第35話 入学式
「──近々、帝国との間に大規模な戦争が起きると予想されている。そこで君達の力を借りなければいけない事態にも陥るかもしれない。そのような危機的状況にいつ襲われてもいいように、この充実した設備を有する学園で、学び、鍛練し、研鑽に励んで欲しい。君達が、大きく輝かしい成長を遂げることを期待している」
クロニクル学園長が、式辞を終えて壇上から下りる。
面接の時に、僕の理念を聞いて大笑いしていた美しいエルフの女性だ。
この人が学園長だとは思わなかった。
それからも式は粛々と進められ、次は新入生総代の宣誓となった。
「続いて、新入生総代による宣誓です。新入生総代、シリウス・フォン・ディースターヴェーク」
魔導具を用いてのアナウンスによる呼びかけに、シリウスは返事をすることもなく立ち上がると、居丈高な態度で壇上に上がった。
「由緒正しき『八芒星』の一星、火を司るディースターヴェーク家の嫡男、シリウス・フォン・ディースターヴェークだ。俺は、この学園を、高貴なる青い血を持ち、かつ力ある者が支配する場所へと変えていくつもりだ。そこでは、序列と身分が高い者が、下位の者を管理し、命令に従わせ、それに背いた場合は排除する。その統制されたシステムが秩序を生み出し、平穏をもたらす、この世の真理だ」
これだ。
ゲームで聞かされたのとまったく同じ宣誓。
そんなのは、ただのディストピアじゃないか。
居並ぶ新入生たちからも、不満のざわめき聞こえるが、シリウスは、それらを気にすることもなく壇上から下りた。
「次は、在校生代表による挨拶です。在校生代表、生徒会長アストリア・フォン・マイヤーズ」
「はい」
返事をして立ち上がった緑色のショートヘアの彼女は、『八芒星』の一星、雷を司るマイヤーズ家の嫡女だ。
アストリア生徒会長は、壇上に上がり話し始めた。
「新入生の皆さん、入学おめでとう。在校生を代表して心より歓迎する。では、さっそくだが、このウァリエタース王立学園の特色というものを、私から説明させてもらう。我が学園における特色の一つに、序列制度というものがある。これは、生徒一人一人の能力に応じて順位をつけ、上位である程に、学園側から、様々な特典を受けられるというシステムだ。卒業時点の序列とクラスで、企業や大学からの評価が変わり、進路や将来設計に大きく関わってくる。他、在学中に受けられる恩恵として、序列ポイントというものがある。これは、毎月生徒達に支給されるポイントで、序列の高い順位に、より高いポイントが与えられる事になっている。このポイントを、学園内の施設で使用する事で、武器や防具、アイテムの購入やレンタルなどの他、学生食堂での食事、訓練所などの利用が出来たりする。序列ポイントは、決闘で相手から奪うことができ、低ランクの生徒が高ランクの生徒を破る程に高いポイントを奪う事が出来る。この時、序列も相手と入れ替わりだ。下位の者でも、決闘で勝ちさえすれば、一回で下剋上できるというわけだな。ただし、同じ相手に挑めるのは三回まで。一回挑戦するごとに、インターバルとして三ヶ月は空けないといけない。また、序列ポイントが得られるのは、決闘だけではない。授業で行われる試験や模擬戦、定期考査、また各種イベントでも、結果に応じてポイントが進呈されるようになっている。そして、卒業までに計10000ポイントを貯めた生徒は、可能な範囲であれば、なんでも一つ願い事を叶えてもらう事が出来るという破格の特典も用意されている。ここまで長々と話したが、私が言いたい事は、この学園では、力を示した者にはそれに値するだけの見返りがあるということだ。だが、それが果たせなかった者には苦しい生活となるかもしれない。だからといって甘えることはできない。君達がどういう未来を迎えるかは、君達自身にかかっている。己の力で栄光を掴みとれ! 私からは以上だ」
最後に力強く激励の言葉を投げかけて、アストリア生徒会長の挨拶は終わった。
§
式が終わり、僕達はSクラス教室に移動した。
扇を広げたような教室の窓際の席に皆で並んで座る。席は特に指定されていなかった。
僕達が四人で会話していると、同じSクラスのイーリス王女殿下が、長い水色の髪をなびかせながらやってきた。
「デュアルさん、お久しぶりですっ! こうして同じSクラスになれて、私嬉しいですっ!」
「イーリス第二王女殿下、お久しぶりです。あれから体調の方はどうですか?」
「おかげさまで、もうどこも悪くありません。元気一杯ですっ!」
「そうですか。それはよかった」
「それと、せっかくこうしてクラスメイトになれたことですし、私のことは、イーリスと呼び捨てで呼んで、口調も、他の友人の方にそうするように、砕けたものにしてください」
「え? ですがそれは⋯⋯」
「いいですね? これは王女としての命令です」
人差し指を顔の前にビシッと突きつけられて告げられた。
「はぁ⋯⋯分かったよ、イーリス。これでいいだろ?」
「はいっ!」
イーリスが、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「私はデュアルの姉のリノアよ。私もそう呼んでいいかしら?」
「ええ、もちろんです。リノアさんですね」
「私は、デュアル様のメイドのレティシアといいます」
「私、ニベア。よろしく」
「レティシアさんに、ニベアさん。覚えました」
そこに、セリア嬢がやってきた。
「イーリス、元気そうね。あの後、後遺症なんかが残らなくてよかったわ」
親しげに話しかける。
セリア嬢とイーリスは従姉妹同士になるからね。小さい頃からのつき合いがあるんだろう。
「セリア、しばらく見ない内に、また綺麗になりましたね」
「貴女もね」
そんな風に会話する僕たちをじっと見ている視線があった。
ゲーム主人公のアヴィだ。
少し離れた席で、こちらにきたそうにしているけれど、逡巡しているみたいだ。
セリア嬢に話しかけたいけど、イーリス王女がいるから躊躇われているのだろう。
ゲームだと、既に二人は繋がりを持っている。
あの入学式前の掲示板の近くでのイベントで知り合うからだ。
そこでフラグを立てられなかったことで焦っているのかもしれない。
そう言えば、この学園をディストピア化すると宣言したシリウスはどうしているんだろうと視線を巡らせると、廊下側の席で、数人のクラスメイトにとり巻かれていた。
セリア嬢に、自分の作るグループに加わるように言っていたからな。
さっそく、自分の権威に擦り寄ろうとする生徒たちを囲もうとしているんだろう。
僕がセリア嬢たちの会話を聞きながら、他の主要なゲームの登場人物たちを観察していると、ドアを開けて大人の女性が入ってきた。




