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第30話 受験一日目 筆記試験


 ついに、王立学園──正式名称ウァリエタース王立学園の受験日がやってきた。


 冬の朝。

 ライムを絞った時のように、キュッと引き締まる感のある、その肌に刺すような冷たい空気。

 それを浴びながら、皆で王立学園の門を潜り、その敷地内に足を踏み入れた。


 受験資格は十五歳からだけれど、学園は大人にも門戸を開いているので、上限は定められていない。

 その為、中には、二十歳を超えているように見える者達も、ちらほらと見受けられる。

 種族も、エルフや獣人などが少数ながらいて、多種多様だ。


「ここが私達が三年間をすごす事になる王立学園ね。立派な建物じゃない」


 リノア姉さんが、見定めるように言った。


 広大な敷地の中には、複数の棟が立ち並び、大規模な複合施設となっている。

 教室棟や寮、図書館、訓練場などだろう。

 中でも目を引くのが、巨大な円形闘技場(アレーナ)だ。

 数万人規模の人数を収容可能なそこは、毎年秋に行われる国祭となる〈竜星祭ドラコーニス・フェストゥム〉の時に、学園対抗戦──〈竜戦ベッルム・ドラコーニス〉の舞台となる場所だ。

 それらは、大作RPGゲーム〈黎明のエヴァンジル〉でよく知っている事。


「私は、図書館にいって、色んな本を読んでみたいです」


 レティシアは知識欲が旺盛だからな。邸でも、時間が空いている時は、父さんの書斎から借りた本を何度も繰り返し読み返していた。

 王立学園図書館は、この国一番の蔵書数を誇っているから、そんな本の虫である彼女には天国みたなものだろう。


「私は、園芸がやりたい」


 どこまでもマイペースなニベアも、余裕が見える。

 この王立騎士団では、クラブ活動も盛んだから、そういうクラブに入ってみるのもいいんじゃないかな。


 そんな事を考えていると、知らない誰かに声をかけられた。


「おい、お前、凄ぇ美少女ばっかり侍らしてんな! 俺にも紹介してくれよ!」

「君は?」

「俺は、スヴェン・フォン・サイファート。子爵家の三男だ。よろしくな!」


 そう陽気に言って手を差し出してくる。


 薄緑色の短髪を立ち上げた、多分、僕と同年代くらいの少年。

 シャープな輪郭と太く直線的な眉が印象的だ。


 僕は、「こちらこそ、よろしく」とその手を握り返すと、


「僕は、デュアル・フォン・フォルマ。実家は伯爵家だけど、僕は去年叙爵して男爵になったんだ」

「デュアル? もしかして、あのチェスとかトランプとか作って叙爵されたっていうデュアルなのか?」


 彼──スヴェンが驚きを見せながら聞く。


「そのデュアルだよ」

「そうか! お前、俺と同い年なんだろ? それなのに叙爵とか凄えな! せっかくこうして知り合ったんだから、学園でもよろしくやろうぜ!」

「そうだね。彼女達ともどもよろしく頼むよ」


 そのリノア姉さん達は、学園の施設を見ながら会話している。


「なあ、彼女らって、どんな子たちなんだ? お前の親戚とかか?」

「姉と専属メイド達だよ」

「メイドにも受験させんのか。変わってんな。俺は目の保養になるから大歓迎だけど」

「彼女達に、どうしてもって頼まれてね」


 僕はそう答えてから、腕に嵌めた時計に目をやりつつ伝えた。


「そろそろ時間だよ」

「それ、最新型で売り出されてる魔道具の腕時計じゃねえか!」


 とスヴェンは目敏く気づいて驚きを見せると、


「うちの家、代々魔道具師やっててさ。俺も魔道具にはちっとばかしうるせぇんだよ。お前、凄ぇもん持ってるな。上級貴族でもそうそうは手が出せないやつだぞ、それ」

「ちょっとしたツテがあってね。通常よりも安く手に入れられたんだ」


 そのツテとは、言わずと知れた行商人のニコルさんだ。

 この〈黎明のエヴァンジル〉の世界における文化や文明は、食事や活版印刷などの面では中世ヨーロッパをモデルにしている。


 けれど、魔道具は違う。

 日常生活の利便性を向上させたり、冒険で役立ったりするそれらの技術は、現代の科学技術に並び、時にはそれを(しの)ぐ程だ。

 空を海を航海するように飛ぶ飛行船、空間に投影される映像、声を遠くに飛ばせる音響装置、エトセトラ──。


 何故そんなちぐはぐな事になっているかというと、それは、今から約千年前に滅びた古代の統一王朝レガリアが関係している。

 現在流通している魔道具は、どれも古代王朝レガリアの遺跡から発掘された魔道具を元に造られたもの。

 ただ、それを模倣する事しか出来ず、その高度な魔導技術の仕組みについてはほとんど解明されていないんだ。

 現代でいう『オーパーツ』みたいなもの。

 だから、元々の技術はあまり進んでおらず、他の文化や文明と足並みを揃えている。


 とまあそんな古代王朝の高度な魔導技術を模して造られているこの腕時計。

 現代の高級腕時計をモデルにしてデザインされているだけあって、文字盤なんかも美しいし、悪くない買い物だったと思ってる。


 学園生になると、学生手帳の代わりとして、まるで現代のスマートフォンのような多才な機能を持つ腕輪が配布される。

 だから、それで時間を確認する事が出来るようにはなる。

 けれど、わざわざ起動するのも手間だし、一応男爵としてのステータスってやつも必要だからね。


「それより、早く試験会場にいこう。遅刻して不合格になりでもしたら、目も当てられないよ」



   §


   

 夕方まで及んだ筆記試験。


 それを無事終えた僕達は、宿屋への帰路についていた。


「皆はどんな感じだった?」


 リノア姉さんが、僕達に尋ねた。


「私は、かなり手応えを感じられた出来だったわ。アンセルさんに勉強を見てもらった甲斐があったわね」

「僕も、頭を悩ませる事もなく、スラスラと解けたよ」


 前世では、これでも一応大学院まで進んだ経歴があるからね。

 こっちの世界で、もう一度基礎からやり直したし、高校入試レベルの学問であれば、解くのは容易いよ。


「私も、いい結果が出せると思います」


 とレティシア。


「私も」


 とニベア。


「そう。それじゃあ、後は、明日の実技試験でもいいところを見せて、皆でSクラスを目指しましょう!」


 力強く鼓舞するリノア姉さんの言葉に、僕達は揃って頷きを返した。




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