃な大きさのガラス瓶が置いてあったので、断りを入れる。

 彼は「ええ、かまいませんよ」と承諾してくれた。



 必要なものは揃ったので、早速天然酵母作りに移る。


 先ず、包丁でリンゴを1センチ厚に切り、次に煮沸消毒した瓶の中に、リンゴと芯、砂糖、水を入れて軽く混ぜる。


 後は、一週間程このまま放置しておけば、泡の量が一定になり、リンゴの爽やかな香りとアルコールが混ざったような香りがしてきて完成だ。


「これでよし。後は一週間くらい経てば、天然酵母の出来上がりだよ」


 自分の仕事に満足しながら言う。


「こんな事言っちゃあ失礼かもしれませんが、本当にそんなものでパンが柔らかくなるんですか?」


 オリバーさんは、懐疑的だ。仕方ないよね。異世界人なんだから


「まあ見てなって。それとオリバーさんにもう一つお願いがあるんだけど」

「今度は何ですか?」

「今夜の夕食を、僕に作らせて欲しいんだ」

「え? デュアル坊っちゃん、料理が出来るんですか?」


 ふふん、驚いたようだね。

 これでも、料理の腕にはちょっとした自信があるんだ。

 前世では、大学時代からずっと一人暮らしを続けていた。

 だから、暇な時間にはネットでレシピを調べて色んな料理を作っていたんだ。

 その為、レパートリーは結構多い。


「うん。実は、気を失って眠っている間に夢を見て、そこで色んな知識を得る事が出来たんだ」


 これは、この異世界で現代知識を使う為に考え出した嘘だ。

 こう言っておけば、この世界には未だ存在していないものを生み出すなどしても、全部天啓だという事で片付けられるだろう。

 僕って冴えてるね。


「神様に啓示でも受けたって事ですか?」


 オリバーさんが、信じられないというように眉を顰めて訝しむ。


「さあどうだろうね。その真偽は分からないけれど、僕は得られた知識を有効に利用させてもらうだけだよ」


 平然として実利的な言葉で答えた。


「はあ、そうですか。まあ一品加えるって事ならかまいませんけどね。それで、どんな料理を作るつもりなんですか?」

「パスタだよ」

「ぱすた? また聞いた事がない名前のものが出てきましたね」

「小麦粉を使った麺料理なんだけどね。とにかく食べてみたら美味しい料理だって思ってもらえるはずだよ」

「分かりました。それで、材料は何を使うんですか?」

「先ず手打ちでパスタを作りたいから、卵と小麦粉があればいいよ」

「卵? もしかして、生のまま使うつもりじゃあないでしょうね? 私は生活魔法マギア・コティディアナ浄化プルガレは使えませんよ?」


 生活魔法というのは、適正がなくても覚えれば誰でも使える魔法だ。

 代表的なものには、水を出す〈水よ出でよ(アクア)〉や 火を点ける〈火よ灯れ(イグニス)〉なんかがあるね。



「大丈夫だよ。僕の固有スキルで代用するから。その後、僕は無属性魔法マギア・ヌルリウス・エレメンティの〈鑑定〉が使えるから、それで念の為にちゃんと殺菌されているかどうか確かめるよ。それならいいでしょ?」

「そういう事なら、大丈夫そうですね」



 そうして、オリバーさんにそれらを用意してもらい、調理を始めた。


 先ずは、小麦粉で土手を作り窪みをつけ、そこに生卵を落とす。

 この生卵は、固有スキルの〈破壊と創造〉のうち、〈破壊〉のみを使い、殺菌しておいた。

 〈破壊〉は、最近を死滅させる事も可能なのだ。

 オリバーさんが言ったように、生活魔法の浄化が使えればそれでもいいんだけど、僕は未だ使えない。

 いずれ生活魔法も教わって色々と使いこなせるようになりたいものだ。


 とまあそれは置いておいて、今はパスタ作りだ。


 鑑定魔法で生卵がちゃんと殺菌されている事を確認し、その生卵を土手の窪みに落とし、次の工程に移る。


 卵が外側にこぼれないようにしながら、小麦粉を内側にゆっくりと持っていき、卵と混ぜ合わせる。


 生地が十分に混ざり合わさったら、体重をかけながら生地をこねていく。


 最後は生地をひとまとめにしてボール状にし、布ぶきんをかけておく。


 そうしておいてから、台の上に小麦粉をまぶし、その塊から少しずつ生地をちぎり、すりこぎ棒を使って延ばしていく。


 それから、引き延ばした生地の表面に小麦粉をまぶし、生地を細長く切り巻いていく。


 そして、好みの大きさ生地を切っていく。

 切り終わった生地は、小麦粉をまぶし、全体を軽くほぐす。


 最後に、鳥の巣のように、一塊にまとめて出来上がり。

 今は未だ午前中で、夕食まではだいぶ時間があるので、そのまま乾燥させておく。


「これで完成だよ」


 と誇らしく胸を張る。


「何か、ひょろっと細長くて、食べ応えがなさそうですけど⋯⋯」


 オリバーさんはまだ疑っているみたいだ。


「味は食べてからのお楽しみ。後、これにソースをかけるんだけど、それは夕食前に調理しないといけないから、夕方になったらまたくるね」



   §



 庭に出た僕は、固有スキル〈破壊と創造〉でどんな事が出来るかを試しながら過ごした。


 そして、途中で昼食を挟みつつ、空が唯美主義者の僕の琴線に触れる綺麗な茜色に染まった頃に、再び厨房を訪れた。



「それじゃあ、ソースの方を作っていくよ」


 オリバーさんに、その為の食材や調味料などを用意してもらった僕は、調理に取りかかった。


 先ず、ニンニクはみじん切り、ベーコンは細切りにする。


 次に、フライパンにオリーブオイル、ニンニク、ベーコンを入れ、中火でじっくりと炒める。


 そして、白ワインを入れて少し煮詰める。


 それから、トマトソースを入れて、中火でじっくりと煮てトロみがつくまで水分を飛ばす。


 最後に味をみて、塩、胡椒で整える。


 その間に、鍋で午前中に作って乾燥させておいた生パスタを茹でておいた。


 その茹であがったパスタをフライパンに入れ、トマトソースとよく絡めて完成だ。


「出来たよ」

「うーん、いい匂いですね。最初はどうなるかと思いましたが、これなら期待出来そうです」


 オリバーさんがすーっと鼻で香りを吸い込みながら顔を綻ばせる。


「それじゃあ、皿に盛りつけて、食堂の方に運んでもらおうか」



   §



「あら、何だか今日は見た事のない変わった料理がありますね」


 食堂のテーブルに着いた母さんが、不思議そうな顔で僕の作ったトマトソースパスタをじっと見つめる。


「オリバー、これは何ていう料理なんだい?」


 父さんが、後ろにメイド達と一緒に並んで立っているオリバーさんに尋ねた。


「その料理は『トマトソースパスタ』というものらしく、私ではなく、デュアル坊っちゃんが作りました」

「デュアル君がこれを?」

「まあ、それは凄いですね」

「デュアル、貴方料理何ていつ覚えたの?」


 父さん、母さん、リノア姉さんが、それぞれ驚きの言葉を発した。


 僕は、オリバーさんにしたのと同じ説明を語って聞かせた。


「そんな事が⋯⋯不思議な事もあるもんだね」

「デュアル君は、神様に選ばれたのかもしれませんね」

「そんな事より、早く食べましょうよ! さっきからいい匂いがして、たまらないわ!」


 リノア姉さんは待ちきれないご様子だ。


「そうだね。それじゃあ、神よ、この恵みに感謝します」

「「「神よ、この恵みに感謝します」」」


 祈りを捧げると、リノア姉さんは、真っ先にトマトソースパスタにフォークを入れて食べ始めた。


「んー! これ、凄く美味しい!」

「本当ですね。今まで食べた事のない味です」

「トマトの程よい酸味と甘みが絡んで、そこにベーコンの塩気がいいアクセントになっているね」


 料理に舌鼓を打つ三人からの称賛を受けて、僕も食べ始める。


(うん。美味しい。思った以上によく出来ている)


 本当は、生クリームやコンソメを使ったり、粉チーズを上からかけると、もっと味にコクが出るんだ。


 けれど、今はまだそれらは手に入らないから、仕方ない。

 あの味気ないパンやスープに比べれば、格段に美味しいのだから、今はこれで我慢する事にしよう。


 そんな家族に大満足された、楽しい夕餉の時間だった。





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